THIRTY-AGERS #001 - Hiroaki Oba

「内に秘めているものは20代と変わらない」

photograph: Shin Hamada

People / may.18.2018

「20代のときよりもう一段階も二段階も深く考えられるようになった」と言えるのは、30代で確かな成長を自覚しているからだ。さらに、その時々で感じたことと真剣に向き合い、自ら答えを探しながら生きる彼には不思議と焦りがない。なぜなら、“なりたい自分”になるにはそれがもっとも近道だと気付いたからだと思う。武蔵小杉出身、ベルリン在住の32歳、Hiroaki OBAの物語。


いままでよりもう一段階も二段階も深く考えられるようになった


––30代を生きるってどんな感じ?
難しい質問だね(笑)。オレは28歳でベルリンに行って、ベルリンを拠点としている間に30歳を迎えた。精神年齢はいまだにそのときのままだと思っているんだけど、30代になって、いままでよりもう一段階も二段階も深く考えられるようになったよ。でもそれって良いことでも悪いことでもないと思うし、そういう事実なだけかもしれない。結局は年齢とともに成長しているってことなのかな。少なくとも20代前半よりは、立場が変わったり多少の蓄えができて、自由が利く範囲も増えたと思うしね。最近、友人によく「ポジティブだ」なんて言われるけど。

––前向きな性格なんだ?
極端なことを言うと、「死ななければいい!」っていう気持ちがあるんだよ。その友人が10年働いた会社を辞めようか悩んでいたときに言ったんだ。「大きな企業で10年も働いたんだからいろんなところからのオファーや良い話なんて当然あるだろ? 辞めるってすごく悩むことだと思うしその気持ちも分かるんだけどさ、いま悩んでいるくらいだったら前の会社のことは一度忘れろ」って。

––いつまでも悩みすぎるなってこと?
オレは悩みごとがあったらそのとき真剣に思いっきり考える。ベルリンに行くときだって金銭的なことを考えて計算だってしたしね。でも、そこに式ができて答えが出たなら「正解」だと思えるようになった。これなら大丈夫だって。

––ベルリンでの生活は?
ここ2、3年はゆっくりと制作の時間が取れて、納得のいく作品を作れたし、今後それが絶対に活かされると思っている。「Red Bull Music Academy」に行ったときは25歳で、ベルリンに引っ越したのが28歳。今年で33歳になるけど、正直言うと精神年齢は変わってない気がするんだ。とはいえ、20代のときには考えられなかったことを、いまだったらもうちょっと深くまで考えられているから、多少は大人になってるかな。うまく言葉にできないんだけど、20代でいろんな状況やタイミングがあったからこそいまの自分がある気がして。


内に秘めているものは20代と変わらないし、それがなければ今までやっていないよ


––20代のときよりも気持ちに余裕は生まれた?
大使館で働いていたときもそういう空気はあったし、もともと余裕はあったのかもしれない。たぶん楽観的なんだよ。そのギャップで彼女に怒られたりもするんだ。「ダラダラしてるのは面倒臭がりだからだよ」ってさ(笑)。

––いい意味で貪欲じゃないというか余裕があるというか。僕だったらすぐに結果を残さなきゃと焦るし、それが大きなストレスになるような気がするんだけど、それを感じないね。
自分じゃ言いたくないけど、そうだと思うよ。もちろんやらなきゃいけないって気持ちは当然あるから、やれることはやる。好きなレーベルや大きなレーベルからリリースしたいと思って制作しているしね。でも結局、採用するのはレーベル側だし、自分ができる以上のことを無理にパワープレイでやることは少なくともオレは得意じゃないんだ。自分に合ったライフスタイルがベースにあってこその活動だと思うしね。端から見たら確かに貪欲じゃないのかもしれない。でも、内に秘めているものは20代と変わらないし、それがなければ今までやっていないよ。

––制作も大切、それ以外のライフスタイルも大切。
そうそう。豪遊という意味でのいい生活ではなくてさ。食事は好きだから変に食費を削ったりしないようにするとか。きちんと飲みたいビールを飲むし、粗悪なワインは飲まないようにするとかさ(笑)。

––そういう意識はとても大切なことだと思う。
ベルリンで暮らす前にヨーロッパツアーの一環でアムステルダムに行ったとき、夕方に仕事を終えたおばちゃんやおじちゃんたちが、家の軒先の階段でお喋りしながら楽しそうにワインを飲んでいたんだよ。ヨーロッパは陽が長いから、21時くらいまで明るいんだけど、天気の良い平日でさ。その光景を見たとき、こんなに余裕のある人たちには敵わないって思ったの。いまの自分はなおさらあの光景の意味が理解できるし、それをやっている側というか。やるべきことをすべて終わらせたんだから、別に昼間から飲んでもいいじゃん!ってね(笑)。




30代に入って少しずつ心境が変わってきている


––周りのことは気にしない? 自分と比べたりさ。30代になるとそういう葛藤もある気がして。
近い友人や音楽仲間からの影響はいつもポジティブで、引け目を感じるってことはなかったし、いまでもそれは変わらないよ。同じタイミングで「Red Bull Music Academy」に参加して一気に売れたヤツもいれば、オレみたいにくすぶってるヤツも当然いるから。オレがやっている音楽の良し悪しって結局自分の感覚を信じるしかないと思うんだ。

