ドタバタ、あめりか縦横断の旅 vol.2

FillIn The Gap #3

ドタバタ、あめりか縦横断の旅 vol.2

Contributed by Haruki Takakura

Trip / 2022.06.17

「これからどこまで自分の世界を広げられるだろうか」
この春ファッションの世界に飛び込んだHaruki Takakuraさんが、世界との距離を正しく知るために、デンマーク・コペンハーゲンで過ごした小さくて特別な「スキマ時間」の回想記。


#3



ついにキャンピングカーとご対面。

ようやく日にちが進み、9月4日。朝から数人のメンバーで、アメリカの交通ルールに慣れるべくドライブをした。朝からロス市内をドライブ、なんて憧れる響きなんだろう。思い上がらないように気をつけねばならない。アメリカと日本で違う交通ルールといえば、通行車線が右側で運転席が左側、そして右折の際には信号は無視してもいい、あとは確かスピード制限なんてものは無し…。

そんな冗談はさておき。気持ちが絶頂に達した僕たちは、昼過ぎにN.W.AやKendrik Lamarなど有名ラッパーを多数輩出するコンプトンのすぐ下に位置するレンタカーオフィスに到着した。そこに並ぶのは、4tトラックほどの大きさはあるFord製のキャンピングカーたち。言わずもがな、あまりの大きさに他のメンバーの顔も凍りついている。呆気に取られていたのか、不安に襲われていたのかはわからない。ただとにかく、脳内保管庫の棚を漁れども漁れども、この大きさの車を運転したというメモリーは見当たらない。これから約3週間を共にするホームとなるRVだが、完全なるアウェイスタジアムに放り込まれたような感覚に襲われた。燦々と照りつける日差しとカラリと乾いた西海岸の風が、僕たちを嘲笑する。

ドーナツポップひとつ分くらいに開いた口を閉じ、巨体の割に親近感を覚えるサイズのタイヤを見ていると、日本人スタッフの姫野さんが軽快な足並みで登場した。

「遠くからご苦労さまー!ロス暑いっしょ〜」

彼は相当長いことロスに住んでいるらしい。さすがはアメリカに惚れた男、集合時間なんかあったっけーと言わんばかりに遅れてやってきた。これはアメリカかぶれではない。根がアメリカに土着している、ネガアメリカンなのだ。僕は、アメリカにいる異国人だ。



RVの車中でキャンピングカーの説明を受けている最中に、オフィス入り口付近で頭部分がぐしゃっと潰れたキャンピングカーを見つけてしまった。

「姫野さん、あの車どうしたんですか?」
「入っちゃいけないとこに入っちゃったらしいんだ〜。ナビでは道路の高さや細さはわからないみたいだから、気をつけてね〜」

そんな会話があった。
ぐしゃっと潰れたレンタカーを横目に聞く弁償の話。2日間漬け込んだワクワクと採れたて山盛り恐怖のオードブル。複雑だよ、姫野さん。


『初めてのおつかい』



とはいえ、この巨大RVと向き合わないことには僕たちの旅は始まらない。ということで一旦頭を空っぽにした僕たちは、早速RVに乗り込んだ。大きさもさながら、驚くはその機能。ベッド6つにレンジ、トイレにシャワーとこれさえあれば生活ができる秘密基地が手に入った。まさに、旅人の憧れである。

早速、アメスク一行の兄貴役であるKが、汗ばむ手で巨体の操縦桿を握り高速道路に乗り込んだ。アメリカ西部の大半では、高速道路が無料で使える。道路が基本的に広いおかげで、練習も兼ねて、実践ドライブをすることができることが唯一の救いであった。だが、広い道路いっぱいを埋め尽くす車の横幅は、どれだけ運転したって慣れない気もする。片方の車線をタイヤが踏んでいて、車窓からすれ違うドライバーの顔がクッキリと見えていた。

15時すぎにレンタカーオフィスを出た僕たちは、グリーンの看板に白字で書かれた「Parm Spring(パームスプリング)」に向かう予定だ。最初のパームスプリングには、RV専用の宿泊所であるRVパークがある。RVパークを探すための専用アプリがある辺りは、とてもアメリカチックである。実際、この旅路の中で何台のRVを見かけたことか。多すぎて途中で数えることをやめた。一行は、このアプリで目的地をチェックしつつも、僕たちは初の買い出しのためにWalmartに寄ることにした。

Walmartとはコストコの様な大型スーパーであり、その数はアメリカ国内だけで約4800にものぼる。僕たちは、そこでガロンという聞き慣れないサイズのミルクや大量のスパゲティやリガトーニを買い込んだ。金銭感覚しかり、量の感覚まで狂った僕たちは、とりあえず2、3日分の食事をカートいっぱいに詰め込んだ。だが、忘れていたのはアメスクが食べ盛りの男7人組であるということ。大量のスパゲティは当日の晩ごはんでカルボナーラとなり消えたし、大量のガロンサイズミルクだってカルボナーラと翌朝のフレークと共に消え去った。



「このままでは食費がえらいこっちゃじゃない?」と焦る僕たちをよそ目に、敏腕マネージャーのYは予算よりは少なく済んだかなって。頼もしぃいい。いくらほど食べるつもりで食費を計算していたのかは気になる所だが、全員がYの資金管理能力に安堵した瞬間であった。

そして晩飯の支度は、ほとんど料理未経験の料理長と副料理長の2人組が担当した。ご了承いただきたいのだが、アメスクの料理長採用の基準は極秘とさせて頂いている。彼らが作る初日の晩ご飯はカルボナーラ。料理長・副料理長曰く、卵のみならずチーズを使っている点もポイントで、実際に食すとこれまたとびっきり美味しくて感服した。もちろん、レシピも極秘とされており、アメスク料理長は僕たちにすら教えてくれない。
あえて不満をいうのであれば、飲み物がコーラ縛りだったことだけが少しマイナスポイントであった。



こうして、初日の晩飯を無事に終えた僕らは、目的地であったパームスプリングのRVパークにて体力チャージモードに入る…。つもりであったが、白熱の寝床決めトランプ大会が始まったことにより、夜の幕が閉じかかった所でまた開き始めた。ちなみに一番人気はRV後部にあるダブルベッド。だが、僕は当初より運転席の上にある隠れ家的なベッドを狙っていた。無事、2位で大富豪を勝ち抜き、1人隠れ家で優雅な睡眠時間を過ごした。天井の低さがやけに心地よく、異国にいる興奮よりも何かに包まれている感覚に落ち着きをもらえた。

明日はアメリカ横断と言えば外せないスポット、旧ルート66に向かう予定だ。

ここで僕たちは、新天地に飛び込んだばかりの「イマの僕たち」に響く生き様をある1人のおじさんから教わることとなる。




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