Couch Surfing Club #2
8時スタートの二日目
New York
Photo&Text&Illustration: Yui Horiuchi
Trip / 2019.08.20
かなり早いスタートの朝。滞在日数が少ない場所にいるときは時差ボケしてる時間なんてなく、日本にいるうちにやっておくことがある。
それは出発前に現地時間に体内時計をアジャストしておくこと。
今回はその計算がうまくいって、朝のミーティングは何時からでもいける気がしてたのでAM8時に約束した。
こんな早い時間に誰かと予定を合わせるのは難しいと思っていたけど、子供のいるママにはキッズたちが学校に行っているごく限られた時間がまさにそのフリータイム。私もママたちのスケジュールに合わせて、1日のスタートをMETから始めるという素晴らしい発案に乗っからせてもらう。
ニューヨークに20年も住んでいる大ベテランのMikaさんと一緒にホテルから最寄りのメトロの駅まで向かう。普段は車移動が多いらしい。道を間違えたりホームを間違えたり、20年住んでいてもテンパっている彼女を見て私の方が心強かった笑
いざMETに到着するやいなや、凄まじい来場者の数。
一瞬にしてMikaさんを見失ったくらい笑
入場料をドネーション形式で見られた時代しか知らない私。一つの展示を見るのに$25もかかることに驚いた。それでもこの集客力たるや…。うん、唖然。
ニューヨーク市民は未だに無料で観覧できるものの、明らかにツーリストばかり。むしろバスの団体客なんかでごった返していたエントランスをさっと抜け、2019年のMET GALAのテーマ『CAMP』を観に急いだ。
METだし、GALAだし、展示の予算が潤沢なことが伺えるエントランス。
普段モードにはめっぽう疎い方だけど、今回の展示品といいコンセプトが気になって来たはずが、やっぱり気になって観てしまったのがディスプレイの什器やインストールのhow-to。
展示の空間設計やストーリーを考えた人にとってこんなにも楽しい現場はないんじゃないか。
なんて思いながら会場を回った。
限られた時間の中でもお土産は物色したい私。
今回のテーマにぴったりすぎるお土産を発見。
それがこの『Game of Queens』、そう『Game of Thrones』のパロディ。
誰かのためにっていうのがリンクしてくるもので、即座に思いついた人物が一人。
それこそまさに私にRPDL(ルポールドラァグレース)の存在を教えてくれた人。これは買いってことで、すぐにレジに向かう。
そのあと少し時間が余って、また売り場をウロウロ。
そんなことしなければ散財しないところ時すでに遅し。
Hand の形をしたsoapが売っていて、その名もハンドソープとして売られてた。
こういうジョークに強い友達がすぐ脳裏に浮かぶ。
まさにその人にうってつけだと思って、ハンドソープも握りしめる。
あとは、ゴッホの耳を切り落としたところにバンドエイドが貼られたデザインが施された、なんともアイロニカルなマグ。
使うかわからないけど、赤毛のあの子にあげようなんて渡す相手との共通点を思い浮かべながら買い物をして楽しんだ。
Mikaさんも展示を見終えてギフトショップで合流する。
この時はまだ10時前。急いで貴重な常設展だけもな作品だけダッシュで確認。ものすごい勢いでモードとアカデミックの大量の情報をインプットして、METを後にする。
メトロに乗る直前、通りすぎる女性の肩に綺麗な色のインコがとまっていたのが目に止まる。
声をかけて写真を撮らせてもらったりした。
この日は朝からキオスクのスタンドにとまっていた鳩や、道端の白ちゃけた鳩を見ながらのスタートだったから、Mikaさんが『今日は鳥と遭遇する日だ』なんて言って、笑ってたのを覚えてる。
ランチはMikaさんおすすめのイタリアン。
ブルックリンのキャロルガーデンにある老舗のお店だ。
わかる人にはわかるだろう。全て手作業でねじった感じのパスタが名物で、シンプルでピリ辛のソースが芋虫的なヒダに絡んで美味しい。
オリーブオイルも自家製で少し痺れるくらいフレッシュなのが特徴的だった。
お土産に買いたかったはずがお腹いっぱいでお店を出るころにはお土産のおの字も忘れてしまっていた。ハウスワインが美味しくて昼から飲みすぎたせいもあるかもしれない。
背が高いMikaさんは足が長くて歩くのも早い。それについて行くのに小走りになる。
食後に向かったのは彼女の自宅だった。
とても愛情のこもった素敵なお宅。
もともとパン工場だったらしい。
建物の外壁には未だにさまざまなパンの絵が残っていた。
一旦ココア色のプードル、アメリをピックアップ。これから一緒に子供達の学校へお迎えに行くためだ。
終了時間までアメリをお散歩させる。
私が財布をたまたま落としたところをアメリが歩いてくれていたおかげでMikaさんが拾ってくれたりした。
危ない危ない…。旅行に向けて手作りしたポケットにはメトロカードだけ入れることにした。
学校の前で子供の帰りを待つ、親やナニーたち。
スクールバスが続々と集まってきた。
終了の合図とともにエントランスからフロントの方へ。
最初に出てきたのは末娘のOtono。
出てきてハグをしてひょいと抱っこしてあげると、すぐにくっついて離れなくなった笑
そのあとちょっとクールなお兄ちゃんRemiも合流し、同級生の女の子たちがアメリを撫でにきたりした。
ピックアップ完了。これから二人はKUMONにいくというのでそこまで一緒に送り届ける。
車の中では、色別のキャンディーをOtonoと食べ比べてベロの色を見せ合いっこしたりした。