––周りの反応がどうであれ、自分の感性を信じているってこと?
その通りだよ。いまはOpal Sunn(現在、彼が活動しているユニット)として相方のアレックスと制作しているから、彼が良いと言うものはもちろん取り入れる。オレが「大丈夫かな……?」って不安になっていたとしても彼が「大丈夫!」って言うならそれを信じるよ。そういう意味でも、アレックスに出会ってなかったらすでに日本に帰って来ていたかもしれないし。

––相方の存在はとても大きかったんだね。いつ出会ったの?
30歳になってすぐだったかな。ベルリンの共通の友達の誕生日会で初めて出会ったんだ。共通の知り合いも多かったし、お互いの存在は前から知っていて。プロデューサーとしての彼の活動もオレは知っていたしね。そのときに、「今度ライブセッションしよう」って話をしたんだ。それでいざやってみたらすぐに曲ができたし、すごく調子が良かったんだよ。その後、オレが1ヶ月間くらい日本に帰っていたんだけど、ベルリンに戻ってまた一緒に制作したら一気に曲が出来上がって。それがOpal Sunnとして初めてリリースしたEP「 Ⅰ (Part 1)」(Planet Sundae / 2017)に入っている曲なんだよね。

––なぜ彼だったの?
アレックスはいろんなパーティを数多く経験していたし、フロアで映えるグルーヴやビートをよく知っていた。ピアノをやっていたから、メロディアスなコードなんかもオレなんかより素晴らしいものを持っているしね。Planet Sundaeというレーベルを始めたし、オレもレーベルのクルーとして参加していて、イベントをやったり、今年の8月にはベルリンで小さなフェスもやるんだ。

––じゃあまだまだベルリンにいるんだね?
いや、もう数年かなとも思っている。必ず毎年、次の1年について考えるんだけど、ベルリンでの生活は充実しているし、音楽活動も順調だし、もう1〜2年はいたい。でも、今年の頭に彼女と別の話をしていたときに、あと1〜2年で日本に帰るのもありだなっていう考えが生まれたんだ。まだ決断はしていないし、それこそ今年の年末に改めて深く考えるかもしれないけどね。全然ネガティブな気持ちではないよ。

––それは結婚のこともあるのかな?
結婚だけだったらどこでもできるしあまり関係ないよ。少し前まではまだ帰りたくないって言ってたくせに、ポジティブにそう思える自分がいたからびっくりしているんだ。30代に入って少しずつ心境が変わってきているというか。

––でも、自分のことを理解しながら地に足つけて30代を生きているように感じる。
焦っている自分では、いつまで経っても“なりたい自分”にはなれないってことなのかもしれない。もちろん仕事の締め切りに追われたり、良い曲ができなかったり、いいライブができないと、「ワーッ」となって落ち込んだりもするよ。でもそういう瞬間的な感情は置いておいてポジティブになれるようにするんだ。だから、たまには一歩引いていろんなものを見ても良いんじゃないかなって思う。渦が巻いているところで揉まれるだけじゃなくて、一歩引いたらすごく楽になる気がするんだよね。もちろん、明日も仕事があって満員電車に乗らなきゃいけないかもしれないけど、ただその一部だって考えずにたまには一歩引いた自分もいたらって。日本の大物になるよりは、世界の中の小物になりたい。世界っていう広い中でポジティブに生きていたいってオレは思うんだ。


自分のことを理解しながら歳を重ねること


人生を生き抜く過程で何かを決心する瞬間というのは誰にでもあるはずだ。例えば、「絵を描きたい」「海外へ行きたい」「この会社で重要な仕事をしたい」、はたまた彼のように「音楽を作りたい」と思う人もいるかもしれない。そのとき、自分が何を思い、今後どうしたいのかを真剣に考えて次の行動に移る。もしかしたらいまの仕事を辞めるかもしれないし、それまでと変わらない生活を選択するかもしれない。どんな決断をするにせよ、いまの自分と向き合い、その瞬間に感じたことを理解しながら生きる。その積み重ねによって成長を実感できるのが30代なのか。「あれ? 前とは何か違う」って。そんな風に思いながら、いつだって彼は"彼のペース"で生きてきたのかもしれない。帰り際に彼はこう言った。

「自分の人生を振り返る機会なんてなかなかないから面白かったよ」

いまとは違う自分だったかもしれないけれど、これまでの人生を改めて考えた彼は、これからの30代をもっと前向きに生きていくのだろうと思った。


Hiroaki OBA/コンポーザー、プロデューサー。Sonar Barcelonac/o popSTTRØMBabyloy Soundgardenなどのフェスティバルを含むヨーロッパツアーやラジオ出演、日本国内ではSonarSound TokyoMetamorphoseRainbow Disco Clubなどに出演している。また近年は、自身の楽曲リリース以外にもGirds AwardRebecca MinkoffTAG Heuer等の映像作品やファッションブランド、ショーへの楽曲提供・音楽監修に力を入れている。2013年よりベルリンに拠点を移し、2015年からはAl Kassianとのライブユニット、Opal Sunnとしても活動している。
http://opalsunn.com
https://jp.residentadvisor.net/dj/hiroakioba
https://soundcloud.com/planetsundae


 

-Personal Items-



2017年にリリースされたOpal SunnのデビューEP「Ⅰ(Part 1)」(Planet Sundae)。続いてリリースされたEP「Ⅱ (Part 2)」がイギリスのDJ、アンドリュー・ウェザオールにNTS Radioで紹介されて話題に。


ベルリンで最初に買ったという機材、アナログエフェクターの「T-Resonator Ⅱ」。制作やライブに欠かせない一台として、いまでも愛用中。

 

Tag

Writer