聖ニコラスの贈り物と、<br>おっちょこちょいなファビオ。

Greenfields I'm in love #67

聖ニコラスの贈り物と、
おっちょこちょいなファビオ。

Contributed by Aya Ueno

Trip / 2022.09.16

兵庫県神戸出身、東京在住のWriter/Photographer。学生時代に渡ったイギリス留学を機に、人や、取り巻く空間を魅せる表現に興味を持ち、現在Containerをはじめ、カルチャー、フードメディアにて発信中。

#67

12月6日、家に帰るとホストマザーのカトリンに、今日は寝る前に部屋の外にブーツを出しておいてねと言われた。なんのために? と聞くと、今日は聖ニコラスの日だから、と言う。カトリンがドイツ人なので、我が家ではイギリスとドイツのしきたりをどちらも行う。どうやら聖ニコラスの文化はドイツから来たもので、寝ている間に聖ニコラスがご褒美のチョコレートやナッツをブーツに忍ばせてくれるらしい。貧しい子供たちのためにニコラスが窓に放った金貨を暖炉にかけられた靴下に入れたのが起源なんだって。いかにもわたしの好きな感じの習わしだ。
カトリンやウィル(ポストファザー)は、伝統文化をただのお祭り騒ぎにするのを嫌い、クラッシックなしきたりを大事にするので、わたしは自然といろんな文化を背景と一緒に学ぶことができる。

次の日、あまりに楽しみでいつも以上に早く目覚めたわたしは、何をするより先に部屋の扉をあけた。昨晩出しておいたわたしの片足のブーツには、チョコレートや胡桃がたくさん入っている! 聖ニコラスが来てくれたみたい。

この胡桃はまだ捨てられない。



ポーリーの元にも彼(ニコラス)は訪れていた。



それから12月6日は、ホームメイトのファビオの帰国前日でもあった。彼はいつも行き当たりばったりで、自由奔放でありながら、とっても温かい心を持つ人だった。たまに変なことをして(そこには彼なりの動機やストーリーがあるのだが、それを聞かなければかなり不可思議だ)怒られたりするのだけど、そんな時は肩をすくめてごめんねと謝り、気まずさを見せない肝の座ったところがわたしは好きだ。わたしはこういう時、大抵おろおろしてしまって余裕がなくなる。そういえば、昔わたしに告白してくれたこともあったけど、それでも私たちは気まずくなったりせずに、その後も仲良しの兄弟みたいにいられたのも、彼のハートの温かさや、気まずくさせない気遣いと落ち着きのおかげだと思う。

一方怒られたことといえば、ついこの前も彼はカトリンを激怒させる出来事があった。深夜にPV撮影がしたくなった彼は(彼はラッパーだ!)、真っ白な背景で撮影したかったらしいのだけど、残念ながら彼の部屋はどうしても物が写ってしまう配置になっていた。そこでファビオは私の背ほどある大きい棚を移動させ、動画撮影を決行した。夜中に鳴り響いたガタガタという音に不安を抱いていたカトリンは、次の日部屋を覗いて大激怒! 元々怒りっぽい(というか、ドイツ語のアクセントのせいか、怒っているように聞こえる)彼女だが、棚がもし壊れてたらどうするんだ、というか勝手に移動させるなんて! と怒りを通り越してショックを受けた様子だった。この棚はドイツの実家から持ってきた大切な棚だったらしい。そんなわけで朝ご飯を食べにキッチンへいくと、そこはなんだか異様な雰囲気が漂っていた。
流石のファビオも少し引き攣った笑みをしていたが、それでも部屋に逃げたりせずに、その雰囲気をしっかり味わって反省していた(笑)。その姿は本当に健気。そんな彼だから、こういったドジなヘマをしても、もう、ファビオったら! と、みんな許したくなるんだろう。

12月6日、最後の晩餐は僕がイタリアンを振る舞う! と彼は張り切ってキッチンに立った。音楽も、絵も、なんだって上手で器用なファビオだから楽しみだった。意外と手際の悪い彼に、小さなジャガイモを何十個もむいてすりおろす大変面倒な作業を任されてちょっぴりイラッとしたけど、彼が作ってくれたフリコというジャガイモを揚げた料理はとても美味しかった!

真剣なファビオ。



彼は次の日、まだ外が暗い時間に出ていった。これまで早い時間のフライトで国に帰るルームメイトは大抵何も言わず黙っていなくなることが多かったが、彼はそんな気遣いはせず、私の部屋に大きなハグをしに来てくれた。わたしはそれがすごく嬉しかった。

彼は自由奔放で、ドジで無計画、わたしと同じだけれど、わたしと違って、楽観的で、強かった。悲しい思いもいっぱいしてきたはずだが、そのおかげか本当に温かくて、わたしは寂しいことがあると、よく彼の部屋の扉をノックした。私も彼も、同じくらい英語はめちゃくちゃだったが、彼ほど意思の疎通ができた人もまたいなかった。小さな時から、クールでかっこいいお兄ちゃんがほしかった私にとって、彼はドジでカッコ悪いけど、世界一素敵なお兄ちゃんだった。

大好きなファビオ、また会えたらいいな。ありがとう!


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