The Second-Hand Shop

世界のリサイクルショップ -イタリア編- #11

番外編:中国でスタック Pt.2

Contributed by Fumito Kato

Trip / apr.09.2020

雑誌、広告などの撮影の傍ら、世界各地のリサイクルショップを巡り、その国のカルチャー、埋もれゆくプロダクトの発掘をライフワークとして活動しているフォトグラファー加藤史人さん。今回、彼が訪れたのはイタリア。旅先で出会った魅力的なヴィンテージアイテムや食べ物の数々は、必見です。

前回に引き続き番外編。イタリアからの帰国中、台風の影響で中国・北京にスタックした際の珍道中をお送りします。これにてイタリア編/番外北京編完結です。

#11

10/13(sun)
目が覚めると夜明け前だった。
12時間近く寝ていたらしい。
復路の時差ボケは、やはりキツイ。
煙草を吸いに外へ。今日は天気が悪そうだ。
部屋に戻り、再びベッドに潜り込んだ。

ホテル前の未舗装地帯。

待ち合わせの30分前に目覚めたので
急いでシャワーを浴び、エントランスへ。
ウクライナ帰りのおじさんは既に来ていた。
「ぐっすり寝ていたので、起こさなかったよ」
どうやら、鍵もかけずに寝落ちしていたようだ
昨夜、おじさんは一人で大通りまで歩き、
バス停を見つけ、少し栄えた場所で降りた後
手頃な食堂を見つけて一杯やってきたらしい
流石、辺鄙な街に行き慣れているだけある。
娘くらいの歳の店員がおじさんに世話を
焼いてくれるそうで、とても気に入ったそうだ
夕食はその店にしよう。

昨日と同じ白タクで、再びお茶屋さんへ。
奥さんの長距離移動が厳しくなってきたため
ここ数年ひとりで旅をしているおじさんは
なにかよい土産を、と毎回品定めをするも
あまり喜ばれた試しがない。と、愚痴をこぼす。
この鉄観音なら、きっと喜んでくれるだろう。
私と同じく少量をいくつか買っていった。

いい人だったけど、本当に"店小利薄"?


郊外然とした、お茶屋さんの前の通り。

北京中心部までは慢性的に渋滞している。
お茶屋さんを出て既に1時間は経っただろうか。
白タクのおっさんは、女の子のいる店や
農村巡りなど、彼独自の様々な
ツアー・プランを勧めてくる。
乗り気でない私たちがNo Thanksを
翻訳アプリに吹き込むと、彼は言い出した。

「日本へ来る中国人観光客は
たくさんお金を使うでしょ?
あなたたちも、中国へ来たのなら
たくさんお金を使うべきよ」

ごもっともだ。
日本がインバウンドから享受する
経済効果は計り知れない。
彼らの客足が途絶えた時、
ようやく日本人はその有り難みを
実感することになるだろう。
おっさん、気を付けなよ。
日本の個人旅行客は当分ケチだぜ。

渋滞する高速道路から降り、
しばらくして、彼は急に車を停めた。
「トイレに行って来るから、待ってて」
彼に続き、ウクライナおじさんもトイレへ。
オリンピックに伴う再開発で数は減ったが
北京市内には胡同(フートン)と呼ばれる
旧統治時代からの細い路地が今も残る。
胡同内の住居は、元々トイレや台所が
設置されていないものが多かったため
北京市内には公共のトイレが多い。
街歩きの時など、トイレに困ることが
多かった身としては有り難い環境だ。
たまに、個室のない你好トイレに入って
用を足す先客に面食らったりはするが。

胡同の一角。古き良き中国が垣間見える。


胡同内のホテル。四合院特有の中庭が美しい。

車窓からの風景がにぎやかになり、
故宮博物院(紫禁城)への案内標識が
ちらほらし始めた王府井大街の手前で
私たちはタクシーから降ろされた。
(紫禁城付近は駐停車禁止らしい)
昼食をとるために店を探すも、ここは観光地。
観光客向けの華奢な店が多く、値段も高い。
なるべくローカル向けな店を探すため
雑居ビル内のフードコートに入る。
かつては胡同で営業していた老舗店も
再開発後はこのようなフードコートに
まとめて入居させられているケースが多い。

