Los AngelesーArizona #1

anna magazine vol.14 Special Feature

Los AngelesーArizona #1

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Photograph: IBUKI

Trip / 2022.06.02

anna magazine vol.14では、カラフルな旅をお届けしています。今回は誌面の中からカリフォルニア〜アリゾナへの旅をご紹介。ロサンゼルスの青い空、アリゾナの大自然の緑、街々のカラフルなモーテルの看板、カラフルな風景と人との出会いなど、世界は様々な色であふれています。今号を読んでいただければ、みなさんもカラフルで、鮮やかな世界へ旅に出たくなるはず!




朝焼けに包まれたロサンゼルスを出発する。旅のパートナーが変わると、出発時はたいてい少し緊張した空気が流れる。まず私たちが目指したのはパームスプリングス。車をひたすら東へ走らせる。ここでの目標は、この旅の成功を確信するため、わかりやすい「カラフルな風景」のノルマを達成することだった。どれだけ旅慣れたとしたって、旅に「映えポイント」は欠かせないのだ。最初に衝撃を受けたのが「ザ・サグアロホテル」。砂漠地帯に突如出現した楽園みたいな不思議な場所だった。外観はもちろん、絨毯からインテリアまで惜しみなく色が使われている。気持ちよさそうにプールで泳ぐおじさまを横目に、ホテルのレストランで朝食を食べることにした。ロードトリップの朝食はアボカドトーストに決めている。オレンジジュースを忘れずにね。食事にも「色」を感じたかったのだ。虹色のホテルに後押しされて、次の目的地アリゾナへ。途中フェニックスに立ち寄り、気になる風景はいちいち寄り道して撮影した。走ること12時間。オレンジ色に照らされたツーソンに到着しようとしていた。ツーソンはアリゾナ州で2番目に大きな都市で、スペインやメキシコの雰囲気を感じる街。やがて夕日が山肌をピンクから紫、そして赤へと綺麗なグラデーションに染めていく。
 その夜街を散策していると若者たちがゾロゾロとホテルのライブハウスへ。ティーンに混ざって当然私たちも潜入することに。そこで繰り広げられていたのは、80年代にタイムスリップしたような光景だった。地元の高校生たちのバンドが出演する卒業記念ライブが行われていたのだ。そんな町で卒業ライブに潜入できるなんて夢みたいだった。私はアメリカの青春映画の主人公(人気者に憧れている側)になった気分で、アイドルみたいなボーカルの女の子に目を奪われていた。現実とは思えない不思議なシーンを体験し、夜は興奮して眠れないほどだった。
 すっかり彼女に恋をしてしまった私たちは、ロードトリップ中に彼女の曲を聴きまくった。2日目にしてすっかり旅があの女の子色になってしまったのだ。
 ツーソンを離れる時には少しだけセンチメンタルな気分だったけど、青い空の下、次に目指すのはサボテン公園。右を見ても左を見てもサボテン。その景色は圧巻だった。都会のビルの中を歩いているとキリンジの『エイリアンズ』を思い浮かべるのだけど、広大なサボテン地帯を見たこの時も同じ感覚に陥ったのは不思議だった。「これもまさにエイリアンズだな」って。私も一緒に彷徨うエイリアンの仲間のように、ずっとそこを離れたくなかった。ああ、これで何回目のタイムスリップだろう。
 ポップな建物とか空の青、サボテンやアイスクリームの色みたいなカラフルさを追い求めて旅に出たけれど、終わってみると、この旅での小さな体験それぞれが、鮮明で、カラフルな物語だったんだ。うまくは言えないけれど、旅の中で何度も体験した不思議なタイムスリップのような感覚が、実体のないカラフルなイメージとなって、この旅の鮮烈な印象そのものになったのだ。同じカラフルさを持つ旅は二度とない。そんな風に永遠に手に入れることができないものだからこそ、この旅を心から愛おしく思うのだ。特別な言葉は交わさなかったけれど、空港で飛行機を待ちながら私たちはそう思っていた。

3.93.9
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