常に小走りみたいな生活。

True Feeling in Ireland #26

常に小走りみたいな生活。

Contributed by Chika Hasebe

Trip / 2020.04.10

大学生のハセベさんが留学で過ごしたアイルランドの日々を記録した連載「True Feeling in Ireland」。あらゆることになぜを問いかけ、好奇心旺盛に活動する彼女が海外生活の中で、感じ、考えたことを日記形式で綴っていきます。

#26

家に帰るまでのバスの中が暇だから日記を書こうと思う。

慣れとは怖いもので、家に帰るといつものようにホストブラザーのDavidにドライブに連れ出された。その道中で気づいたけど、彼がどこかの時点から人の話を聞いてなくて、私が1人で喋るみたいな状況でも全然違和感を感じなくなってきた。「ああ、また聞いてないじゃん〜」という一種の諦めのような。そんな兄でもこの間、前の彼女がいかに完璧で、どれだけ愛してるかを熱弁していて、人生でいっちばん好きだって思える人がいるなんて羨ましいな〜としみじみ。その傍ら、自分だったらそんな風に言えるかな〜という心配から始まり、そもそもそんな人一生できないんじゃないかというところまで飛躍して、1人で怖くなってきた。

その日の夕飯の時、わたしがいつもより喋っていたら、なんとなくホストマザーもファザーも嬉しそうに見えた。それで先生のSandraが、「ホストファミリーも生徒となにを話していいか分からなくて戸惑っているはずだよ」って言っていたのをふと思い出した。そうか、ドライな家族だなって前から思ってたし、実際ビジネスライクだけど、自分の働きかけ次第で関係も変わるのかな。



週末、Davidが車検に行くと言っていたのでついて行った。終わるのを待っている間、カフェに入った。そこで自分の発音が悪く、店員に話が通じなくてガックリ。いつも同じ人が周りにいると、多分彼らは私の癖とかを理解した上で聞いているから、通じることが多くなった気がしていたけれど、こういう初対面の人とのなに気ないやりとりで問題があると、やはりパンチは強い。「車検の後はクリスマスツリーをカットしに行く」と言っていて、せっかくだからついて行きたかったけれど、Sarahと会う予定だったからパスした。天然の木を使うあたり、気合の入れようと家のキャパシティに脱帽。

SarahとはLidlというディスカウントスーパーになぜか2時間ぐらい滞在して、これがおいしいとかおいしくないとか喋りながら、カフェで出てくるようなファンシーなパンケーキを作ろうということに。彼女の寮に戻って、机に買ったものを広げたらあまりに多すぎてびっくり。



もはやドリトスとか関係ないし。結局小麦粉とか全然使わなくて、全部Sarah宅に置いてきた。非常にテキトーな2人で作ったけど、結構美味しくて「意外とできるじゃん!」って新たな発見。食べ終わってからもShawn Mendesがかっこいいとか言いながらぐうたら過ごしていい週末だった。Davidたちと木を切りに行くのもなかなか魅力的ではあったけど。



週明けには期末テストがあった。これが来期のクラス分けテストの参考になると耳にしたので、ちょっと緊張していたけど、そこまで難しくはなかった気がする。とか言いつつ、この間のエッセイの評価も思ったより良くなかったので、ぬか喜びは禁物。

放課後いつものごとくスタバで働く。今日はDavidが車で待っていてくれたので、寒空の下のバス待ちはなし。家に帰ってちょっと喋っているうちに、兄の前で不覚にも泣き出すという失態。なんとなくの気のせいではなく、ホストに前の出来のいい生徒とわたしが比較されていて、自分自身も会ったこともない彼女に劣等感を抱いていて、それが積み重なって、最後Davidのなに気ない一言でコントロールできなくなってしまった。でも後から考えてみたらそんな大したことじゃなくて、ただストレスとかプレッシャーを感じて、しかも誰にもそれが相談できなかったからキツいと思い込んでいたんだと思う。突然泣き出すわたしをちゃんと理解してくれようとして、もういいってわたしが言っても問題に向き合おうとしてくれた兄を少し頼もしく感じた。でもひと段落ついたところで、お腹空いたと言い出して、深夜に中華を買いに、部屋着のわたしを連れ出す。そんないつもの自己中心的な兄に戻っていて、あれは幻だったのか…。でも1人で悩むよりもうんと心が軽くなったから、わたしも隣で中華をつついた。


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