THE AMERICAN VINTAGE FURNITURE / UNKOWN STORY-#3

幻の家具メーカー BROWN SALTMAN

Text : ACME Furniture

People / 2018.08.21

35年にわたりアメリカを中心としたヴィンテージ家具を取り扱い続けているファニチャーブランド、ACME Furniture。
昨年出版された『THE AMERICAN VINTAGE FURNITURE』は、そんなACME Furnitureがこれまでに買い付けてきたアイテムがずらりと並んだブランドの歴史を感じることができる一冊だ。
本連載では本誌では語られなかった、アイテムのバックストーリーを紹介していく。
第三回目は、アメリカの老舗家具メーカー“Brown Saltman”を掘り下げます。


About “Brown Saltman”






「幻の家具メーカー」、私が個人的にそう呼んでいるアメリカの老舗家具メーカー“Brown Saltman”。 アメリカのヴィンテージ家具市場では知名度の高いメーカーであるが、実はその多くが謎に包まれている。ネット検索をしても情報がほとんど出てこない。創業時期についても不明なのだが、 1930年代~60年代に製造された製品が多く残されている。製造拠点はロサンゼルス州。数名の著名デザイナーを起用して複数のコレクションラインを生産していた。
–––この程度の限られた情報しか残されていないが、アメリカのミッドセンチュリー時代に大きな影響を与えたファニチャーメーカーの一つだ。今回は同社で活躍した三名のデザイナーを紹介しよう。

Designer:John Keal


“Brown Saltman”の中で最も多くの家具デザインを残したJohn Keal。現在のヴィンテージ市場では彼の作品が一番多く出回っていることから恐らくBrown Saltman社のメインデザイナーである事が予測される。彼の作品は躍動感あるデザインと、高級感のある素材使いが特徴的で、作品の多くはマホガニーという木材が贅沢に使われている。マホガニーとは「黄金の木材」とも呼ばれ、高級木材の中でも上品で多彩な表情を持つ木材だ。現存している “Brown Saltman”の家具は経年劣化を重ねているため濁った茶色に変色しているものが多いが、劣化した塗装を全て剥離して、表面をサンディングした後、再塗装を施すことにより木材の表情が一変して黄金色に光輝く。長い年月眠りに付いていたJohn Kealの作品が新たに息を噴き返す。リペア作業の過程の中でも、この瞬間が特にたまらないのだ。






目黒店にあるJohn Kealデザインのドレッサー

Designer:Paul László


次に紹介するのは、“Brown Saltman”のコレクションの中でも重厚でダイナミックなデザインが特徴的な作品を多く残したデザイナーであるPaul László 。ハンガリー出身の建築家の彼は、ヨーロッパで多くの実績を築き、アメリカに移住後も建築や家具デザインなど様々なプロジェクトにおいて大きな評価を得てきた人物だ。多民族国家であるアメリカはその時代、家具のデザインにおいても自国の固定的なスタイルに囚われず、Paul László のようなヨーロッパ出身のデザイナーを起用した。異国のデザイン性を取り入れることにより、独自の製品提案を行ってきたのだ。恐らくPaul László がBrown Saltman社に携わった期間は長期間ではなかったのか、現存する彼の作品が市場に出回ることが少なく、とても希少価値の高いレアヴィンテージアイテムと言える。




Designer:Paul T.Frankl


多種多様なデザインを数多く生み出したBrown Saltman社であるが、その中でも異彩を放っていたのがPaul T.Frankl。彼の作品の多くはアールデコ調のデザインをベースに、直線的でミニマル、そしてカリフォルニアらしい温かみのある素材感が融合されたデザインが特徴的な作品を多く残した。彼の作品もPaul Lászlóの作品と同様で市場に出回ることが珍しく希少価値の高い存在である。オーストリア出身のPaul T.Franklは建築家としてキャリアをスタートし、家具や置時計など多岐にわたるデザインを生み出した。それらの作品はアメリカの美術館や博物館に納められており、自身が出版した書籍も残されているデザイン界の巨匠である。





今回紹介した三名のデザイナーの他にもBrown Saltman社ではGilbert Rohde、John Caldwell、Martin Borensteinなどの著名デザイナーがデザインに関わり、ミッドセンチュリー期アメリカのモダニズムに大きな影響を与えた。全ての作品において年々希少価値が高まり市場に出回る数が少なくなっている現状であるが、今後も出来る限り多くの“Brown Saltman”を発掘して日本で紹介していこうと思う。

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ACME Furnitureのオリジンに迫る!(前編)
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