卒業

海と街と誰かと、オワリのこと。#12

卒業

Contributed by Kite Fukui

People / 2023.01.25

大好きな海を離れ、アーティストになったオワリ。居心地の悪さを感じながら、それでも繰り返されていく毎日のあれこれ。「本当のボクってどんなだっけ?」。しらない街としらない人と。自分さえも見失いかけたオワリの、はじまりの物語。


ついにこの日がやってきた、卒業式だ。高校生活はサーフィンの練習と大会ばかりであまり記憶に残ることはないけれど、その分大会も波もない日は、ゆきとあきほが沢山遊びに連れて行ってくれた。今日は泣かないと決めている、これは男の意地だ。そして紳士的にちゃんとゆきに挨拶をする。自分が悲しくなるからって、無視をしたり避けるのは情けないと思ったから。

学校が休みの間にお母さんが制服をクリーニングに出してくれた。高校へ入学する前、サーフィンばかりであまり学校に行かなそう。と新品の制服ではなく同じ学校を卒業した知り合いの息子の制服をお母さんはもらって来てくれた。その卒業生は、入学で一式、途中体が大きくなってまた買い替えたため、2着分制服があった。そのおかげで僕はあまり学校へ行かないけれど入学からブカブカの制服を着ることなく、何となくいつもぴったりの制服を着ることができた。

独自の高校生活を送るにあたって、お母さんとお父さん2人と約束したことは
0点でも良いからテストの点数だけは正直に教えることだった。
幸い、ゆきとあきほのおかげで赤点をとることはなかったから安心してくれただろう。

いろいろなことを思い出しながら、綺麗になった制服に袖を通す。クリーニングしたばかりでシャツの襟が少し固かった。スラックスの綺麗なセンタープレスのおかげで少し細く見えてシュッとしている。制服に着替えたら、階段を降りて家族で朝ごはんを食べる。
笑わそうとしているのか、朝ごはんは伸びたうどんだった。

それから、学校へ向かって僕は何も考えず教室の前に立つ。
少し呼吸を整えて、扉を開ける。
3年間の癖か、扉を開けてすぐ無意識的にゆきの姿を確認してしまった
なぜかあきほと2人で僕の席にいた。ゆきは椅子に、あきほは机に座って。

ゆき、あきほ『オワリ、おはよう』

夢でも見ているのか。そう思ったいつもの日常が目の前にあったからだ。

僕「おはよう」

少し笑顔で挨拶をした、嬉しい気持ちと悲しい気持ちからなる寂しさとで席に向かう自分の手と足が同じ動きをしているかのようにぎこちない。

ゆき「よっ!」

ゆきは、さっぱりしていた。よっ!じゃねーよ。と突っ込んでみたくなったが

僕「よっ」

と返した

ゆき「元気?」

ううん、全然元気じゃないよ。とは言えない

僕「元気だよ、2人は?」

ゆき「元気よ」

あきほ「元気だよー」

見た目はやっぱり普通のいつも通りの日常だ。でも、3年間一緒に過ごした僕らにしかわからない、気まずい空気が薄らと感じる。

続く



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