何気ない瞬間に心を惹かれたい

To Me, Somewhere in the World #19

何気ない瞬間に心を惹かれたい

Contributed by Yoko

Trip / 2022.03.23

「世界一周がしたくて、思い切って会社をやめた」
未知なモノすべて知らないことを知りたい、欲望に忠実に生きるフリーランスのWebライター・編集者Yokoさん。日本国内の旅の話をリアルタイムで、時に振り返りながらつづる旅連載。


#19

電車に乗る時、スマートフォンの画面しか見なくなったのはいつからだろう。

スマートフォンを手にしていなくても、本があったり資料があったりと、何かしら窓の外に目を向けない理由が手元にあることが多い。結果、どういう道のりで目的地にたどりついたのか、めっぽう思い出せないことがよくある。だからたまに本当にぼうっと、することもなく車窓を見ている時間が結構好きだ。

広島・鞆の浦(とものうら)の朝日。

特に鈍行の普通列車の車窓、個人的には海沿いが最高なのだけれど、住宅街を突っ切る路線もなかなか面白い。4人組で井戸端会議をするおばあちゃんたちの輪の中に一瞬自分をループさせて会話を想像してみたり、向かいのマンションの角部屋に住んでいると仮定したらどんな景色が見られるのか想像してみたり、この街に住んでいたら今この時間何をしているだろう、などと考えてみたりする。

そんなことを考える何気ない瞬間。そんな隙間みたいな日常みたいな瞬間が、目的地に到達することよりも印象に残る旅、があっていいと思う。

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鞆の浦、港。

初めて訪れた広島・鞆の浦(とものうら)、JR福山駅からバスで終点まで30分、ちょうどいい距離の海の土地。海との距離も近くて、港もそれほど大きくなくこじんまりとしている印象。ちょうどいい。

SHION 潮音。

お昼過ぎに着いて、ひとまず海が見えるカフェでお茶をする。見える景色のヌケの良さ、美味しいコーヒーと好きな漫画と、もう、久しぶりに本当にずっといたいくらいの場所だった。

すっかりお気に入りになったカフェを出たあとは少し観光して、景色をみて、街を歩いて、持っていたパンを食べて、お土産物屋さんを見て、散歩して。素敵な宿にチェックインしたあとも、高台のカフェまで歩いて、散歩した。1泊したからこそ見られた朝日もきれいだった。

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福禅寺 対潮楼(たいちょうろう)。

名所を観光して、いろんなものを見て、いろんなものを食べて……と体験したけれど、この場所で一番印象に残っているのは、チェックインまでのひまつぶしにと、海沿いの道ばたでバックパックを背に寄りかかって見た空と海の景色だ。

単純に「素敵な景色だな」と思う気持ちはもちろん、「ここに住んでいたらこんな毎日があるのか」とうらやむ一方で、「ここに住んでいたらこうやってぼうっとすることはないんだろうな」と現実を想う気持ちが交差する時間。こういう時に旅先で発動する“誰も見ていないだろう精神”は便利で、外で寝そべりながら目を瞑っても気にならない大人になれる。

道ばた。

物事にも人にも多面性があって、だから面白い。でも、だから面倒くさい。と、生きている時間に比例してほとほと嫌気が差すこともあるけれど、それでもいろんな土地や人に出会って新しいことを知ると、それだけ想像力が広がるし、想像力が広がる分、事象に対する面白みが増す気がする。

NIPPONIA 鞆 港町。

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帰宅後、長野にて。いつものバーで帰りがけに、「で、今日は帰ってくるの?」と、同じ家に住むシェアメイトに彼女がした何気ない質問。それが「今日は(夜までに)帰ってくるの?」なのか「今日は(朝までに)帰ってくるの?」なのか、意味が異なるだけで会話は全く噛み合わなくなる。問われたもう一人の彼女は答えを返した瞬間に笑い、その会話が噛み合わなくなった瞬間にたまたま隣に座っていた私は、彼女たちと一緒に吹き出した。

想像力と、多面的に考える力と、言葉の意図を読む力。
この日食べた料理の美味しさも最高だったけれど、こんな何気ない瞬間の会話の面白みもきっとしばらく忘れない。


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