この本を読み切るまでは死ねない、<br>という幸福<br/>

To Me, Somewhere in the World #16

この本を読み切るまでは死ねない、
という幸福

Contributed by Yoko

Trip / 2022.03.02

「世界一周がしたくて、思い切って会社をやめた」
未知なモノすべて知らないことを知りたい、欲望に忠実に生きるフリーランスのWebライター・編集者Yokoさん。日本国内の旅の話をリアルタイムで、時に振り返りながらつづる旅連載。


#16

人生の空白期が人よりも多い。

暇をもてあまして最終的にいきつく先は、おおよそ「本」だ。何周か見れば飽きるYouTubeや各種SNSでも電子書籍でもなく、膨大な本が置かれている宿やゲストハウス、書店、ブックカフェ、図書館で出会う本。そこで所狭しと並べられた集合体を見つめると、なぜだか安心感があった。「これだけの本を読み切るまでは人生、退屈で死ぬことはない」と、生を感じたから。諦めにも似た感情で呆然とした時もあったけれど、つまるところ単純に本が好きだ。知らないことを知れ、読んだことのない文章に触れられるから。

持ちたくない、という理由で電子書籍を好むようになった今も、紙の本が好み。図書館で借りたり、一時的に所有したり、出先で出会った本を手に取ったりすることばかりだけれど。読後感をはっきりと得られるから紙の本がいい。知識の習得だけが目的ではない読書をするタイプの人間であるため、そう思う。

たまに出会う、挟まれたままの貸出記録。

本との出会いも旅の楽しみの一つ。

壁一面の本棚に本がぎっしり、なシチュエーションも燃える(萌える)が、好みのストライクゾーンど真ん中の本ばかり置いてある本棚もかなりときめく。旅のスタイルが似ている人に聞くおすすめにハズレがないように、好みの本棚から手に取る本はたいてい当たりだ。

ガイドブックも好きだけれど、たいてい手に取るのは小説かエッセイか、自己啓発本。仕事の本を見たくも読みたくもない時期も旅をしていて、そういう時は本棚のラインナップで一喜一憂したこともあった。今思えば、置いてある本、手に取る本は旅の中でも大切な要素だったのかもしれない。

島根・アサリハウス。

壁一面の本棚に本がぎっしり、で思わず嬉しくなったのは、島根・アサリハウス。平日だったからか人が少なく、迎えてくれたスタッフさんと話しつつ、本の多さにひたすらおどろいていた。そしてリビング中央にあるピアノ。誰が聞いているかドキドキしつつ、ゲストハウス内でピアノを見たのも初めてだったので、何曲か弾いた。そして本を時間の限り読んだ。

長野・WORLDTRECK DINER & GUESTHOUSE - ピセ。

好みどストレートの本棚に出会ったのは、長野・WORLDTRECK DINER & GUESTHOUSE - ピセ。江國香織、原田マハ、辻仁成、燃え殻など好みの作家の本や、読んだことのなかった食べ物の本、日常を描く漫画たち、大学の講義で使っていた本など、これでもかと思うくらい好きな本ばかりだった。この本棚好きです、と思わず伝えてしまったほど。ここでは椅子に寝そべって、飲みながら本を読む、そんなことばかりしている。

福井・玉村屋。

手を伸ばせば本に届く1階のこたつでは思い切りぐうたらしながら、2階の共有スペースにも本がぎっしりで、こもるのが最高に楽しいのは福井・玉村屋。ここは何回も行っているのでスタッフさんたちとも仲が良く、お客さんともすぐに自然と会話ができるような居心地の良さがある。みんなでボードゲームをしていない時は、たいてい本を読む。確かスタッフくんの趣味全開のラインナップで、仕事系の本も多く、一人で「うーん……」となっていた時期もあったけれど、社会人なりたての頃の気持ちを思い出せる本が多いので、一周回って面白い(笑)。

長野・1166 Backpackers。

ここまで本を置くのかと驚いたのは、長野・1166 Backpackers。女性ドミトリーに泊まったら、部屋の中まで本があってびっくりした。それも、旅の本を含めて女性向けの本が置かれていて、そんなところまで考えているのかと驚いた記憶がある。もちろん共有スペースにも本があって、そんなに量が多いわけではないけれど、旅の本が多くて楽しかった。でもここはどちらかというと誰かと話をしたくなる場所だから、部屋の中にある本を楽しむのが正解なのかもしれない。

北海道・ゲストハウス コケコッコー。

本を読む環境として快適(?)なのは、北海道・ゲストハウス コケコッコー。ハンモックに揺られながら、コーヒーを飲みながら、旅やら何やらの本を共有スペースで読んでしまうほど心底リラックスモードになれるのはここだけ(笑)。ここは仕事関係の本も置いてあるけれど、北海道内も含め旅系の本が多いから好き。北海道は広いので、今回頑張れば行けそうな場所、今回は行けないけれど次回行きたい場所を見つけるのも面白い。たいてい場所の発見をしている。

快晴。

人生で最高に労働時間が長かった時に逃げ込んだ静岡のオーベルジュで、部屋に置かれていた数冊の本も記憶に残っている。ロビーにあるというライブラリに行く元気すらなくて、ひたすら籠もっていた部屋に置かれていた本に手を伸ばしたら、その中の1冊が原田マハ『さいはての彼女』だった。遠くへ行く話で、話の中に自分のルーツである北海道も出てきて、そうか自分も遠くへ行けばいいか、みたいな気持ちになって、疲れは抜けないまでも心が軽くなったような記憶がある。そして彼女の本がとても好きになった。それから他の本もたくさん読んでいる。

*

各地で出会った本と本棚が思い出させてくれる楽しさの記憶。旅の記憶。旅の理由。旅の意味。
一生読みきれない本との出会いがある限り、人生は続くし、旅も続く。たぶんそんなに悪くない。


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