「らしくない」 のジレンマを乗り越えて

To Me, Somewhere in the World #29

「らしくない」 のジレンマを乗り越えて

Contributed by Yoko

Trip / 2022.06.01

「世界一周がしたくて、思い切って会社をやめた」
未知なモノすべて知らないことを知りたい、欲望に忠実に生きるフリーランスのWebライター・編集者Yokoさん。日本国内の旅の話をリアルタイムで、時に振り返りながらつづる旅連載。


#29

自分らしいって何だろう。
自分とは。人間とは。

ワイキキビーチ。



子供のころから「当たり前」や「概念そのもの」への疑問は尽きなかった。本当にそうなのか。本質は何なのか。考え込み、でも考え込んだ次の日にはどうでもよくなる。
そうしてそのまま大人になった。

*

ワイキキ、街並み。



旅に関して、ここのところ「らしくない」と思う日々を過ごしている。

久しぶりに航空券比較サイトで、国内航空券ではなく海外航空券の検索画面に進んだところまでは大きな進歩。ただ、そこから検索画面→個人情報を入力→決済画面に進むが押せない→検索画面に戻る、を永遠に繰り返してばかり。行先の入国条件を確認しつつ、目的地の往復チケットを検索し、日程を行きも帰りもずらしにずらして、料金を見比べて、帰国後のことを考えて、やっぱりやめる……のループ。

コロナ禍以前なら、目的地を決めて休みと費用を確認した時点で、すぐに航空券を発券していたのに。あんなに自由だったのに、とやはり失ってから思う「普通」への喜びや幸せ。

*

ダイヤモンドヘッド。



先日。直前の発券でもそれほど高くない航空券を、穴が開くほど見つめていてもついに発券はできないまま、念のためそのまま長旅に出られる用意をして東京へ。決められないなら決めざるを得ない状況を作ってしまえばいい。パスポートも久しぶりに持参した。

東京での目的は、旅好きの友人たちとのアフタヌーンティー。食事を楽しみながら、コロナ禍での変化や、最近お決まりの「いつ海外行く?」話を展開する。思うところはみな似ているようで少し安心しつつ、でもやっぱり最後のハードルが乗り越えられない。やはり決められないんだ……と思いさらに気落ちしかけていた時に、ふと「ハワイ行こうか!」という話に。

モンキーポッド。



自分との約束しかない旅は、いつでも行けるけれど行かなくてもいい。良いんだか悪いんだかわからない両面を兼ね備えている。だからこそ最終的に理由づけとなるのは、今の私にとっては人だった。別れたあとも連絡を取り合い、2年半ぶりのフライトはホノルルに決まった。ありがたい。そしてようやく発券。ホノルル行きまでに別のどこかへ行くかもしれないけれど、ひとまず発券できた海外航空券を見て、びしびしと喜びがこみ上げてきた。

*

Eggs 'n Things. ここのパンケーキが一番好き。



さて、しかしながら東京からそのまま旅に出ることは諦めて、長野に戻った帰り道。バックパックを背負ったままいつものカフェバーに寄って、半分は当初の想定通り、気落ちしたままカウンターに座る。ゆるゆると話す。

「一応準備したんだけど、行けなかった……」

こんなこと、自分らしくない。
旅という人生で最大に必要不可欠ではない、あくまで「うわずみ」みたいな部分で時間をかけて悩んでいる時間がもったいない。
そもそも行けばいい、ただそれだけなのに、コロナによって生まれたいろんな検討事項がドン、と積み重なって進めない。
解決策は目の前に提示されているのに、自分らしさと相反する行動をとってしまう……。

ジレンマみたいなものがしんどい、と。
そんな話をしていたら、思いも寄らない方向から「わかるよ」の一言をかけてもらって、ほとんど泣きそうになってしまった。

*

ワイキキビーチ、夕日。



流れつくように長野へ来て、もうすぐ1年。

「なんで長野に?」と言われるたび、特に強い移住の理由はなかったので「理由を説明する」ということにやや嫌悪感を感じる日々。もはや長野にいる必然性は完全に見失っていた。
だけれど思った。一つの土地で暮らすことの意味や価値を。同じ時間を同じ場所で過ごす意味を。「(もう1年くらい一緒にいるんだから)わかるよ」の言葉も意味も、それほどまでに嬉しかった。帰ってくる場所があるから、また旅に出たいと思うんだよね、きっと。

今は、やや無理やりにでもハードルを飛び越えて、新しい世界を見に行きたい。
「らしい」自分でありたいから。


アーカイブはこちら

Tag

Writer