なんでも

海と街と誰かと、オワリのこと。#47

なんでも

Contributed by Kite Fukui

People / 2023.03.28

大好きな海を離れ、アーティストになったオワリ。居心地の悪さを感じながら、それでも繰り返されていく毎日のあれこれ。「本当のボクってどんなだっけ?」。しらない街としらない人と。自分さえも見失いかけたオワリの、はじまりの物語。


ふわっとした毎日を過ごしている。バイトの休みはとにかく寝てしまうし、ご飯も作る気にならないからウーバーを頼む。最初は、いろいろなお店のご飯を頼んでいたけれどそれすらも面倒になってしまって。ほとんどマックかケンタッキーばかり。とにかく何にもやる気が起きない。。。。

あれは、ジン達が忙しくしていた時のことだった。個展に来てくれた人から突然、イベントをするから遊びに来てほしい。と連絡があった。時間はあるし、ジンもオサムも忙しいから遊びにいくことにした。渋谷と原宿のちょうど真ん中あたりの大きなスペースで、会場にはインスタグラムで見たことのあるインフルエンサーが何人かいた。ドリンクをもらってお洋服を見ていると、明らかに危ない雰囲気を漂わせた大人が3人こちらにやってきた。

大橋さん「オワリ君、来てくれてありがとうね」

僕「こちらこそありがとうございます」

大橋さん「ちょっと話せる?」

僕「はい、大丈夫ですよ」

そうだ、思い出した。彼の名前は大橋さんと言う。個展でジンが「菊池さんと同じ一派の人だから少し気を付けろ。」と言ってくれたにも関わらず、いま僕はすんなりと裏へ案内されている。超帰りたい。。。。

大橋さん「よかったら食べて」

僕「ありがとうございます」

彼は最近何をしているのか、よく誰と遊び会うのか交友関係を聞いてきた。必要以上に話す必要はないと思い、それなりに答えていると。「お待たせ」と菊池さんがやってきた。こんなに面倒くさいことはないだろう。

菊池さん「オワリ君、久しぶり」

僕「久しぶりです」

菊池さん「この前の個展、凄かったみたいだね」

僕「いえ、ジン達のおかげです」

菊池さん「ちょっと話したいことがあるんだけど」

僕「はい」

菊池さん「まだ、個展の売り上げの%もらってないんだけど。いつもらえるのかな?」

僕「なんのことですか?」

菊池さん「いや、この前の個展の売り上げの30%はもらわないと」

始まった。ジンがもしかしたらの、もしかしたら、まさかの、まさかだけれどこんなことを言ってくる大人がいる可能性があると言っていた。その時は連絡して、と言っていたけれど忙しい彼を巻き込みたくない。

僕「そんなことお話ししましたか?」

菊池さん「話すも何も、普通そうでしょ。うちがきっかけで売れてるんだから」

まぁ、それは確かめようがないけれど。嘘でもない。正直菊池さんのブランドから発売されたTシャツを見て知ってくれている人は多い。

僕「うーーーーん」

菊池さん「うーーんって何よ、インスタのフォロワー今いくつ?増えたのうちのお陰でしょ。散々PRしたんだから」

僕「菊池さんの言ってることは、なんとなくわかりますけど。30%はお支払いするつもりはありません」

菊池さん「いいけど、払わないなら潰すよ」

僕「うーーーーん」

菊池さん「基本的に、俺の周りは出禁ね。みんなにも伝えておくから」

菊池さん「あと、今週中にジンも連れて謝りにこいよ」

いっそ、菊池さんがお酒を飲んでベロベロに酔っ払っていたらいいけれど。。。。どうも本気らしい。

僕「ジンは今忙しいから来ないと思いますよ、僕は暇なんでいつでも謝りに行けますけど」

菊池さん「とりあえず明日から事務所、毎朝掃除してくれる?」

僕「なんでですか?」

菊池さん「誠意を見せろよ」

僕「うーーーーーん」

僕「菊池さんにはお世話になりましたけど、そこまではしません。でも喧嘩する意味もないと思うのでお金払いますよ」

菊池さん「今さらおせーよ、明日から毎日来い」

僕「それは無理です、行きません」

菊池さん「じゃ、今払ってくれる?100万でいいよ」

僕「わかりました、今振り込むので口座教えてもらえますか?」

菊池さんと隣でニヤニヤ笑っていた大橋さんは驚いていた。きっと僕が払えないと思ったのだろう。100万円でいいなら売り上げの30%よりも全然低いし、ジンと折半して残ったお金からもでも余裕で出せる金額だった。渡された付箋に書かれた口座にお金を振り込む。

僕「菊池さん、約束していただきたいのですが。お金今振り込むのでもう、関わらないでいただけますか?」

菊池さん「当たり前でしょ」

振り込みを確認してもらい、会場を後にする。どっと疲れが背中に乗っかった。これはなかなかキツい時間だったけれど、ダメなことはダメと自分で言えたことは凄くよかったと思う。これまでなら言われたように、なんでも聞いてしまったけれど。少しは大人になったのかもしれない。いや、きっとジンやオサムの姿を見て彼らのように、それは違うよ。と言った方が良い関係を築けることもあると知ったからかもしれない。今回は、自分を守るためだったけれど。

しばらくは、心の傷が癒えるまでのんびり過ごそうと思う。


続く



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