おばちゃん4人くらいで切り盛りしている
水餃子の店を発見。おじさんお目当ての
ビールも置いてあるため、ここに決定。
牛肉とセロリの水餃子を2人前注文すると
漬物の盛り合わせのようなものが供された。
おじさんには、ちょうどよいビールのアテだ。
隣の席では、ものすごくノッポの爺さんが
この漬物をご飯でもりもり食べている。
私も食べてみたが、ニンニクが効いていて
味も見た目も水キムチのようだ。

ノッポの爺さんとそのファミリー。

20分ほどで水餃子は供された。
うん、これこれ。やっぱり水餃子の具は
セロリと牛肉が一番好きだ。
手作りの皮も分厚い部分のコシが素晴らしい。
(出来合いの皮ではこうはいかない)
おじさんは2本目のビールに突入。
今度は冷えたものをゲットできたらしい。
(体内を冷やすことが良くないとされる
中国では、常温のビールもよく飲まれる)
写真を撮るべきだったと、完食後に気付く。
まあ、仕方ない。そんなもんだ。
仕事ならまだしも、撮影欲が
食欲よりも優先されることなど、皆無だ。
この旅における三大欲求の順列は
物欲、睡眠欲、そして食欲である。

秋の味覚・天津甘栗。並ぶ価値は大いにあり。

店を出た後、王府井大街を南下し
東長安街を西に歩いて天安門に到着。
雨だというのに、門の手前の荷物検査場は
かなりの数の観光客でごった返している。
(中国では、地下鉄や博物館など、
人の密集するエリアでは、X線による
荷物検査が義務付けられている)

途方もなくデカい天安門の前で
おじさんの写真を撮ってあげた後、中へ。
天安門と端門を抜けたところで
おじさんはトイレへ。雨が強くなってきた。

午門を望むトイレの前で一服。

トイレから戻ってきたおじさんは一言、
「ここらで戻りますか」
うん、私もそう思ってたところ。
彼も観光地に興味がなくてよかった。
元の道へ引き返そうとするも、
警備員に止められる。
どうやら、紫禁城は一方通行らしい。
幸いにも、脇にあるお堀沿いの道から
城外へ出ることができた。
道沿いの土産物屋を冷やかしながら
地下鉄の駅に向かいつつ、
私は中国特有のオート三輪のチェック。

中国オート三輪 Spotting.





細い路地が多いこの国では
独自に発達したオート三輪が
今でも幅を利かせている。
かつてはイタリアのApeと同じく
2ストローク・エンジンの白煙と騒音が
この国の風物詩ではあったが、
いつの間にか、二輪、三輪ともに
すべて電動に置き換えられている。
日本だったら、対象外になりそうな
古いモデルやベスパさえも、だ。
トップダウンですべてを変えてしまう
ことができるのはこの国くらいだろう。
無音で走るバイクやオート三輪は
歩行者との事故が頻発しそうだが、
排気ガスを出す車が走れなくなるであろう
近い将来、古い車やバイクが生き残る術は
この方法しかなかろう。
大企業の圧力に負けず、エンジン換装の
ビジネスモデルを提示してくれる企業が
日本に現れることを願うばかりである。

地下鉄で空港連絡線への接続駅である
東直門駅へ。このターミナル駅なら
ホテル近くの国道を通る路線バスを
発見できると、おじさんは踏んでいたが
残念ながら見つからず。
仕方なく、空港へ向かい、昨日と同じ
ホテルのシャトルバスに乗ることにした。
気が付けば夕暮れ時になってきた。
イタリアもそうだが、空気の悪い都市の
夕暮れの色は濃く、美しい。



ホテルに到着し、一休みの後
おじさんの見つけた例の食堂へと向かう。
国道への道は暗く、ろくな歩道もない。
おじさんはやはり開拓者だ。



国道から路線バスに乗り10分少々、
少し街の光が点り出したあたりで
我々は下車。目当ての店は
降りたバス停の向かい側にあった。
おじさんお気に入りの娘が
また来たか、という表情で我々を
出迎え、オーダーをとる。
メニューは写真が載っているため
わかりやすい方だが、それでも
謎な料理も数多くある。
炒飯をベースに、チャレンジメニューを
いくつか注文し、乾杯。

ウクライナ帰りのおじさん、と
わざわざ表記するのは理由がある。
旅先で出会った人とは一期一会にする
という彼のポリシーゆえ、
最後までお互いに名乗らなかったからだ。
糖尿病を患い、血糖値を計りながらも
訪れた土地のビールを一人で追い求める
彼にとって、旅先での偶然の出会いは
喜びであり、助けられることも多い。
しかし、齢70をとうに越した彼は
出会った人々とその後も連絡を取り合えるほど
自分に残された時間は多くない、と言う。
だから、特に世話になった人たちには
生涯集めたボールペン・コレクションから
ひとつづつ、感謝の意を込めて
別れ際に渡しているそうだ。

