3回、目があったら、たぶん好き。

ビールとウーバー #29

3回、目があったら、たぶん好き。

Contributed by Kaito Fukui

Trip / 2022.02.07

どんな時も、どんな場所でも。頭の中身はいつだって「旅」そのもの。アーティストKaito Fukuiの日々と、旅のこと少し(おさんぽ)。

#29

寒い。

駅へ向かう、道。

「あー、手袋すれば良かった」

大通りの信号で止まる

ジャケットのポケットに手を入れる

シティ系自転車に乗った女性が隣に止まった

視線の端に入ったので、つい見た。

初めて目があった。

「どうも」

信号が変わった

女性が前に進んだ

ポケットから手を出した

少し遅れて僕も動く

真っ直ぐ彼女の後ろを走る。

コンビニがある角を彼女は曲がった

僕はまだ真っ直ぐ進み

駐輪場のスロープを登る

上から人が降りてくる

視線を上げると

さっきの彼女

2回目。

「あの角曲がる方が早いのか」

自転車を止めて、駅へ向かう

10:48

渋谷行き電車を見送る

10:53

副都心線直通電車に乗る

車内の真ん中の方へ進んで座った。

新宿三丁目まで15分

スマホで原稿の続きを書く

渋谷で殆どの人が降りる

電車は再び進んだ

『新宿三丁目』

地下を歩く

スタバの前の出口から地上へ

世界堂へ向かう

3階の絵の具売り場

さっきの彼女がターナーの絵の具を見ている

ホルベインコーナーを見るフリをして

隣の棚のキャンバスを見る

歪みの少ない物を選んでいると

後ろに人の気配

さっきの彼女

狭い角のターナーの絵の具を見に行く

ホルベインの絵の具と色を見比べる

キャンバスを持ったさっきの彼女がやってきた

そして目があった

3回目。

多分彼女は僕が好き。

話し掛けようと思う前に、トイレに行きたくなった

キャンバスと絵の具をレジに預け

4階のトイレに向かった

スッキリして3階に戻り

絵の具を選ぶフリをして彼女を探す

どこにもいなかった。

昔、スリランカのホテルのレストランで3回、4回、5回、目があった金髪の多分、ロシアの女の子を思い出した。

「明日の朝もここでご飯を食べていたら、話しかけよう」

そう思った、

次の日彼女はいなかった。

3回目があうと、消えるようだ。




アーカイブはこちら

Tag

Writer