『Levi’s』のデニムと<br>『Minimal』のライダース</br>

Just One Thing #4

『Levi’s』のデニムと
『Minimal』のライダース

JOE (学生・ショップスタッフ) 、ジヒ (デザイナー)

Photo&Text: ivy

People / 2022.04.21

 街は、スタイルが行き交う場所だ。仕事、住む場所、友だち、パートナー、その人が大切にしていることが集約された「佇まい」それこそがその人のスタイルだと思う。
 絶えず変わりゆく人生の中で、当然、スタイルだって変わる。そんな中でも、一番愛用しているものにこそ、その人のスタイルが出るんじゃないかって。今、気になるあの人に、聞いてみた。
「一番長く、愛用しているものを見せてくれないか」


#4

 デートに何を着ていこうか考えていると、時計を見るのを忘れてしまう。大好きな人と会うために、ここぞという服を用意する。こんなにドキドキして、心躍る時間はなかなかない。それは、初めてのデートだって、長年の付き合いだって変わらない。更にいえば、一緒にいるとき、お互いのスタイルを素敵と思える関係性、思い浮かべただけで羨んでしまう。

 4月になり、一気に春めいて、道行く人がコートを脱いだ渋谷の街。JOEとジヒの2人は、約束の場所へ現れた。青山にある某老舗アメトラブランドの旗艦店で働くJOEは、現在大学生だ。共通の知人を介して知り合った、韓国生まれのデザイナー、ジヒと付き合って2年になる。

 そんなジョーがこの日着てきた長年の愛用品は、ヴィンテージの『Levi’s』ブルーデニム、501。生まれて初めて買った古着とのこと。今やアメトラスタイルと古着のミックスが定着している彼の原点ともいえる一本だ。



「中3の時、大宮の古着屋さんで買ったんだよね。学校帰り、制服でガチガチに緊張していたからさ(笑)。入ったはいいけど何も買えなくて、出ちゃったの。で、気になって後日顔を出して、3回目行ったときに店員さんから話しかけられたんだ。『よく来るね。服、好きなの?』って。その時にこれだけは持っとけ、みたいにオススメされたやつ」

 ハットを被ったクラシカルなスタイルに、空色へ熟したブルーデニムが色っぽく映える。スタンダードなシルエットだからこそ、テイストを変えるアクセントにも使いやすい。

 隣に立つジヒも根っからの古着好き。幼い頃からファッションが好きだったからこそ、そのこだわりや愛着も深く、強い。



「彼のスタイルを見て、昔、古着をよく着ていた自分を思い出したの。戻ってきたというか。最近また、古着を着るようになって」

 ジヒの愛用品は、6年間着続けている『Minimal(ミニマル)』のレザージャケット。デザイナーである友人のブランド(現在は休止中)で、譲り受けたものだとか。黒を基調にしたモノトーンのコーディネートで、珍しいデザインが目を惹く。昔から好きだったというパンクスタイルを意識して、丈は短め。自身も創り手、デザイナーである彼女は、素材、特にレザーに並々ならぬこだわりがある。長持ちすること、少しずつ変わる質感、そして革の香りまで。今のジヒが持つスタイルのみならず、作り手としてのこだわり、偏愛を体現している一着だ。

 この話を聞いているうちに、JOEが頷きながら付け加えた。



「ボーイッシュが好き、って訳ではないけど…。僕が好きなものを着こなせている女の子を見ると素敵だなあ、と思って見ちゃう。純粋にかっこいいな、って。今日、彼女が着ている、ライダースとか、デニムとか」

 二人がお互いのスタイルにも惹かれあっていることが言葉を通して伝わってくる。理由は言葉ではっきりとはいえないけれど、譲れないこだわり、愛着が断ち切れないもの、頭に染み付いたイメージ…。感覚的で、だからこそ簡単には動かないもの。そういうものが共有できているパートナーへの、リスペクトとも、信頼ともとれる眼差しがある。

 さて、そんな二人は、今まさにファッションに関わる仕事をしながら、入口は全く異なる。共にファッションへの目覚めは10代の頃。とはいえ、その洗礼がJOEはアメトラ、ジヒはパンクとまさに正反対!

 今では想像もつかないけれど、10代のJOEは、現在とはかけ離れたスタイルだった。



「最初ファッションに興味を持ったのがすごく『きれいめ』なスタイル。シャツはジャストサイズ、パンツは細身、みたいな。あとは、通っていた学校がブレザーの制服だったんだよね。そういう意味では、アイビールックとかアメトラみたいな、教科書があるファッション、というのが自分に合っていたと思う。当時はまだアメトラを意識していたわけではないけど…入り口はそこで、だんだんその存在を知って」

 そんなタイミングだから、中3で買った今日履いているデニムも最初はあまり履かなかったという。

「まだ501みたいなストレートデニムの良さには気づいていなくて。あとは、ブルーデニムの武骨さ、かっこよさもまだわからなかった。高校時代、バイク好きな家庭教師のおじさんに『布教』されて、そこからかな。土臭さ、男臭さ、みたいなものへの憧れは」

 予想だにしないきっかけだ。それでも、徐々に今の原型となるスタイルへ寄っていったのだから、現在に通じているのは間違いない。そんな普遍的な装いを追い求めてきたJOEに対し、ジヒは前述の通り、目覚めはパンク。

「韓国に『Crying Nut』っていうバンドがいて。10代の頃、ずっと好きだったの。あとは、その時ちょうど韓国で日本のモデルとかファッション誌が人気になっていて。YOPPYとか窪塚(洋介)とか…その影響も受けたかな」

 後に日本でデザインを学び、キャリアをスタートする彼女の原体験だ。

 お互い、違った道のりを経て、今のスタイルが完成したことが垣間見えるエピソードが少しずつでてくる。大切なパートナーも、知り合う前はそれぞれ人生を歩んできている。その過去が積み重なり、創り上げられたものが、今のスタイルであり、今の自分自身だ。

 スタイルは、単なるファッションのテイストではない。それまでに夢中になったことや、どうしても断ち切れない思い、忘れられない体験…そういうものが一本、一本の糸のように絡みあってできている。だから、街をゆく人々に、同じスタイルの人はいない。共存できるスタイルはあれど、全く同じスタイルはない。これは、お互いにファッションに携わる人であっても同じこと。

 JOEとジヒ。生まれた場所も、育った環境も、今の仕事も。それぞれ異なる人生を歩んできた二人。そんな中で、お互いのスタイルを素敵だと思えている今の関係が二人にとって心地よさそうに見えるんだ。

 そういえば、一人ずつだとクールに映っていたJOEもツーショットでは、この笑顔。うん。やっぱり、羨ましい。




JOE(佐藤誠之承)
大学生。学業の傍ら、青山にある老舗アメトラブランドの旗艦店でスタッフとして働いている。古着のフリマイベント主催やDJとしてクラブに立つなど、ファッションの枠に収まらず、アクティブに活動中。趣味はバイク、レザークラフト。
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ジヒ
デザイナー。韓国生まれ。ファッション雑貨を扱う商社での仕事を経て、小物、帽子のデザインへ興味を持つ。日本の学校でデザインを学んだ後、デザイナーとしてのキャリアをスタートした。ファッションやポップカルチャーでも大の日本好き。
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