眠れたらいいのに

No Sleep Ever #4

眠れたらいいのに

Contributed by Chika Hasebe

Trip / 2022.09.02

「NYは毎日どこかで何かしら起きている、本当に忙しい街」
目標に向かって、自ら道を開拓し続ける会社員・Chika Hasebeさんが、眠れない街NYへ旅に出た。誰よりも好奇心に従順な彼女だからこそ感じる、NYでの新しい発見と、心揺らすできごと。


#4

わたし:「ねえ、友達でも彼氏でもどんなに近しい人でも、とにかく他人とベッドをシェアするのがキツいっていう感覚わかる?」
同居人・同期:「え、わかんない」「いや、わからないな」
わたし:「ええええええええ!!!!」(わたしがおかしいのか!?)

これはNY旅を終えた一ヶ月後、会社の(元)同期と同居人の二人と我が家で飲んだ時の会話である。どうやらわたしは過敏というかセンシティブというか(同じことを繰り返しただけ)、これに関してはちょっと普通の感覚と違うという結論に持っていかれた。


Lantern Houseと呼ばれる集合住宅。こんなところなら寝れるのかしら。



事の始まりはNYでの友人との寝床のシェア。最初に泊まった部屋は、ダブルベッドとソファベッドを三人で分ける仕様だった。ソファは所詮ソファ。寝るには体が痛いからと、日によって寝る場所をローテーションで回した。当然ソファベッドは誰も好まないのだが、わたしはこの部屋の滞在が長くなるにつれて、そっちの方が寝やすいのではないかとすら感じていた。

ダブルベッドは十分に自分のスペースがあるし、なんならブランケットも二人分あって取り合いにならないのに、毎朝起きた時にしっかり寝た感覚がない。最初は旅の緊張感や高揚感を理由にしていた。しかし数日後に一日だけ部屋に一人になるタイミングがあり、その時は熟睡を超えて爆睡。どうやら同じベッドにいることが落ち着かないようだとこの時わかる。



そんな寝不足もあってか途中で風邪を引いた。滞在一週間が経ったある朝。起きてからこれは微妙かもしれないと感じつつ、気のせいであることを願って外出。自由の女神を見に行ったが、もうフェリーの間はずっと辛くて部屋にいればよかったと後悔の嵐だった。

限界を迎える前に部屋に戻ることを決め、帰りの薬局で薬を教えてもらおうと薬剤師に相談するも、「病院行け」と一蹴。仕方ないからスタッフのお兄さんにテキトーに教えてもらったものを一通り購入するに至る。旅に常備薬って本当に必要ですね。帰り道はただ帰れることに希望を感じるだけで、「ああ、これで寝てもしばらく治らなかったらどうしよう」と不安だったけれど、実際はそんなこと考える元気もなかった。死んだように寝ている時に見た夢には、前の彼氏が出てきた。それだけなぜか引っかかる。



結局寝れば治るもので、その日の夕方頃にはすっかり回復した。その安堵感とともに、母からのLINEに気づく。なんと! ちょうどその時、MET GALAが行われていた! しかもその情報を遠く離れた日本にいる母から聞くなんて! 母は呑気に「やってるけど、見に行ったの?」なんて言っている。2週間もあるし、1日ぐらい風邪ひいて休んでたってどうってことないと思っていたが、この時ばかりは寝込んでいる間に見逃したことを激しく後悔した。

回復した夕方にはもうミートボールを食べていた。驚異的な食欲の回復。



その最初の部屋を出た後に一泊だけしたホテルで、久しぶりに広々としたベッドに一人で寝た。幸せを噛みしめる前に眠りについていた。

その後はすぐまた友人宅に転がり込んだ。NYに留学している彼女は、今回わたしがNY行きを決めたきっかけの一人でもある。彼女も部屋を間借りしているようで、NYで暮らしていくことのハードさを垣間見た。

初日、彼女の家には予定の1時間遅れで着いた。電車で乗り過ごしたり、ホテルに戻るのに手こずったり、終いには彼女の家の住所を間違えていた。色々違う。申し訳なかった。彼女はわたしが着く頃には眠りに落ちる寸前で、わたしは後から隣に滑り込むのが申し訳なくてダブルベッドの横のソファで寝た。



その日、間借りしている部屋のリビングにはスペイン人のママとその娘がいた。友達はわたしを部屋に入れる前、「娘さん普段はいないんだけど、どうやら彼氏と喧嘩してこっち来てるらしいよ」と耳打ち。ふむふむ。なんとその情報が生きたのは、その日の夜中。電話で大喧嘩する娘さん、どうやら相手は彼氏のよう。わたしには「なんで迎えに来ないんだ、おめえ!」というニュアンスに聞こえたが、友達には「迎えに来んな!」だったらしい。ただ「Suck my dick」って何度も電話口で叫んでいるのは二人の共通認識で、さすがに笑った。ああやって喧嘩するんだねって感心した。

話を戻そう。寝床はソファ、娘さんは罵り倒す、とかなり劣悪な環境で迎えた友人宅滞在初日は、翌日彼女が家を出るタイミングでベッドに移動して意図的に二度寝。「ベッドを独り占めできるってこんなに最高なのね」とNYに来てよくわからない感動を味わった。



それから約一週間。彼女の部屋で過ごさせてもらってとてもありがたい限り。ただ、やっぱりわたしには同じベッドで寝ることは厳しかったよう。日本に帰る日、やっと帰れるという謎の安堵をじわりと感じた。


眠らない街。眠れない街。誰かと一緒にいても、スッキリと寝られる日が来るのだろうか。







アーカイブはこちら

Tag

Writer