The Route #7「anna magazine編集長の取材日記」
あなたのその服、とても好き
anna magazine vol.12 "Good old days" editor's note
Contributed by Ryo Sudo
Trip / 2018.12.08

「あなたのその服、とても好き」
9/22
Anchorage-Juneau
朝8時近くになっても辺りは薄暗い。到着してからずっと曇っているのもあって、アラスカのイメージは“どんより”だ。取材中、何度も前を通っていて気になっていたCITY DINNERに向かう。街の中心地から、8分くらい。この街は面積的には広いけれど、たいていの場所には10分以内で行ける。街のつくりが単純で、渋滞もほとんどないからだろうか。

CITY DINNERは外観のイメージ通りの店だった。オールディーズが軽やかに流れ、白人のおじいさんたちが見ただけでお腹がふくれそうなボリュームたっぷりのブレックファーストメニューをオーダーする。誰もが気が遠くなるほど長い時間をかけて、朝ごはんを食べる。コミュニケーションといえば、メイクが濃い「美人風」ウェイトレスに一言二言話しかけるくらい。その会話がなかったら、彼らの時間はきっと止まってしまうに違いない。

アメリカにはどこの街にも必ずこんな雰囲気のダイナーがある。グッドオールドデイズなアメリカを好きなアメリカ人が意外に多いってことだろう。

空港に向かう途中の湖畔に、まるで原チャリのようにたくさんのシープレインと呼ばれる自家用小型飛行機が並んでいる。飛行機のそばに必ず建てられている小さな作業小屋を見れば、オーナーの個性がすぐ理解できる。キュートな絵が描いてあったり、骨太なガレージだったり、ボロボロのまま放置されていたり。まあガサツな雰囲気の小屋のオーナーの飛行機には乗りたくないよね。

疑問なのは、僕たちがこんなに簡単に飛行機のすぐそばまで近づけるほどの環境で、セキュリティは大丈夫なのだろうかってこと。触ろうと思えば誰でも飛行機に近づける。カリフォルニアでは、パブリックな芝生はそれぞれの地域ごとに「自治」で管理していたり、Air b&bのようなシェアカルチャーやチップも同じだけど、犯罪が多いイメージのアメリカなのに、ローカルルールは人々の「性善説」で成り立っていることが多い。なんだか不思議な文化だ。

アンカレッジからジュノーまでは1時間半のフライト。
指定されたはずの僕の席にはすでに知らない女性が座っていた。けれど、あまりにも自信に満ち溢れた雰囲気で座っていたので、黙って隣の席に座ることにした。離陸してしばらくすると、彼女は黙って僕にジンジャークッキーをくれた。
アラスカはこの時期、ずっと夕方みたいな弱い光に包まれている。なるほど、だから妙にアンニュイなムードになるんだ。
ジュノーの空港はこじんまりとしてかわいい。手荷物受取所から出てきたトランクのキャスターが壊れていた。まだ1回しか使ってないのに。ほんの小さなことなのに、テンションが一気に下がる。
空港からジュノーのダウンタウンまでは車で15分ほど。右側にはインサイドパッセージ、左側には山がそびえている、不思議な風景だ。山の雰囲気はアンカレッジとは全然違っていて、背の高い緑色の木々が頂上までびっしりと並んでいる。どこかに似ているな、と考えていたら、富津岬の鋸山だった。

ダウンタウンは古い小さなバーやレストランが並ぶ、コンパクトでかわいい街だった。今夜の宿「アラスカンホテル」は100年以上の歴史があって何もかもが古かった。ベッドはUの字だし、夜になれば、幽霊も出るらしい。でも、やっぱりかっこいい。


有名なキングクラブのレストランでタラバガニを食べた後に、トラムに乗る。$35。観光地価格だね、高い。

夕暮れの街をみんなで歩くと、バーがたくさんあった。オーセンティックなバーから、洗練されたモダンなバー、ドラァグクイーンがいるパーティーバーまで、狭い地域にいくつものバーが立ち並んでいる。脈絡のない感じで、なんだか熱海の商店街みたいな通りだ。アメリカでは珍しく、酔った女性がふらふらと歩いてバーをハシゴしていた。

アラスカに来てみたら、寒い場所に住む人たちが強いお酒を飲む意味が理解できた。冷たい風に雪(この取材中はずっと雨だけど)、それと、長い夜は人から少しずつ意志を奪う。とにかく手っ取り早く体を温めて、目の前の状況を忘れようと、強い酒に手が伸びるんだ。

僕らも、いくつかのバーに入ってみる。

アラスカン・ホテルのバーが、ホテルと同じように100年以上も歴史のあるバーで、バンドの生演奏もするということだったので、腰を落ち着けることに。今日は「ソウル・ナイト」。チャーリー・ワッツみたいなバンマスが神経質そうにあれこれ音を調整していたので、「おお、これは」と期待していたら、アメリカの古い日本食レストランのメニューみたいなまとまりのない曲のチョイスと、学園祭の急造バンドのようなでこぼこな演奏で、ウケた。

バーテンがストイックにシェイカーを振るようなオーセンティックなバーは、アメリカではほとんど見かけない。アメリカ人はバーでお酒とコミュニケーションを楽しむ。日本人は、お酒と「型」を楽しむ。つまり、アメリカは現実的で、日本は様式美なんだ。

夜ごはんはメキシカン。よくわからないチョイスだけど、美味しかった。
「あなたのその服、とても好き」
店員の女の子にフリースを褒められた。カメラマンの言葉を信じれば、持ち物を褒められるということは気に入られた、ということらしい。
明日も頑張れそうな気がした。人間はとても単純にできている。
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Ryo Sudo
anna magazine編集長。制作会社Mo-Greenで数多くの広告制作、企業ブランディングなどに関わる傍ら、"anna magazine"、"sukimono book"などペーパーメディアを中心に独自の視点で日常生活を再編集し続けている。












































































