違う嬉しさ

海と街と誰かと、オワリのこと。#46

違う嬉しさ

Contributed by Kite Fukui

People / 2023.03.27

大好きな海を離れ、アーティストになったオワリ。居心地の悪さを感じながら、それでも繰り返されていく毎日のあれこれ。「本当のボクってどんなだっけ?」。しらない街としらない人と。自分さえも見失いかけたオワリの、はじまりの物語。


真夏に開催した初めての個展は大成功だった。作品が知らない人ではなくて、手の届く知っている人達が買ってくれたことは凄く嬉しかった。だけど、個展が終わったあとジンは2回目からは知らないひとに買ってもらうようにしないといけない。と言った。その時いろいろ彼なりの考えを伝えてくれたけれど、完全に理解することは出来なかった。それからジンはレコーディング期間に入り、それが終わるとしばらくツアーで忙しく過ごしている。オサムは相変わらず仕事に追われて休みがなく、久しぶりにひとりだけの生活を過ごしている。

バイトへ行っても加藤さんも林さんもイベント続きでオフィスにはいないから、結局作業部屋で1人黙々と何かを作っている。誰もいないオフィスの電気をつけて、出社し誰もいないオフィスの電気を消して帰る。最初は寂しく感じるかと思っていたけれど、案外こっちの方が楽かもしれない。楽しいかと聞かれたらそれはみんなといる方が楽しいけれど。1人で時間を忘れて過ごすことは、忙しい日々に見えなかったり気づかなかったことを思い返すことができる。こういう時間も必要なんだと感じた。

最近、少しづつ肌寒くなって着る服が増えてきた。なぜかわからないけれど、薄着でいるよりも厚着でいる時の方が恋愛に前向きな気がする。夏に恋をしたいなんてお祭りの屋台を見た時にしか思わなかったけれど、今なんとなくカップルが羨ましく見えている。単に暇になっただけなのかもしれないけど。出会いがない。なんて絶望的なことを言いたくないけれど、実際のところジンとオサムがいないならパーティーに誘われても行く気にならない。ジンのライブに招待してもらったら行くようにしているけれど、会場は大体暗くて誰が誰だかわからない。その時が来たら何かが変わるかもしれない。今は休憩時間なのかも。

個展のあと、いくつか依頼が来た。どれもお洋服のグラフィックだったけれど、一つだけマグカップのデザインをした。入稿後、発売前にサンプルが送られてきて食器棚に自分のマグカップがある。これまでTシャツやパンツシャツ。身につけられるものばかりだったけれど、なくても別に困らない物を作れたことは凄く嬉しかった。別に僕のデザインがあるマグカップじゃなくたってコーヒーは飲めるけれどそれを選んでもらえることと、買ってくれた人の生活の中に取り入れてもらえることは他のものよりも嬉しさが違った。

少し休憩して、次の個展の製作を進める。


続く



アーカイブはこちら

Tag

Writer