ドタバタあめりか縦横断<br>~自分色のピースフル~</br>

FillIn The Gap #5

ドタバタあめりか縦横断
~自分色のピースフル~

Contributed by Haruki Takakura

Trip / 2022.07.15

「これからどこまで自分の世界を広げられるだろうか」
この春ファッションの世界に飛び込んだHaruki Takakuraさんが、世界との距離を正しく知るために、デンマーク・コペンハーゲンで過ごした小さくて特別な「スキマ時間」の回想記。


#5

50 miles straight



飽きとは突如やってくる強盗犯のようなものだ。

RVを走らせ始めてまだ3日目の今日、ついに睡魔に負けた者が現れた。これまでは運転中、誰もが外の些細な景色にまで興奮していた。ただただ、だだっ広いだけの荒野を見ては「うわ、みんな見て!!荒野!!」という声が上がる。通り過ぎる1台1台のアメ車や異国を走る日本車も、目を離さずに追いかける。そのため、会話が途中でプツンと途切れ少ししてから再開、もしくは何の話してたっけというような事がよくあった。その後も、ひたすらに同じ柄の万華鏡を覗いて興奮する子どものように、永遠に続く荒野を見ては目を輝かせていた。

だが、そんな日々はたった2日で終わりを告げた。彼にとってはたった2日だけでも、アメリカの何もない広いだけの荒野を見続けることは退屈だったようだ。「ずっとアメリカに来たかったと」一番豪語していたはずなのに。重なった記憶は、僕たちから刺激をどんどん強奪してゆく。飽きという特別な感情を持つなんて、人間は厄介な生き物だ。

目的地への道中、そんな彼が興奮した出来事があった。それはナビに表示された「50 miles straight」という文字。普段から車を運転することが少ないらしい彼にとって、約80kmも真っ直ぐにただ突き進むなんてという驚きがあったようだ。「それくらい日本でもあるじゃないか」なんて言ってしまうと、きっと彼は巣窟に戻ってしまうので、そっと心の奥底に言葉を飲み込んだ。その後も、彼が興奮して僕たちに呼びかけるタイミングには、ナビに「300 miles straight」などと気が遠くなる距離が表示されている。ナビが壊れているだとか、些細な曲がり道までの距離を示す機能がないから、とかそういうのじゃない。本当にただひたすら同じ景色が続くだけの道を、真っ直ぐに300マイル、つまり約500km進めという指示なのだ。アメリカはしばしば、お前たちはこの広大さに耐えられるのかと試練を与えてくる。

真っ先に睡魔に襲われた彼は、実はアメリカからの申し子ではないかと思い始める。だだっ広い景色には飽きるくせに、気の遠くなるようなアメリカからの試練には興奮する。なんなら、荒野を走っている最中も寝たふりをして、俺に釣られて寝るんじゃないぞと監視しているのではなかろうか。アメリカからの使徒として。本当、人間ってのはまったく読めない生き物だ。

それから数日も経つと「500 miles straight」なんて表示がナビに現れることもあった。彼に触発された僕たちは、それにテンションが上がる頭になっている。皆がナビを取り囲み、ワーキャーと叫んでいる頃。ところで彼はというと、寝床人気ランキングNo.1のダブルベッドで1人、上を向いて大の字となり寝転がっているのである。あぁ、やはり人間は厄介な生き物である。


淡色のピースフル



この日の大目玉はというと、Salvation Mountainと呼ばれる砂漠の中にて輝きを放つアートピース。ずいぶん走り慣れた荒野からソルトン湖に沿って45分ほど進むと、Salvation Mountainはそのピースフルなベールを纏った姿を現した。Colorがfullというより、あらゆる色に形を変えたPeaceがfullに詰まっていると言う表現の方が正しい気がする。



この砂漠の中のドリームプレイスは、レオナルドというヒッピーによって30年以上の年月をかけて作られたそうだ。素材には廃材が使われており、51年型シボレーのトラックの荷台に小屋を建てて、そこに愛犬と共に寝泊まりしながら創作したマスターピースだ。

この場所を実際に訪れるとわかるのだが、そこに至る道中にもヒッピーが築いてきた空気を感じ取れる。周辺には、ヒッピーたちがあらゆる現代の機知を取り除いて生活するキャンプサイトがある。機械や現代の産物に頼らずに自由でピースフルな生活を送る彼ら。その横で現代の機知が詰まったフォンを覗いて、表面的なカラフルさを写真に収めようとする僕たち。なんとも不思議な狭間で、僕はロスよりも更に熱っぽさを増した風に揺られていた。

きっと、レオナルドは色彩という文脈で丘をカラフルにした訳ではないのだと思う。彼にとってのピースを表現するパーツが、つまりは彼のハートを染め上げる色がこのような色だっただけの話ではなかろうか。



Salvation Mountain自体のすぐ横にも、男女共用の”野トイレ”なるものがあり、その土地に根付いたヒッピー風土が、Salvation Mountainの完全なる現代化を阻止しているかのように思えた。



この写真は、小さなサバクイグアナらしき物を追いかけている僕たち。こういう純粋な気持ちがいいんだよな〜と思いながらもPCと向き合う自分に、「そろそろ、身体は自然を求めているぞ」と緊急事態宣言を発令する。


モンスターサイズ



さあ、このSalvation Mountainを抜けるとついにナショナルパーク巡りが始まる。荒野を抜けるまであと一踏ん張りというところで、ロードトリップ初のガソリン補給が必要になった。確か、ガソリンの値段は大体1Lあたり0.9〜1.3ドルくらい。ちなみに、Googlemapでガソリンの値段が全て表示されるので、一番安いところを探すことでガス代の節約となった。

日本でも時々見かけるが、アメリカのガソリンスタンドにはコンビニが一緒にある事が多い。ガソリンの入れ方は特別難しくなかったため、記憶にも薄い。それよりも、付属のコンビニにあったMONSTERの方がよっぽど強く記憶に残っている。
こうしたエナジードリンクは、飲み過ぎると体に毒という話はよく耳にする。それがアースジェットばりのサイズでしか売っていないなんて、まともじゃない。だが、皆でシェアするのであれば都合はいい。当然こんな時は、このモンスターサイズのMONSTER1本を誰が買うのか、ジャンケンで決める。最初は、この1本を買ってはしゃいでいた僕たちだったが。

そのままで大人しく止まっていれば良いものを…。そんなはずもなく、気づけばこの有り様である。



君たちの血液が、エナジードリンクと同色に染まらない事を祈るばかりである。きっと副作用であろう、前章に登場した睡眠モンスターの彼も含め、誰も寝る事なくヨセミテ国立公園内にあるRVパークに到着した。

明日は、まだ見ぬ母なる自然に身を浸す。そのためには、エナジードリンクではないエネルギーが必要だということで。偶然、RVパークで出会ったスイス人のナイスガイ達とテーブルを囲んでBBQをしようということに。マイケルジャクソンのThrillerをスピーカーで流しながら、全員で噛みきれないほど分厚いステーキを頬張る。味よりも噛み応えが目立つステーキはThrillingではなかったが、雰囲気ボーナスで及第点としよう。遊び疲れた僕たちは、彼らとの出会いを惜しみながらも忘れずに寝床決めをする。そして、昨夜と同じ寝床を勝ち取った僕は、睡魔とディールを交わす。




Fin.



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