テトラポット

海と街と誰かと、オワリのこと。#14

テトラポット

Contributed by Kite Fukui

People / 2023.01.30

大好きな海を離れ、アーティストになったオワリ。居心地の悪さを感じながら、それでも繰り返されていく毎日のあれこれ。「本当のボクってどんなだっけ?」。しらない街としらない人と。自分さえも見失いかけたオワリの、はじまりの物語。


引越しの日の朝、あまり眠れなくて4時に目が覚めた。このままベッドで寝ていても良いけれど今日はもったいない気がして、家族が目を覚さないようにそっと着替えて家を出た。まだ外は暗い、風もなく夜明け前の一番静かな時間。愛車の自転車は東京へは持っていかない、この潮風に当たった海街独特のサビは東京では浮いてしまいそうだから。

サビた自転車に乗って、夜明け前の漁港を一周する。夜釣りをしている人たちを見るのは意外と初めてだった。みんな、折りたたみの椅子に沈み込むように座り暖かそうなブランケットに包まってピクリとも動かない。椅子の横に置いてあるバケツに何匹か入っていて勝手によかった。と安心した。

漁港を過ぎると、海と繋がる駐車場がある。さっきの夜釣りの人たちの車と夜明けを待つサーファーの車が何台か止まっていた。端のほうに自転車を止めて靴を脱いで、靴の中に靴下を丸めて入れた。裸足で冷たい砂浜を歩く、よくサラリーマンが夕日を見つめ涙していた場所まで。

「涙の丘」

僕はそう名付けた。砂が風に運ばれ波消しのためのテトラポットを埋め尽くし丘のようになったこの場所で、何人ものサラリーマンが涙していたのを海の中から見ていたから。ここは涙の丘と呼ぶことにした。

涙の丘に着いくと、さっそくベストポジションに座ってみた。一息つくと自分の呼吸音を掻き消すほどに、波の音が風に乗って響いた。綺麗な朝日が昇って1日が始まった。泣いてしまうのかと思っていたけれど、そんな簡単に泣くわけなかった。最近枯れる程泣いたせいだろうか。

それでも、今日の海はいつも以上に綺麗だ。こんなにキラキラ眩しいと思ったのはいつぶりだろうか。いつもの海の、普通の朝日。

「いつだって帰ってこようと思えば帰ってこれるけど」

心の中でふと思ったが、そうじゃなくて。この砂浜を歩いたこと、この海でサーフィンしたこと、時間は帰ってきても見えない気がした。今ここでキラキラ光っている光一つ一つがいつかの時間と思い出で、それは今しか思い出せない気がした。

そして砂浜を歩いて自転車へ向かう途中、気がついたら泣いてしまった。

続く



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