公文に立ち寄ったあとは、日本でもお世話になっているアーティスト兄弟のスタジオに送ってもらう。Jose ParlaとRey ParlaがいるParla Studio。
何を隠そう、このReyがMikaさんの旦那さんだ。
Joseが私の働いていたギャラリーに所属していたので、展覧会があるときは一緒にホームセンターなどに買い出しに行ったり、パーティーをしたり。
Reyも一緒に来日していたのでそこで知り合った。
MikaさんはJoseの展覧会のオープニングで知り合い、Otono、Remi、Mikaさんともに皆一度日本で会っているのだ。
Joseの作品はOne World Trade Centerに巨大な作品が収蔵されているほど世界的に活躍するアーティスト。
Reyも来年は都内某書店で本のリリースと個展を予定しているとか。二人とも世界を股にかけて活躍している。
新作を見せてもらい、近々開催予定の展示のマケット(展覧会会場の縮尺模型またはモデル)などを見せてもらった。
忙しい中時間を作ってくれた二人から思いがけずお土産などもらい、電話対応などで慌ただしそうなので次の目的地に向かう。帰り道、ヘンテコな家?ギャラリー?を通り過ぎて最寄りの駅に向かった。
ホテルに帰る前、近くにあったその名も『I ❤️ New York Gifts』と看板を出しているお店に立ち寄る。
こういう分かりやすい店では分かりやすいお土産を買うのも楽しい。
近しい友人たちには、チージーなポストカードなんかを買って現地滞在中に手紙を書いたりもする。
今回はザ・ニューヨーク土産なキーホルダーなんかをゲットした。
ホテルへ帰る頃、少し雨が降り出した。
夜はチャイナタウンにあるギャラリーのオープニングに向けて、一度シャワーを浴びてリフレッシュする。
着替えながらギャラリーのディレクターを勤めるシンガポール人のKenとメッセージをして、アップデートを聞いた。
『今夜は雨のせいで客足が遠のくかも。でもその分ビールは俺達のものだ!』
嬉しいお誘いだ。
『Count on me(任せておいて)』
と返しておいた。
一度ホテルのエントランスまで出てから、外の雨が先ほどより明らかに激しく夕立のような、でもしばらく止まなそうな雨になっていた。
5歩歩いて諦めて部屋に戻り折り畳み傘を持って再出発。
『Grand Street』駅に降り立つと道路が洪水状態。
誰かの食べかけのハンバーガーが濁流に乗ってこちらに流れてきた。
思わず飛び避けたら車に激しくクラクションを鳴らされ、かえって跳ね返りの水もあびてあのままハンバーガーに対して受け身でいたらよかったのかとチャイナタウンの中心で自問した。
ギャラリーまでの道のりは徒歩ですぐ。ひとまず安堵。
お客さんがいる様子は伺えない。
複数のスタッフの中から友人の姿を探してるうちに、ギャラリーの数フロアのうち最上階でビールをサーブしていることに気付いた。
仕方がないというか、喉が乾いていたのでスタッフの一人と世間話をしながらKenを待つ。
ボトルが一本開く頃、階下から聞こえる足音。
階段へ顔を出してみたら、そこに見慣れた顔が。
ようやくKenを見つけた。
最後に会ったのは東京のスパイラルホールでKenが企画した展覧会を手伝った時。
その頃にはニューヨークで彼の職場で顔を合わせることさえ想像もしていなかった。
なんでニューヨークに来ているのかなど、取材のことなど話していたらギャラリーができた経緯など教えてくれた。
昔は長屋が連なる地域だったため、近くには長屋博物館があるほど。
そのうちの一つを現在のギャラリーのオーナーであるストラウス氏のご両親が買い取り、自営のお店をやっていたんだとか。
長屋と言っても京都なんかで見かける間口が狭く奥行きがあるタイプにさらに上階が続く割としっかりとした建物といった印象。
階層の連なるギャラリーではよく見かける大型のエレベーターがなかったので、聞いてみたらびっくりした。
正面入り口から見て建物の一番奥にあたる一室に各フロア天井と床面に同じ大きさの四角い鉄板のようなものがはめ込まれていたのを指差し、そこがすべて外れると最上階まで見渡せる四角い穴が出現しエレベーターになるんだとか。
稼働しているところをぜひ見て見たかった。
何人か現地から、そして東京からの友人とオープニングではキャッチアップし、お開きまでの間会ったことのあるみんな、そして新しく知り合った友人たちとビール片手にチャットを楽しんだ。
夕飯はこのままギャラリーを閉めてごはんを食べに行くことに。
Kenの奥さん、私も大好きなJenniferも合流する愉快なタイレストランでは大好物のパッシーユがメニューにあり、即決。
あまりに嬉しすぎて写真を撮ったが手元がぶれまくっていた。
乾杯はシンハービール、飲んでいるうちにゲイパレードに向けて準備中だと言うお店の子からショットを進められる。
ホリデーに乾杯!なんて言って、ジンのショットはお店のおごりにしてくれた。
結局すごい酔っ払った二日目の夜。
真夜中12時を周り、変なテキストをホテルで待つ友人に送り心配してくれている履歴が今でも携帯に残っている。
酔っ払って朝ごはんの残りのバナナを夜食に食べた。
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Yui Horiuchi
東京を拠点に活動するアーティスト。幼少期をワシントンD.C.で過ごし、現在は雑誌のイラストや大型作品まで幅広く手掛ける。2015年に発表した「FROM BEHIND」は代表作。自然の中にある女性の後ろ姿を水彩画で描いた。自然に存在する美や豊かな色彩を主題にする彼女の作品は海外でも評価されている。