ひとしきり、飲み食いした後、
「煙草を吸いに外へ出ませんか?」
と、おじさんは私を誘った。
禁煙の看板が貼ってあったからであろう。
だが、その必要はまったくなかった。
周りの席では地元の客たちが
思い思いに煙草を吸い、
灰も吸殻も床に捨てている。
「郷に入れば郷に従いましょう」
おじさんは笑ってピースに火を点けた。

オリンピックという世界的行事に伴う
公共の場や室内の禁煙実施は
人々にとっては寝耳に水であっただろう。
しかし、大衆にとって、そんな決まり事は
祭りの後では、取るに足らないものらしい。
誰かが吸い始めても、店員や他の客が
それを咎める場面を見たことがない。

以前、上海駅で切符を買う際に
悪名高い横入りを多く目撃した。
しかし、よく観察していると、
急いでいる人、せっかちな人に
特に急いでいない人が順番を
譲っている、という風にも見える。
ルールよりも、その場の雰囲気、
状況に応じて、みんな考えて行動している。
それらはすべて、お互いを許容すること。
思いやることに基づいている。
これが中国の魅力のひとつである。
ルールやモラルを遵守するのみで
自分で考え行動することを去勢されている
日本人よりは、人としての温かみを感じる。
だから私は、おじさんが彼らと同じように
店内で煙草を吸い、床でにじり消してくれた
ことが、とても嬉しかった。
「モラルのない中国人め」 などと
彼が己の尺度だけで判断する
偏狭な日本人ではなかったからだ。
そして、自分が持っていた団塊の世代に
対する偏見を強く恥じた。

最近は減少傾向にあるが、ただ日本を褒め称え
隣国よりもいかに秀でているかを論じる
にわかナショナリストの増加には
以前は本当に辟易させられた。
幸いにも、日本人は島国特有の保守的な面と
アジア人ならではのミーハーな面との
双方を持ち合わせている。
一人でも多くの日本人が海外に飛び
その国のよい面も悪い面にも触れ
日本に伝えてくれること。
それにより、広い視野を持つ人間が増え
島国特有の頑なさが新しい尺度によって
緩むことを私は願っているのだ。

会計の際、おじさんは
例の娘をテーブルに呼び
感謝の意を紙に書き
彼女に伝えようとする。
しかし、なかなか伝わらない。
ボールペンを差し出しても
彼女はいらないと言う。
"進呈"という文字を紙に書いた時
やっと、彼女はそれを受け取った。



どうやら、終バスを逃したらしい。
店に戻り、例の娘に呈計車(タクシー)を
呼んでほしい、と伝えるも
彼女は困った顔をした。
他の店員と話をし、例の翻訳アプリで
伝えてきた言葉は
「もうすぐ、私の友人が来るから待ってて」
どうやら、彼女の友人がホテルまで
私たちを送ってくれるそうだ。
20分後、元気の良い若者2人が到着し
娘に見送られて、私たちは店を後にした。
ホテルへと続く国道沿いの脇道まで
私たちを車で送ってくれた若者たちは、
おじさんが渡そうとしたチップを固辞し
爽やかな笑顔と共に走り去った。
偶然を望む者同士が行動を共にすると
その引きは強くなるらしい。いい夜だった。

10/14(mon)
帰国日のことはあまり覚えていない。
おじさんとは昨夜別れの挨拶を交わし、
ホテルのエントランスでは、相変わらず
あの白タクのおっさんが網を張っていた。

中部国際空港に到着し、
一服するため、喫煙所に入った。
中国では航空機内へのライター持ち込みは
禁止されており、到着後の一服は
いつも誰かにライターを借りている。
喫煙所内を見渡す。9割が電子タバコだ。
目の前にいる、カタギとは思えない目つきの
おっさんだけが紙巻きを吸っている。

これは由々しき事態だ。
煙草ではない電子タバコさえも
喫煙所内でしか吸えないなんて
ナンセンスとしか言いようがない。
マイノリティーになりつつある
紙巻き煙草の愛煙家たちに
もっと、煙草を愛してもらおう。
そのために、世界からもっと沢山の
未知のライターを発掘して来よう。
そんな志を胸に抱きつつ、
私は怖えおっさんのライターを
ビビりながら拝借した。



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