ドタバタ、あめりか縦横断の旅 vol.1

FillIn The Gap #2

ドタバタ、あめりか縦横断の旅 vol.1

Contributed by Haruki Takakura

Trip / 2022.05.27

「これからどこまで自分の世界を広げられるだろうか」
この春ファッションの世界に飛び込んだHaruki Takakuraさんが、世界との距離を正しく知るために、デンマーク・コペンハーゲンで過ごした小さくて特別な「スキマ時間」の回想記。


#2



"コペンハーゲンに来てからというもの、ジブリに大ハマり中である。というのも、Netflixが2月より日本・カナダ・アメリカの3ヵ国を除く約190カ国でジブリを配信しているためである。お陰様で、勉強そっちのけでジブリワールドにどっぷりと浸れている。ジブリの世界観はもちろんのこと、英語表記のタイトルがぶち当たっている言語の壁もおもしろい。

1989 『魔女の宅急便』/“Kiki's Delivery Service”
2001 『千と千尋の神隠し』/“Spirited Away”
ここまでは、「へ〜、そう訳すんだ」って感じ。

1995 『耳をすませば』/“Whisper of the Heart”
2014 『思い出のマーニー』/“When Marnie Was There”
なんかおしゃれで、キザな言葉をさらっと言っちゃう感じ。僕が好きなユーミンソングのタイトルを彷彿とさせる。

1992 『紅の豚』/“Porco Rosso”
急に、イタリア語。
1986 『天空の城 ラピュタ』/“Castle In The Sky”
ラピュタはいずこへ。

このふたつは、ドドドとそり立つ言語の壁を感じさせる。「神隠し」という言葉の場合は、印象的な言葉が故に“千と千尋の”が省略されていても違和感はないが、ラピュタの場合はいかがなモノだろうか。『空に浮かぶ城』。ジブリワールドには近づかせん、とするlanguage barriersの存在を感じる。

結局はタイトルに関係なく、時計の長針が720度回る間は画面に釘付けになっているのだけれど。映画を観終え、休憩モードで重くなった腰を持ち上げ机に向かう"

過去に書いた日記。コペンでの生活中、毎日日記とやらを続けてみたために、このような気取った文が幾多残っているのだ。他人に見せない体で書く、というルールを課していた為、あまりにも旅エッセイからはかけ離れていることもしばしばある。どうかご容赦いただきたい。

アメリカ 縦横断の展望。



さあ、前置きが長くなったが、2019年9月より1ヶ月に渡ったアメリカ縦横断 / キャンピングカーの旅について、書き進めていく。写真や当時のやりとりを遡っていると、ふと浮かぶのは『あの頃に戻りたい 』/“Take Me Back”。ジブリのタイトルっぽさを目指したが、どうもセンスのなさが滲み出る。

さて、まずは今回の旅に至った経緯を簡単に説明する。始まりは、富士登山をしていたアメ横スクワッドの2人が「人生で1回はアメリカを横断したい、いやしなければいけない」と意気投合したことにある。思い立ったが吉日、すぐにそれぞれの友人、そのまた友人、そのまたまた友人と数珠繋ぎ式に仲間を集めた結果「人生で1回はアメリカを横断したい、いやしなければいけない」というメンバーが7人集まり、めでたくアメ横スクワッドの結成に至った。

今回通ったルートを大まかに説明すると、ロサンゼルス(Los Angels)→ キーウェスト(Key West)→ ニューヨーク(New York)の合計1万kmを超える長旅。とはいえ、直線でひたすら高速道路やらを突っ走れば、1週間ほどでゴールには辿り着ける距離である。
今回はこの旅路を1ヶ月、正確には28日を費やして走り抜けた。つまり、相当な寄り道旅である。

ちなみに、タイトルの「縦横断」という言葉はキーウェストからニューヨークまでの縦断も兼ねていることからきている。それから僕たちは、自分たちのことをアメ横スクワッド、時々アメスクと呼んでいる。1ヶ月もアメリカに居れば、これくらいのアメリカカブレなんぞ朝飯前である。
このアメ横スクワッドには、一度も顔を合わせたことがない者同士もいる。とても、不思議な巡り合わせで結成されたグループだ。
そのくせ能天気なもので、アメリカに旅立つまでにわずか1度しか顔を合わせたことがないメンバーもいた。「この先1ヶ月も一緒に過ごすのに大丈夫だろうか」と先が思いやられたことを覚えている。そして、この嫌な予感は的中する。

だが、それもシナリオを書いていては起こり得ないストーリーだったであろう、とポジティブに行くのがアメスク流である。

実際に通ったルート。



幾多に渡る深夜会議(という名のただの夜会)の末、アメリカ縦横断の旅は上写真のルートに決まった。旅路はロサンゼルスから始まり、最初の10日間はグランドキャニオンを含む国立公園など自然を堪能する旅、 2週目にかけてニューオーリンズなどアメリカのクラシカルな街やマイアミ・キーウェストといった海の街を訪れる。最後の数日間は、ワシントンやニューヨークといった高層ビルが立ち並ぶコンクリートジャングルを冒険して、帰国という流れ。

あらかじめ決めておいたのは、それぞれメンバーの役割、ざっくりの旅程、予算など。
しかし、学生にとって決して安いとは言えない予算の旅なんて、僕らにとっては初めての経験。それも僕らにとっては未開の地平アメリカで。

こんなもの最初に決めたところで崩れまくるオチが見えていなかったと言えば嘘になる。
しかしまあ、今振り返ってみれば子どもの成長を見守る親のようだが、なんだかんだ新しいことを知りながら、あれこれ経験していく中でうまく対応していく。素晴らしきかなアメ横スクワッド。送り迎えは俺のハーレーなんちって。

