心地よくってみんな集まる

Greenfields I'm in love #59

心地よくってみんな集まる

Contributed by Aya Ueno

Trip / 2022.03.25

直感を信じ、ドキドキするものに向かって走り続ける神戸出身のAya Uenoさんの連載「Greenfields I'm in love」。自分探しも兼ねたロンドンでの留学生活で、自分の目で見て、肌で感じたありのままの日々の記録をお届けします。

#59

4日目のランチは、VINGT VINS D'ARTへ。ここはトーゴーさん(苗字なのか、お名前なのかは分からない)という日本人の方が営む、マレにあるワインバーだ。はじめに言ってしまうけど、雰囲気、お料理、ワイン(そして山葡萄ジュース)、全てが本当に魅力的で、一度来たら何度も通いたくなるような場所だ。常連さんも多い。ここはねる達の行きつけで、わたしも1回目ですっかり虜になり、何度も何度も通った。

注文は2人のおすすめのタルタル丼にした。初めてのタルタル丼は、本当に、とっても美味しかった! ふわふわした食感のタルタルは、フレンチだけど日本人の口によく合うような優しい味わいだ。



ねるの長い付き合いだという、オーナーのトーゴーさんはその日は残念ながらいらっしゃらず、お店は日本人のちひろさん、フランス人のMathildeが切り盛りしていた。
このレストランの方は、みんなねるを息子みたいに可愛がっていて、普段はクールなねるも、ここではなんだかおうちにいるみたいだった。もう長いことヨーロッパに1人で住んでいて、わたしなんかよりもずっとずっと自立してるねるだって、心を許す場所が必要で、きっとここは彼にとってそんな場所なんだと思った。
ちょっと早い時間だったからか、お客さんは私たちだけで、とてものんびりできた。
通りに向かって吹き抜けの店内には、暖かい日差しが差し込む。日曜日のお昼、晴れの日の優しいパリ。なんだか時間が止まっているみたいだ。



青い壁。



キッチンでは、ちひろさん達が新しいメニューの試作を作っていて楽しそう。



インスタに載せるアカウント写真を撮ってと頼まれる。



天井にはヤドリギが吊るされていた。



お店には、だんだんお客さんが増えてきた。カウンターに人が1人また1人と集まる。みんな知り合いみたい。

“MIDNIGHT SPAGHETTI”って書いてある。



VINGT VINS D'ARTを後にして、昨日アキさんが招待してくださったギャラリーへ。片手で持てそうなものからわたしの身長の2倍くらいありそうなものまで、アキさんの何十年分かの歴史があった。今日はギャラリストを迎えた日で、その中にはモデルや芸能関係の方も紛れていた。



みんな、作品を前に紅茶やシャンパンを手におしゃべりしている。今日もアキさんはたくさんのお客さんを素敵な笑顔でもてなしていて、なんだかアキさんのお宅にお茶をしにやってきた気持ち。

何かをのぞき見しているみたいなアキさん。



サインにも快く応じる。



道端で仲良く歩く老夫婦を見つけた。



笑っている2人が可愛い。



そのあとはle loir dans la théièreというティーハウスへ。お店の外には少し列ができている。しばらく並ぶかと思いきや、案外するっと中に入れた。一見こじんまりして見えた薄暗い店内は、縦に長くて意外と広い。まりかのおすすめのレモンタルトとチョコバナナケーキを頼んだ。


夜はねるのお家に帰って、昨日の残りのボントンのモンブランを食べる。壁を背にベットに並んで腰掛け、プロジェクターに写して久しぶりの水曜日のダウンタウンをみたり、クリスマスソングをかけて大声で歌ったり、ねるのギターをみんなで聴きいったり、まりかと一緒にねるの足の指に、毒々しいクリスマス仕様のネイルを施したりした。



日本にいた時の自分達を思い返した。学校、アルバイト、友達、家族、いろんな輪が交差して、絡み合って、忙しく生活していた。ここでは私たち3人の輪に被さるものは何一つなくて、なんだか私たちは社会からこぼれ出てしまった子供たちみたいだ。私たちの帰国日はもう目前で、ずっとこうしていられるわけではないけれど、でもこの時間が私たちにとって本当に必要なのは確かだと感じた。
5日目、とうとう帰国する日が来てしまった。今日ロンドンに帰って、明日日本から来る親友を迎える。まりかとは2日後にポルトガルで合致予定だ。

朝ごはんを食べていると、先程受け取ったメールの画面を嬉しそうに見せてきた。昨日乗り損ねてお金だけ取られたウーバーから、5ユーロの返金があったらしい。それはなによりだけど、彼女はポルトガル行きのフライトチケットをまだ取っていない。フライトの値段はギリギリに取れば取るほど高くなる一方なのに(それこそ5ユーロではすまない)、いつも直前にチケットを取って、"高かった"とうなだれる。変わった人だ。とにかく、嬉しそうなまりかに、わたしとねるは先にポルトガルのチケットを取れと一蹴したけど、彼女はめんどくさそうに肩をすくめた。
昨日も夜更かししたから、ゆっくり起きて、帰りの時間まで家の近くをお散歩しに行った。冷徹な雰囲気のある工場やらビルが並ぶ今日はどんよりした雲模様だ。泥濘んだ小道に挟まれた川に、綺麗な野生の白鳥がいて、私たちは横に並んで立って、寒そうだなと思いながら黙って彼らを見つめた。
je t’aime beaucoup!


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