Greenfields I'm in love #52
待ちに待ったハロウィンの日
Contributed by Aya Ueno
Trip / 2021.11.12
#52
キャリアフォーラムという、帰国子女や留学生を対象にした日本企業の就活イベントが毎年秋にボストンで行われる。わたしの大学の友達は偶然にも同じタイミングで留学する子がとても多くて、みんなこのイベントに参加していた。何ヶ月にもわたって行われる就活が、ここでもし決まれば3日間で終わってしまうのだ。
過去に留学していたいろんな先輩に相談し、かれこれ2ヶ月近く悩んでいたボストン行きのチケットは結局買わなかった。それっぽい理由はたくさんあったが、結局1番の理由はハロウィンと丸かぶりしているというなんとも子供じみた理由。イギリスでは残念ながらそこまでハロウィンの文化が盛んではないみたいだけど、子供たちは仮装してご近所を回るらしい。私は1年に一度のこういったイベントが大好き! 9月のタイミングで子供のいる家に引っ越したのもハロウィンを一緒に過ごしたかったからに他ならない。
そんなわけで、ボスキャリに行かなかったのだから、尚一層ハロウィンを存分に楽しまなくちゃ。
当日は朝早くから、お家は甘ーい匂いが漂っていた。下に降りると、カトリンが前日の夜からこしらえたクッキーやらマフィンやらが、キッチンのあらかたを埋めていた。せっせと色んなおかしを作るカトリンはいつもに増して忙しそう。その横で、リリーがチョコクリームがたくさんついたミキサーの羽根を狂ったように舐めている。
カトリンのお菓子はシンプルでとても美味しい。
ドイツ人のカトリン。急いでいる時の話し方はまるで怒っているようにすら見えるけど、ほんとは全然怒っていない。この時も彼女は慌ただしく洗いものをしながら、シュガーハイになるわ!あなたはいつもハイだから、シュガーは必要ないのにね!と『怒鳴って』いる。きっと今日も彼女は普通に話しているのだけど。
学校から帰ったら、リリーやポーリーがハロウィンの準備をしていた。リリーはウィルやカトリンが何時間もかけて探し回ってゲットした念願のパープルヘアのウィッグで魔女に、ポーリーはボディースーツを着てスパイダーマンになった。
わたしも、カトリンの長帽子と黒いリップでちょこっとおめかしする。
いざ出発!はじまりは、この辺に住むみんなが集まるようなパブだ。子供たちは、何人かのグループになって、ご近所を徘徊する。後ろについてくる親も、ビールを片手にワイワイと楽しそう。
今日のリリーは写真を撮ると目をガン開きにする。
可愛らしい子供たち。
回っていいお家と、いけないお家を見分けるのは簡単だ。各家庭の庭に置かれたジャックオーランタンにろうそくの火が灯されていれば、それはドアをノックしてもいいよというサイン。スモークを焚いて、ドアを開ける子供たちをビビらせたりクイズを設けたりとド派手にやる家庭もあれば、塀にてんこ盛りのお菓子の入ったボウルを置いているだけの家も。勝手に取っていきな、というスタンスである。
全てのお家を行き尽くして、あっという間に数か月分のお菓子を手にしたら、またパブに戻って、大人はお酒を呑みながら談笑し、子供は自分がゲットしたお菓子を満足げに披露し合う。
仲良しのお家のパパが、アサヒビールをご馳走してくれた。そういえば、こっちに来て日本のビールを呑んだのは初めてだった。
そんなこんなで、イギリスではじめてのハロウィンは、この家族のおかげでとても楽しかった。
日本のビールで落ち着いたハロウィンから数日後、わたしはまた、日本の味を口にした。
カトリンが日本のルーを使ってカレーを作ってくれたのだ。
お米がジャスミン米だからか、それとも作り方なのか、日本で食べるそれとは不思議とまた少し違ったのだけど、こちらではスパイスカレーが多かったからか、久しぶりの日本のカレーは優しくて懐かしい。カトリンは、料理研究家の栗原はるみさんの本も持っている。わたしのママもはるみさんが好きで、同じ本を持っていたからびっくりした。過去にここに滞在していた日本人の女の子がプレゼントしてくれたんだって。開けてみると、「わたしは上手に日本料理を教えられないけど、これを見てつくってね」というその日本人の彼女のメッセージがあった。年季が入っていたり、ページが折れていたりして、カトリンがたくさん愛用しているのがわかって、これをプレゼントした女性に代わって、私もなんだか嬉しくなった。
日本のカレー。
栗原はるみさんの料理本。
この日、日本のカレーを食べて喜んでいたら、ウィルが、会話の中でリリーとポーリーは養子だから〜と口にした。聞き間違いかと思って、ん?と首を傾げると、知らなかったのかと笑ってリビングから写真立てを持ってきた。確かにいつもテレビの前に飾ってあったその写真。リリー、ポーリーを含めて、7人の子供たちが写っているのだけど、彼らは全員兄弟だという…! リリー以外はみんな男の子。言われてみたらみんな悪ガキみたいな顔をしてそっくりだ。2人、3人、2人に分かれて、それぞれ同じイーリングの地域に住んでいるらしい。
衝撃の事実だった。だって、2人はウィルやカトリンとすごく似てるんだもん。リリーなんてカトリンと性格までそっくりだ。ウィルは、一緒に住んでるからだと笑っている。 彼らにはかつて、血の繋がった息子がいて、いろんな事情があるのだけど、今こうして養子縁組していることを子供にもオープンにしながら、いつも全力で愛し合い、全力で怒り、泣き、この上なく厚い絆をもったこの家族が、なお一層愛おしい。
家族のあり方なんて、愛さえあればなんでもいい! そう思った。
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Aya Ueno
兵庫県神戸出身、東京在住のWriter/Photographer。学生時代に渡ったイギリス留学を機に、人や、取り巻く空間を魅せる表現に興味を持ち、現在Containerをはじめ、カルチャー、フードメディアにて発信中。
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