アメリカが持ち合わせる幾多の側面、1ヶ月ですら不十分だったドタバタあめりか縦横断の旅。ようやく本編です。

来たる日9月3日。



午後12時少し過ぎ。ぎっしり詰まったボストンサイズのバッグ1つを肩に背負った僕は、空港に到着した。集合は12時頃だったはずだが、14時過ぎにようやく電車の遅延で遅れていた最後のメンバーが到着した。彼は、矯正用マウスピースを忘れたせいで遅延に巻き込まれたという運のなさを持ち合わせている。

今思えば、溢れる興奮を隠そうとする皆の表情はどこか青く、恥ずかしいのか表情を表に出さないよう努める辺りに若さを感じる。みんな楽しみで前日寝れなかったのはいうまでもない。フライトの出発時刻は16時。それまで、空港2階のファストフード店で、各自忘れ物がないかの最終確認をする。

時計の針が14時半を指すころ、僕たちはゲートへと向かう。出国審査で、お姉さんに「アメリカ横断するんです〜」と鼻高々に自慢すると、気遣いとは思えないほど素敵な笑顔で「楽しんできてください」と返事してくれた。まだ僕たちが会話を紡ぐ言語は日本語だ。

いよいよ飛行機に乗り込む。僕たちはエコノミークラスで、これから十数時間を戦い抜く。飛行機の中は、睡眠確保という名目の戦場である。

3列シートの窓際に座ると、ルーティンである願掛けを心の中で行う。いくら安全になったとは言え、この小心者はドキドキしてしまうのだ。願掛けの効果もあってか無事に飛び立った飛行機は、関西空港を離れ、まずはアメリカ・シアトルへと向かう。そして、シアトルでのトランジットを経て、目的地ロサンゼルスへと向かう。
わずか1ヶ月、されど1ヶ月。大学生活にポッカリと空いたスキマである夏休みを使って、太平洋を超えた先にある国を周遊するだなんて、入学当初は思いもしなかったし、そもそも特段したいとも思っていなかった。だが今、僕はロス行きの飛行機に乗っている。アドベンチャー心が張り裂けそうだった。夢のようで夢ではない。だがこんな時に頭を占めるのは、単位を取れているか微妙だった授業のこと。まだここはアメリカへと向かう飛行機の中である。Sucks.

早速のトラブル。



どうやら、僕たちが乗ったシアトル行きの飛行機は少し予定よりも遅れているようだ。ロス行きの飛行機への乗り換え時間は、もともと1時間50分と短めに予定されていた。
なんでこんなギリギリなんだろうと思いながらも、まあ行けるかと思ってしまったのが大誤算。少し到着が遅れた上に、入国審査の列はかつてアドベンチャー系番組で見たグンタイ蟻の大群のようだった。おそらく、帰省ラッシュとかぶっていたのだろう。
というわけで、無事、僕たちは飛行機を逃した。現地時間にして、9月3日午前10:00頃のことだった。

だが、こんなことで狼狽えないのがアメスクの強さ。アメ横スクワッドのうちの1人は、高校時代の1年間をアメリカ・ジョージア州で過ごしており、英語に長けている。シアトルに降り立つと、困りごとを抱えていようが異国人だろうが、基本的に会話はイングリッシュで紡がれる。彼は飛行機の振替という、いかにも複雑そうな会話をささっとこなし「次の便で乗れるみたい」と僕たちに伝えた。クールゥゥゥ。

飛行機にも遅延手当があるのは知っていたが、まさか次の便にこうもすんなり乗れるものなのかと驚いた。感心、ラッキー。日頃の行いだな、と口を揃える勘違い者たち7人。

ということで、無事ロサンゼルスに到着。
初日は、かろうじて7人と荷物を積み切れるバンを借り、ROUTE66の終着点サンタモニカとグリニッジ天文台に行くことになっている。

アメリカ=ロサンゼルス。



「ロサンゼルス」という言葉の響き、留学候補先だったUCLA、大谷翔平が所属するロサンジゼルス・エンゼルスなどの影響で、ロサンゼルスには何か特別な憧れがあった。そして、ロスはその気持ちを裏切らない。

燦々と照りつける太陽は、頭皮を、コンクリート張りの地面を、車のボンネットをじわじわと焦がす。それくらいには、陽照りの強さを感じる。だが、カラッとした空気のお陰で、夏を感じるにはちょうどいい暑さであった。
上半身裸でスケボーに乗る若者たち、上半身裸で音楽に合わせて腰を揺らす老人たち、上半身裸で汗を流すマッチョたち in 屋外ジム。開放感という言葉がこれほどまでに似合う場所を僕はまだ知らない。

ここで僕は気がついた。ここまでずっと、同じ日付の出来事しか書いていないことに。
このままでは、いつまで経っても終わらないのではないだろうか。







僕たちは、レンタカーで街中をぐるっと観光し、夜はAirB&Bで見つけた大通り沿いの広いモーテルに宿泊。眠れないクソガキたちは、トランプで負けた人が寝ている人の足を舐めるという愚行で盛り上がった。そのゲームが終わると、気づけば旅の疲れだろうか、倒れるようにベッドで眠り込んでいた。

翌朝、窓から刺す日差しで目を覚ますと、冷めやらぬ興奮と共にジェットラグが僕を襲う。そして、いつもと違う天井に違和感を感じる。
ベッドから起き上がると、眠気に打ち勝った興奮が僕の足を一歩一歩と先へ進めてくれる。
今日は、9月4日。アメリカ縦横断のパートナーとなるRVを、カラッとした風と照りつけるロスの陽照りと共に迎える日である。


アーカイブはこちら

Tag

Writer