うどん

海と街と誰かと、オワリのこと。#3

うどん

Contributed by Kite Fukui

People / 2023.01.10

大好きな海を離れ、アーティストになったオワリ。居心地の悪さを感じながら、それでも繰り返されていく毎日のあれこれ。「本当のボクってどんなだっけ?」。しらない街としらない人と。自分さえも見失いかけたオワリの、はじまりの物語。


大学受験も期末テストも終わって、卒業式まで授業もないので2週間の休み期間。進学する同級生は、上京の準備をしたり就職する人も家族で小旅行へ。僕は特にやることもないので波があればサーフィンをして、なければゆきの家で少女漫画を読んだり彼女の好きな画家の画集を見て説明を聞く。何がどう凄いのかあまり理解できないけれど、高校1年生の時に見せてもらった時よりなんとなくゆきの説明がわかる気がした。

登校日のことをすっかり忘れていて、時計を見る。今から着替えて向かっても間に合わない時間だから、とりあえずこの暖かい布団から出てシャワーを浴びることにした。首にシャワーを当てて、無意味に体を流す朝のこの時間が結構好きだ。
1度、「ずっとシャワーが流れてるから」と母に見られた事がある。うなだれているのだと思ったらしく、母はそっとドアを閉めた。
モクモクと体から湯気を放ち、制服に着替えてダイニングへ。

ーーテーブルの上に置かれたメモと朝ごはん。

「今日は、卒業前の登校日だよ。卒業式のスケジュールがわかったら休みを取るので教えてね、学校に置いてある荷物も持って帰れるなら持って帰ってきちゃいなよ。うどんはチンして温めてね。母より。」

母の朝ごはんは、うどんが多い。そしてうどんは僕が起きて食べる頃には、お箸で掴むと切れるほどに伸びている。
もともと柔らかめが好きな母のうどんは、お昼を跨ぐことは許されない。
昔お昼に食べた事があるけれど、それはうどんではなかった。
見るからにつゆを吸って伸びたうどんを、電子レンジに入れ出来上がるまで冷蔵庫にお茶を取りに行く。
コップにお茶を注ぐ頃にうどんが出来る。

「ギリセーフかな」

テレビを見ながら、伸びたうどんが切れないように器用に優しく食べる。
週末、記録的寒波がやってくるらしい。

「そろそろ家を出るけど、まだ学校いる?」

ーーゆきにラインを送る、すぐ既読。

「いるよ、荷物どうするの?オワリだけ結構残ってるけど」

「1回で持って帰れそうかな」

「厳しいと思うよ。。」

「ちょっと考える」

「了解、何時に来る?」

「もう出るから、30分後くらい」

「気をつけてね」

ーーウサギがスキップするスタンプを送る


続く。




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  • Kite Fukui

    1997年 東京都出身 アーティスト活動休止中。