小さな会社のメディアの作り方 #5

「見た目と、本質。」前編

Contributed by Ryo Sudo

By / 2018.07.09

「見た目と、本質。」




さて今回は、初代コンテナーを発行した後、2012年に僕たちがクリエイティブディレクションを務めた「Flower」という雑誌のお話です。

2012年と2013年に2号だけ発行されたこの雑誌をディレクションすることになったのは、ある小さな偶然からでした。普段からよく仕事をしていた知り合いの編集者から、ビーチをテーマにしたある女性雑誌の休刊に伴って、そのクライアントソースが次に出稿するためのメディアを探しているという相談を受けたのでした。

「ビーチ」というテーマはとてもわかりやすく魅力的だったし、もともと西海岸の文化が好きだったこともあって、それまでの雑誌の内容に「西海岸」的な切り口を盛り込めば、僕たちらしい新しいタイプの雑誌が作れるかもしれないと大きな可能性を感じ、大手出版社に新雑誌の企画を持ち込むことにしました。いくつかの出版社に相談しましたが「雑誌業界が厳しい時代を迎えているなか、このタイミングで新雑誌を創刊するのは難しい」とほとんど門前払いだったのですが、その可能性に期待してくれる出版社が1社だけありました。ただし、編集部だけではなく、広告営業も外部の僕たちで担当、最低限の営業ノルマを達成し、流通以外ほぼ外部のスタッフでチームを組んで制作するなら、というのが条件。つまり、企画内容に共感していただいたというよりは、広告の受け皿として魅力を感じていただいたというのが実際のところです。

それでも、自分たちですべてをディレクションする雑誌を発行できるということが、飛び上がるほどうれしかった。数日間はワクワクして、夜も寝ないで24時間その雑誌のことばかり考えていました。それから契約内容などをいくつか調整し、ようやく1号目の制作がスタートしました。

僕はその休刊した女性雑誌の出身者で、現在anna magazineでメインのコントリビューティング・エディターとして活躍中の女性エディターと編集チームを組み、制作を進めていきました。そのチームとしての企画・編集作業のプロセスでは、いろいろと面白かったことや難しいと感じることもありましたが、そのあたりは別の機会にお話させていただくこととして、今回一番話したかったのは「見た目と本質」というテーマについてです。

“Flower”は、たった2号で終了してしまいましたが、ありがたいことに発行して6年以上経った今でも「あの雑誌、とてもかわいくて今でも大切に取ってあります」と言ってくれる方もいらっしゃいますし、仕事をさせていただいているクライアントさんの中にも、ビジュアルづくりにおけるサンプル例として“Flower”の中の一企画を挙げていただけたりする機会もあったりと、数は決して多いとは言えないですが、一部のコアなファンを獲得することができました。







そういう方にお会いするたびに、僕はワクワクしながら「どんなところが一番面白かったですか?」と聞いてみることにしていました。すると大抵の場合「写真が素敵ですよね」とか「デザインがかわいいですよね」という見た目についての感想が多く、「この企画が面白かった」「あの文章が素敵だった」とか「掲載されていたスポットに実際に行ってみたいと思いました」など、内容についての感想や実際の体験についてのコメントがほとんどないことを不思議に感じていました。

けれど、よく考えてみたら、それは当たり前のことだったのです。

僕は以前この連載でお話しした初代コンテナで犯したミス(小さな会社のメディアの作り方 #2「やりたいこと、伝えたいこと 前編」)と同じことを、今回もまた繰り返してしまっていたのでした。つまり、「どんなことを一番伝えたいのか」を徹底的に突き詰めるという、メディアづくりに絶対欠かすことのできないプロセスを、こんな感じでいいんじゃない、というように、ぼんやりとしたムードのまま進めていたのです。どんなメディアも「伝えたいこと、伝えるべきテーマ」が明確でなければ絶対に成立しません。

伝えたいテーマの追求の代わりに僕が一番夢中になっていたのが、「どういう絵柄を作るか」「どんなデザインにするか」という、ビジュアルディレクションの領域でした。全体の企画構成は、よくあるカルチャー誌のフォーマットを想定し、「ファッション企画数本に海外取材企画数本、カルチャーページは外せないな、あとはコラムがあって…」と、台割をなんとなく決めたあとは、「ビーチっぽいファッションシューティングなら、どんな見せ方が可愛く見えるだろうとか、あの写真家のビーチの作品は素敵だったな」とか、ずっとビジュアルのことばかり考えていました。

いろんな資料から、参考になるビジュアルをザッピングのように集めては、なんとなくコラージュしながらビジュアルイメージを固めていく。それはとても楽しい作業でした。ティーンエイジャーの頃に雑誌や本から好きなものを切り出してノートにコラージュしていた経験を持っている人も多いと思うのですが、この時僕がしていたのは、それとほとんど変わらない作業でした。チョイスの基準は、これは好き、これは嫌いという自分のパーソナルで直感的な感覚のみだったのです。

(後編に続く)


アーカイブはこちら

Tag

Writer