ENDLESS SUMMER #3

することがない、という贅沢。

Contributed by Daisuke Endo

Trip / 2018.11.26

友人に会うこととほんの少しの予定を除いては、ニューヨークですることは特になかった。自然史博物館や自由の女神や、そういった名所もすでにひとしきり行ってしまっている。
通勤ラッシュのメトロに紛れる以外は、実際のところ暇を持て余しながら徒歩での移動ばかりだ。



ウィリアムスバーグから対岸のマンハッタンを眺めて、「どのあたりまで行ったらお腹が空くかな…」などと考える。



ブルックリンブリッジと違い、歩いて渡る観光客がいないウィリアムスバーグブリッジ。
まずはあそこを通ってマンハッタンに入ろう。



高いフェンスと鉄骨の飾り気ない橋。綺麗な建物が増えているウィリアムスバーグの川岸を見下ろしながら、ガタンガタンと騒々しく隣を走っていくメトロを横目に、「あのビルの屋上は養蜂をしてるな」などと考えながらのんびり渡る。





移動にはスケートが正解。空いてるし、風は涼しいし、路面は平坦だしまっすぐだし、スケーターはいちばん心地よくマンハッタンに渡る術を心得てる。
スケーターが現れるたびにその後ろをつけて歩いていくと、橋を渡り終えソーホーを通り過ぎ島を横断してチェルシーまで来ていた。のんびり歩いてだいたい1時間半、体感的には日比谷から渋谷まで歩くくらいの感覚。思いつく例えが味気ない。



チェルシーピアにはスケートパークがある。なるほどここにみんな来るわけだな。





みんな仕事は? 学校は? などとつまらないことを考えてしまうのは日本の企業戦士の性なのか。このすがすがしい時間帯に(しかも平日に)のんびりできるのはやっぱりいいことだ。 ウィリアムスバーグを出たのはまだ朝だったから、この時点でもまだ午前。このぶんだとセントラルパークの芝生で昼ごはんかも、と計算してまた歩き出す。

ハイラインを通って縦移動。だんだん暑くなってきた。





歩いていると、(決して褒められたことではないけども)つい近くを歩いてる人たちの会話に耳を傾けてしまう。誰かの噂や「これからどうする?」のぐだぐだ話、お父さんが子どもたちにするお説教、拗ねる子どものひねくれた返事。どれもこの街特有のものではないのだけど、なんとなくこのなんでもないマンハッタンで過ごす時間を確かに誰かと共有してる感覚になれるのが心地よい。



頃合いを見て右折して川を離れてくると、ちょうどコロンバスサークル! セントラルパークはもう目の前で、チェルシーピアからちょいちょい寄り道をして来ても1時間強。こちらは渋谷から新宿まで歩くくらいの感覚。東京でもよく歩いているからか、すぐ都内の距離感のイメージが思い浮かんできて、げんなりするようでもあり、浮ついていない自分に気付いて嬉しくなるようでもあったり。





初めてニューヨークに来たときは街全体が雪に覆われ真っ白だった。そのときの記憶が強かったから初夏のセントラルパークはひときわ鮮やかに感じた。ピクニック日和なのはわかるけど、やっぱり思ってしまう、みんな仕事とか学校は?



リスもおおらかな気持ちなのか、近い。



何もすることがないというのはそれはそれで贅沢で、縛りのない時間がまとまってとれて
こういう過ごし方ができるのも悪くない。
ウィリアムスバーグから歩いてきたちょうどいい疲れ具合と1日で一番気持ちのいい時間帯があいまって、
「この街の人間みたいでいい感じ」と悦に入っていると、泊まっている部屋の家主からメッ セージが。
「運転してたら歩いてる君を見たよ、きょろきょろしながら歩いてたけどあんなところに観光スポットあったっけ?」

思いっきり観光客っぽく見えたらしい。
まだまだだな。

それならいっそタイムズスクエアにも歩いて行って、なんならミュージカルを、
それも一番ベタなやつを見て王道観光ルートに乗っかってやろうと開き直ってセントラルパークを後にした。


アーカイブはこちら

Tag

Writer