古着のシャツ

Just One Thing #20

古着のシャツ

Lewo Chyba(音楽プロデューサー、DJ)

Contributed by ivy -Yohei Aikawa-

People / 2022.12.01

 街は、スタイルが行き交う場所だ。仕事、住む場所、友だち、パートナー、その人が大切にしていることが集約された「佇まい」それこそがその人のスタイルだと思う。
 絶えず変わりゆく人生の中で、当然、スタイルだって変わる。そんな中でも、一番愛用しているものにこそ、その人のスタイルが出るんじゃないかって。今、気になるあの人に、聞いてみた。
「一番長く、愛用しているものを見せてくれないか」


#20

待ち合わせは、レコード屋(兼古本屋)。京都大学の熊野寮から歩いてすぐ、雑居ビルの4階にある『ほんとレコード』という店だ。看板もなくて、店へ向かう階段も途中であきらめてしまいそうなくらいひと気がない。場所を間違えたかと不安になりながら狭い階段を上がると、段ボールと古本の山に埋もれながら、レコードに針を落とす彼が目に入った。



「おっ、こんにちは!お疲れ様です!」

明るくて、よく通る、親しみの持てる声だった。いい換えるなら、「テクノミュージックのDJ」といわれてイメージする、ステレオタイプと最もかけ離れた声かもしれない。声の主は、音楽プロデューサー、DJのLewo Chyba(レヲチバ)。京都を拠点に活動するダンスミュージックのレーベル『ARKUDA LABEL(アルクダ・レーベル)』を創設した。現在は国内外のアーティストを手掛けながら、自身も演者としてフロアを湧かせている。

レコードが入った段ボールが床に並べられ、壁には本棚が張り付いた店の中で、目につくものは茶色い再生紙か、色褪せた表紙や紙ジャケばかり。この日Lewo Chybaが着ていたシャツは、その空間で唯一といっていいくらい鮮やかなブルーだった。4年前に京都市内の古着屋で購入したというこのシャツは、日常着としては勿論、クラブでも着ているというお気に入りの一着だ。

「服は特定のものを買いに行こうっていうよりは、古着屋に行ったとき欲しいと思うものがあったら買うって感じですね。その意味ではレコードも同じかもしれない。こうやってディグりながらいいな、って思ったものを手にとってます」

そういいながら次のレコードをターンテーブルへ載せた。



「いい曲かどうかは、フロアがブチ上がるイメージがわくかどうかで判断します。部屋で聴くのを前提に選ぶ人もいるけど、僕は現場のことを考えちゃうんですよ。何時くらいに、どんな人がいて、どのクラブで、僕の出番が何番手くらいか…とか色々。服もDJをしていて目につくか、どう見られるかを考えて選んでいます。このシャツなら、クールなイメージ、僕がメインでやってるテクノミュージックにハマります。よく考えたら、比較的大きなイベントに呼ばれたとき着ていることが多いかもしれない」

テクノやハウスのクラブにいるDJは、どちらかというと黒とかグレーとか暗い色味の服を着ているイメージが強い。そういう中で、ビビッドな服をまとったLewo Chybaはどうしたって目を引く。

自身が創り出す音楽を単なる音としてではなく、空間を支配する体験として考える。その視点は、現場に立つDJとしてのLewo Chybaならではなのかもしれない。クラブ、自身の音楽が持つイメージ、世界観を様々な形で体現する試みこそ、彼の自己表現といえる。

その上で、彼自身の音楽に対する譲れない持論をつけ加えた。



「ジャンルに自分のアイデンティティを預けちゃうのって、めちゃくちゃ危険な行為だと思うんです」

音楽活動をしていたら、どんな音楽をやっている?ってほぼ間違いなく聞かれるし、音楽ジャンルは必ずといっていいくらい話題に上がる。

「あれはテクノだ、とかハウスだ、とかベースだ、とか。ジャンルって基本的には先人の音楽に対して後から聴いた人がつけていくものじゃないですか。だから、『僕はテクノのDJだから』みたいにジャンルに当てはめるような活動をしてしまうと既存のものを超えられなくなるって考えていて」

Lewo Chybaが立ち上げた『ARKUDA LABEL』の活動スタンスにも、その考えは反映されている。

「レーベルのメンバーは住んでる場所も好きな音楽もみんなバラバラです。だから、リリースするアーティストも活動拠点やジャンルは限定していません。僕やメンバーが聴いて、いいなって思えるアーティストとは一緒に仕事をしています。友だちの作品だからってうちのレーベルに合うとは限らないし、逆にwebでたまたま聴いた全く知らない曲でも気になればコンタクトをとるし。あとは、他のメンバーから知らなかった音楽をレコメンドされて、興味を持つこともよくありますね」



レーベルを敷居の高い、特定の層の音楽好きしか受け入れないものにしたくない。初めてクラブへ来る人やそのジャンルに触れたことがなかった人にも門戸を広げ、想像もつかなかった、純粋にいいと思える音楽と出会う体験を届けたい。だからこそ、Lewo Chyba自身も貪欲なまでに自らの知らない境地に目を向け続ける。

「今の時代、情報はたくさんあるけど、自分の知り得る範囲しか入ってこないですよね。AIが『こういうの好きでしょ?』って出してくれちゃうから、どんどん視野が狭まって…。そうなると創るものにも面白みがなくなっていく恐怖があります」

検索すれば情報は簡単に出てくるし、検索してもいないことが過去の自分から分析されて手元に届く昨今。それによってインプットの可動域が狭まっている人は少なくないはずだ。

「僕らより上の世代のDJがレコードをディグっていたのって、そうするしかなかったのが大きいと思います。今は家で音楽を探せて、それでもレコード屋へ行くのは自分で調べてもたどり着けない音楽を知るためなんです」

音楽というアウトプットを世に送り出しながら、インプットに対しての意志があまりに明確で力強い。それぞれが鮮度を失わないうちに回っているからこそ、彼の創る音楽が、場が、空間が刺激的且つ動的であり続けられる。



あまりクラブシーンでは見かけない鮮やかなシャツも、そうした彼が求め続け、提供したい刺激そのものといえる。

別のDJを聴きに来たクラブで、たまたま派手な服装の知らないDJがいる。どんな音楽をやっているんだろう…。こうなったら、既に彼の狙いにハマっているんだ。

そんなLewo Chybaは日頃、音楽以外でも自分や周りの人が目の向かない場所へわざわざ足を運ぶ。

「終電でUSJまで行って、閉園後の誰もいない園内をずっと見るのが好きですね。みんなが遊びに行く場所だから、みんながいる時間に見るものだけど…そうじゃないときに見ることないじゃないですか。早朝の始発間際にアトラクションがテスト運行するんですよ(笑)」

ひょっとして彼の音楽を聴いたら、ほんの少し気持ちがわかるかもしれない。確証はないけれど。


アーカイブはこちら





Lewo Chyba(音楽プロデューサー、DJ)
埼玉県越谷市出身。仙台市で育ち、現在は京都市在住。ダンスミュージックを中心としたレーベル『ARKUDA LABEL』を主宰している。12月1日にはUKのアーティスト、Peaky Beatsと共に同レーベルから新譜をリリース予定。また、音楽活動の傍ら京都大学に通う現役大学生でもある。

Instagram
Lewo Chyba:@lewochybamusic
ARKUDA LABEL:@newarkudalabel

Tag

Writer