迷走

海と街と誰かと、オワリのこと。#49

迷走

Contributed by Kite Fukui

People / 2023.03.30

大好きな海を離れ、アーティストになったオワリ。居心地の悪さを感じながら、それでも繰り返されていく毎日のあれこれ。「本当のボクってどんなだっけ?」。しらない街としらない人と。自分さえも見失いかけたオワリの、はじまりの物語。


朝日が上り、月が沈んでゆく。窓が大きい小さな部屋で僕はどこへ向かうのか、どこへ進んでいるのか。答えがいつか突然、目の前に来るんじゃないか。とそんなことを望んで何もしない日々をただただ過ごしていた。

今が朝だろうと、夜だろうとどうでもよく感じる。何かを食べたいとも思わないし、何かをしたいとも思わない。どうしたもんか、感動する映画を見てみても全然泣けないし。漫画を読むことすらめんどくさく感じている。次の個展へ向けて待っているキャンバスが20枚こちらをじっとみている。僕もじっと見つめ再び眠る。。。

ーーピーンポーン♪

インターホンの音がして目が覚める。起き上がりたくないので居留守しようとしたとき。

ジン「ドンドンドンドン」

ジン「おーい、起きるまでドア叩くぞー」

彼は定期的に製作の進み具合を確認しに来る。製作期間中に唯一会話をする人間だ。製作期間中はジンか、もしくはスーパーのレジの人と袋はいるかいらないかと会話するのみ。独り言をぶつぶつ言っているときもあるけれど、基本静かな部屋の冷蔵庫のモーター音か換気扇の音ばかり。

渋々玄関のドアを開ける。

ジン「おはよう」

僕「おはよう」

ジン「どう?進んだ?」

僕「いや、迷走中」

ジン「どうした」

僕「うーん、なんか網点はいいんだけど」

僕「なんか、前やったこととは違うことしたいんだよね」

ジン「うーーん、それはわかるけど。前回が完売してるから同じような作品欲しい人結構いるよ」

僕「そうだよね、そうなんだよ。それが、なんか嫌なんだよなぁ」

ジン「だよねぇ」

僕「うーーーん」

ジン「悩むところだよね」

ジン「ちなみに違うことってどんなことしたいの?」

僕「網点自体は変えないで、書き方とか絵具とか変えようかなって」

ジン「良いじゃん」

僕「そう?なんかさ、僕は寝てばっかりじゃん。だから夜明けの空も夕日の空も寝ながら見てるからグラデーションが縦なんだよ」

ジン「ほう」

僕「だから、縦のグラデーションをこの網点に入れてみたいんだよね」

ジン「なるほどね」

僕「そう」

ジン「おけ、じゃぁグラデーションで行こうよ」

僕「いい?」

ジン「全然いいよ、やってみてまた違う感じしたら話そう」

僕「了解」

ジン「あ、ちなみに個展終わるまで俺オワリの家で暮らすから」

僕「お、おっけ」


続く



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