Greenfields I'm in love #15
初めて見る映画の裏側
Contributed by Aya Ueno
Trip / 2020.08.28
#15
わたしの家には想像もできないくらい膨大な量の映画のDVDがあり、(ただしアルファベット順などになっていないので観たいものを探すのは一苦労)小さい頃からたくさん映画を観ては、泣いたり、笑ったり。沢山のことを映画に教わった。
ロンドンでの留学生活のある日、映画のエキストラ出演の募集を見つけた。映画の制作裏側なんて行ったことがない。わたしは悩む間も無くメールを送った。
映画のテーマはエロティックホラーというわたし自身も観たこともないようなジャンル。私はその日、放課後に友達のクレアとハンバーガーを食べに行ったあと、撮影地であるエンジェルへと向かった。エンジェルへ足を運ぶのは初めてだ。ここは素敵なパブや可愛いショップが立ち並ぶ素敵な街で、送られてきたアドレスは、そんなパブのひとつだった。
中に入ると、バーカウンターの横のスペースはメイクルーム化しており、もう既に何人ものキャストのメイクに取り掛かっていた。わたしがエキストラをしたそのワンシーンは未来のアジアンテイストなクラブ/バーが舞台で、ド派手な容姿のアジア人のスタッフのエキストラとして、私と、私が誘った友達の他にも、日本人が3人いた。
到着して間も無く、私たちはチャイナドレスに着替えて、メイクさんによって今までした事のないものすっごい濃いメイクが顔に施されていった。メイクさんはみんな可愛くて、アメリカから来た人もいた。
みんなスーツケースや袋に入った自前のパレットや道具を使って、メイクの仕方も人によって全然違ったのだけど、私の担当の人は特にカラーを顔にバンバン盛り込むタイプで、私の目はドレスに合わせてギラッギラの真っ青。鏡を見たときは自分じゃないかと思った。私はあんまりメイクは上手じゃないし普段から化粧はナチュラル派だから、そのメイクは正直本当に苦手だったけど(笑)、綺麗なグラデーションで、上手いのはたしか! そのメイクさんもとっても満足したようで、他のメイクさんに「見て! 見て!」と嬉しそうに見せる。みんな、「超アジアっぽい!すごく素敵だわ!」って褒めたくってたけど、私は内心どこがアジアやねんと思っていた(笑)。
どぎついわたしの横では、わたしの友達は、ホルムとピンクのラインを使った素敵なメイクがされていて、とってもよく似合っていて可愛かった。
そもそも、さっきも言ったようにこの現場はアジアンテイストだけど、作り手には誰一人アジア人はいなくて、メイクだけじゃなくて服も、現場も、色々ごちゃごちゃとミックスされている。向こうの人たちの考える、その独特の"アジア"の雰囲気は面白くて、斬新で、楽しい!
映画の撮影は、基本的に待機の時間がほとんどだった。私たちの出番はなっかなかこなかったから、スタッフの人たちと話したり、日本人の他のエキストラとお喋りして、本当に仲良くなれた。京都生まれで、ほとんどこっちで生活している人や、旅が好きで今は仕事を少し休んで長期的にロンドンに滞在している人、ワーホリで日本に帰らず世界中あちこち回っている人。みんな少し変わっていて、大らかだ。どんな人も受け入れるそんな自由な感じが返って距離が近く感じた。いろんな形でロンドンにいる日本人と、こうして話す機会なんてなかったから、すごく楽しかった。
待ち続けてお腹を空かせていたら、スタッフにそこのパブのメニューを渡されて、「好きなピザ頼んでいいよ!」とピザを食べさせてもらう。それがほんとに美味しかった。それでもまだまだ出番が回ってこなかったので、友達とチャイナドレスとクレイジーなメイクのまんま、寒くて恥ずかしくてきゃあきゃあ言いながら近くのセインズベリー(スーパーマーケット)へお菓子を買いに行ったのもすごく楽しい思い出だ。
窓の外も真っ暗になった頃、やっと出番が回ってきて、現場のダンスフロアに入る。思ったより本格的で、カメラやマイクや照明の人、大量のスタッフに囲まれて、主演群のスーツ姿の男性たち、ドラッグクイーンや、限りなく裸に近く、大事な部分はグリッターで隠されたセクシーな人たちがたくさんいた。
普段映画を観ているとき、よく裏側について想像したりするけど、実際の映画撮影は数秒のカットのために何回も何回も配置を考えたり、話し合ったりして撮り直して、それは想像以上に本当に地道な作業だった。時間が押していたのもあって主演の男性は少しイラついていたし、私たち迷惑をかけないように指示されたことだけを集中して一生懸命エキストラした。
ドラッグクイーンは優しくて可愛いタイの男の子だった。
結局、撮影が終わったのは日が変わった頃で、クッタクタに疲れたけど、それ以上に映画の撮影現場でものづくりをしている人たちを初めて見ることができて、本当に刺激的で楽しかった。メイクさんだけでなく、スタッフみんな、動き回って絶対疲れているのに終始笑顔で周りに気を配る。仕事をする人たちは本当にかっこいい。
メイクに使われたグリッターはそこら中散らばっていて綺麗だった。
私は頂いたクレイジーメイクを拭き取りシート(異常な枚数を要した)でごしごし拭いて、顔を上げるとそんなメイクで何時間も一緒に過ごした他の日本人の方々の本当の顔が初めて見られたような気がして笑いあった。
もうこんな時間だけど、明日からフランス留学中のまりかに会いにパリへ行くのだ。忙しくて大変だけど、そんな忙しさも私には心地いいな。今日あったみんなに、また会えるのかな〜っとぼんやり思いながら地下鉄に揺られた。
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Aya Ueno
兵庫県神戸出身、東京在住のWriter/Photographer。学生時代に渡ったイギリス留学を機に、人や、取り巻く空間を魅せる表現に興味を持ち、現在Containerをはじめ、カルチャー、フードメディアにて発信中。
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