『Sour Solutions』のスケートボード

Just One Thing #1

『Sour Solutions』のスケートボード

Shinya Ogiwara(イラストレーター)

Photo&Text: ivy

People / 2022.03.10

 街は、スタイルが行き交う場所だ。仕事、住む場所、友だち、パートナー、その人が大切にしていることが集約された「佇まい」それこそがその人のスタイルだと思う。
 絶えず変わりゆく人生の中で、当然、スタイルだって変わる。そんな中でも、一番愛用しているものにこそ、その人のスタイルが出るんじゃないかって。今、気になるあの人に、聞いてみた。
「一番長く、愛用しているものを見せてくれないか」


#1

 壁がない。常に自然体で、どこでも、誰とでも、分け隔てがない。イラストレーター、Shinya Ogiwaraとの対話を通して、得た印象だ。

 約束は、江東区北砂にある「Goofy Coffee Stand」で。先に着いていた彼は、店先のカウンターで仲間や他の常連客と談笑しながら、アップルパイを頬張っていた。入り口に立てかけた自転車とスケートボードは、一目で彼のものだと分かる。スペインのスケートブランド『Sour Solutions(サワー・ソリューションズ)』、Shinyaお気に入りのスケーター、Gustav Tonnesen(グスタブ・トネセン)シグネイチャーモデルだ。デッキテープにはShinyaのペイントが施されていた。



「スケートしていると、靴も服も基本入れ替わりが早くて...」

 遊びつくしてボロボロになったスケートボードこそ、彼が一番長く愛用している物だという。このデッキは、使用歴が2ヶ月。頻繁にスケートへ出かける時期は、1か月でデッキを替えることもあるとか。彼の身に着けるものは、基本的に消耗品。イラストレーターになるより前から、スケートに熱中していたShinyaにとって、それ自体が長年のうちに染み付いたスタイルだ。アーティストとして、絵が自己表現の手段であるとしたら、スケートは生活の一部。

「服とか靴は、普段使い用を買って、その中からくたびれてきたやつをスケート用に回してる。最初からスケートをするためのウェアやシューズを買うことはないかな」

 Shinyaの足元は決まってスケートシューズ。古着屋で漁ることが多いという服は、アメリカモノのワークウェアを中心に飾らない着こなし。いつでもスケートに行ける服装でありながら、基本的には普段着。わざわざスケートをするために買い揃えることはしない。

「スケートを始めたのは、地元の公園でたまたま見たから。高校時代に遊んでいたバスケットボールコートの隣にスケートパークがあって、ちょうどそのタイミングで弟が始めたんだ。最初は、弟に(スケートボードを)借りて、なんか面白そうだなって」

 いつもの公園で、ある日突然興味を持った「隣の芝」の遊びにのめり込み、やがて仲間たちと滑る日々が続いた。

「とにかく滑ること自体を楽しみたくて。パークだと他の人が常に見ているから、トリックの出来とか、できるトリックの難易度をつい他人と比べたくなっちゃうけど...僕はあまりそこを気にしないようにしてる」

 仕事へ行くように、食事をするように、音楽を聴くように、日常の中に組み込まれている。だからShinyaは、いつでも滑る準備ができているし、反対に気負いも感じられない。そんな暮らしを共にしてきたのが、このスケートボードという訳か。


 イラストレーターとしてShinyaが生む作品は、どれもポップで視認性が高く、所謂「おしゃれ」な作風でありながら、強いメッセージ性を持つ。その源泉は、スケートをして、友だちと談笑して、平日は仕事をしている、日常生活だ。

「インスピレーションを受けるものは、二つあって。一つは日常に起きる感情の揺らぎ、動き。もう一つは目にする写真や風景。元々写真を見るのが好きで、最初に絵を描きだしたときは模写から始めたんだけど、今でもアイディア探しに写真を見ることは多いかな。他人の写真は勿論だし、街中を歩いていて、気になったものを自分で撮ることもよくある」

 着想を得るため、常日頃、些細なことにも目を向けるからこそ、アイディアの引き出しが幅広い。音楽好きな友人と話していて気になった曲、たまたま見かけた戦時中の写真、ふとした瞬間に覚えた違和感。そういう私たちが普段素通りしてしまうような、言葉にならない気づきやひらめきが形になり、色を帯び、やがて躍動する。そうして創り上げられたShinyaの世界は、非常にパーソナルでありながら、誰に対しても親しみが持てる。

 日々インスピレーションを探しアウトプットする彼にとって、創作活動に勤しんでいる時間とその他の生活に明確な壁はない。

 スケートボードを担いで、街を行く今この瞬間も、その感性は揺さぶられている。アーティストとしての彼と、友人たちがパークで会う彼、いつもの店で見かける彼。すべてが影響しあっているんだ。

「軸足というか、重心を一か所に置きたくないんだよね」

 インタビューの最後で思い出したように口を突いて出た言葉が印象的だった。

 それは、単にアーティストとして、一個人としてのあり方は勿論、人やコミュニティとの関わり方でも一貫している。Shinyaの周りには、仕事も年齢も異なる、様々な友人がいる。インタビューをしたGoofy Coffee Stand。ここは、地元の人や通りがかりの人、そしてそしてジャンルを問わない様々なクリエイター、アーティストたちが集まるたまり場だ。彼はそういう場所に頻繁に足を運び、初めて話す人にも驚くほど早く打ち解ける。その姿を見ていると、生活の中で得られるインスピレーションが彼の最大のアドバンテージでもあるように思えてくる。

 様々なフィールドを往復する日々で気負わず、壁を作らず、フラットな視点で人や己と向き合うスタンス。それこそが、Shinyaの築き上げてきたスタイルだ。そして、そのスタイルを体現するものが、今回持ってきたスケートボードなんだ。



Shinya Ogiwara
イラストレーター。音楽や日常生活、趣味のスケートボード等から着想を得た、ポップ且つメッセージ性の強い作品が20代を中心に支持を集める。数々の飲食店やアーティストとのコラボレーション、2022年にはアメリカのR&Bシンガー、Pink Sweatsの新曲MVでアートワークを手掛ける等、幅広く活躍。現在、錦糸町PARCO5Fにあるアーティストショップ、『Dasak Mart』にてPOP UPを開催中。
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