YOUNG-GUNS#001

落語家・瀧川 鯉斗ものがたり。(前編)

Illustrat:SUGI

People / nov.21.2018


さまざまな人の歴史を切り取り物語にする「YOUNG GUNS」。
第1回目となる今回は、
落語家・瀧川 鯉斗(たきがわ・こいと)さんのストーリーをクローズアップ。
※実話をもとに、ちょこっと辛めのスパイス(フィクション)で味付け中。



憧れの背中


中学生の頃に憧れた背中は、
たくましくて少しやんちゃな雰囲気をまとっていた。
役者を目指していた頃に憧れた背中は、
長い経験を積み、人を引き込むエネルギーをまとっていた。
暴走族の先輩と落語家の師匠。
この二人の背中に彼は憧れた––。



一人目の背中:暴走族の先輩。

かつてはサッカー少年だった。ポジションはゴールキーパー。愛知県選抜に選ばれたこともあった。「いつか日本代表としてW杯に出場できるかもね」なんて周囲から期待されるほど、将来を有望視されていた。もしサッカーにずっとのめり込んでいたなら、彼はまた違った景色を見ていたのかもしれない。でも、彼は違う道を選んだ。

チームの戦況を最後尾で眺めている間、彼はいつもサッカーとは違うことを考えていた。「昨日の大暴走は盛り上がったな……」。大抵はそんなこと。

昼はサッカー少年、夜は暴走族。世間体は決して良くないから、おおやけにはできなかったけれど、彼には二足の草鞋があった。

暴走族に入ったのは、15,16歳の頃。中学の先輩に勧められ、軽い気持ちでチームに入った。その先輩は端正な容姿で、仲間思い。そして、いつも輪の中心にいた。暴走族=“悪(ワル)”。誰に反対されようとも、当時は先輩のような生き方がカッコイイと思っていた。それに、元々やんちゃだった彼は、学校の先生が言うような正しい行いには一切興味がなく、その蚊帳から外れたところにある悪行のほうがずっと面白かった。先輩の背中から学んだことは、仲間を大切に、今を楽しむ。そんな日々に、彼は満足していた。

数年後、チームの総長になった彼は、多い時は300人の仲間を連れて、毎日のように名古屋市内を走っていた。暴走行為の時のポジションは、けつまく。最後尾を走るけつまくは、集団走行の輪に入ってこようとする警察車両を阻止する役割。いわば、暴走行為の守りの要。サッカーから暴走族へ、フィールドこそ違うが、彼にとって最後尾での戦いが、一番楽しめる場所だったのかもしれない。


二人目の背中:落語家の師匠。

18歳を迎える目前、彼は暴走族を引退した。暴走族を辞めた経緯は、正直今でもよく覚えていない。溜まり場に行ったとき、ふと違う道に進んでみたいと思った。本当にただそれだけ。

次の興味は役者。エドワード・ノートンとブラッド・ピットが出演する『ファイト・クラブ』の世界観が好きな彼は、上京して役者を目指した。上京後は、日銭を稼ぐため、レストランでアルバイト。ただ、敬語を使えないから、オーナーも料理長もみんなくん付け。「鈴木くん」「山田くん」「田中くん」みたいな感じ。生意気なアルバイトとして、煙たがられることもしばしばだった。

そのバイト先で、ある日、落語の独演会が開催された。高座に上がったのは瀧川 鯉昇(たきがわ・りしょう)。独自のテンポで話し、卓越した言葉遊びで観客の心をつかむ人気落語家だ。演目は「芝浜」で、夫婦の愛情を描いた人情噺。彼はその鯉昇の噺に引き込まれた。「落語家と役者は似ている。それに、ずっと舞台の上で何役も演じることができる」。彼の目にはそう映った。

「弟子にしてください」。

独演会後すぐに鯉昇の元へ駆けつけ、彼は頼み込んだ。

「寄席を見たことはあるのか?」
「……ありません」。
ただ、落語については、ド素人。

それから、彼は新宿や浅草にある寄席に通うようになった。上座、下座、マクラ、オチ、古典落語、現代落語……、落語の勉強はそんな基本的なところから。寄席に通ううち、落語の魅力にどんどんのめり込んでいった。
そして、再び鯉昇の元を訪れ弟子入りを志願。
「あそこがお前の仕事場になるぞ」。
「はい」。
そんな言葉を二言三言交わした、それがすべての始まりだ。…end

[profile]
瀧川 鯉斗(たきがわ・こいと)/落語家。公益社団法人落語芸術協会所属。愛知県名古屋市出身。アルバイトをしているときに師匠の瀧川鯉昇の落語独演会をきっかけに弟子入り。2005年に前座。2009年4月、二ツ目昇進。落語の伝統的な一面を引き継ぎなら、現代にも適応した落語のスタイルを目指している。2019年5月、真打に昇進予定。

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