ドタバタあめりか縦横断<br>~National Park Grand Canyon紀行~

FillIn The Gap #9

ドタバタあめりか縦横断
~National Park Grand Canyon紀行~

Contributed by Haruki Takakura

Trip / 2022.09.09

「これからどこまで自分の世界を広げられるだろうか」
この春ファッションの世界に飛び込んだHaruki Takakuraさんが、世界との距離を正しく知るために、デンマーク・コペンハーゲンで過ごした小さくて特別な「スキマ時間」の回想記。


#9

『National Park Grand Canyon編』

ザイオン国立公園を抜けた僕たちは、予定にあったブライスキャニオンをスキップして、アンテロープキャニオンへと向かう。アンテロープキャニオンは、赤褐色と天色の美しいコントラストや今にも動き出しそうな奇妙な造形をした砂岩が特徴の渓谷だ。ここだけでも大興奮なのだが、ここからの3日間は贅沢すぎるほどのフルコースが待っている。

馬の蹄型に侵食された渓谷ホースシューベンド、モニュメントバレー、さらにはグランドキャニオンの大渓谷も訪れる。いくら堪能したって決して胃もたれすることのない、なんだかギルティすら生まれるほど濃密なフルコース。もし、機内食が「Beef and Chiken」で、デザートがアンデスメロンの1/6カットであったら... そんな無謀とも思えるほどの妄想がこれからの3日間に詰め込まれている。
僕たちは身支度をサッと終わらせ、興奮冷めやらぬまま早朝のユタ州を後にした。


〜いざアンテロープへ〜

RVの管理者である姫野さんから、アンテロープキャニオンを訪れるベストタイミングは、光が差し込む【11:30〜13:00】と聞いている。僕たちはラスベガスからザイオンへと向かった際に進めた時計の数字をしっかりと1時間戻す。
アメリカには州ごとに時差があるため、時計の針を進めたり戻したりと非常にややこしい作業が必要となる。その上、アンテロープの場合は指定時間のツアーに参加しなければベストな景色を見れないという制約があるため、この作業をサボることは許されない。後に知った事だが、実はアンテロープは先住民のナバホ族が所有する土地であるため、ツアーに参加する必要があるとのことだった。

僕たちは前日に予約したデジタルチケットを用意して、アンテロープキャニオン受付へと向かった。ツアー案内所でチケットを見せると、ナバホ族らしきガイドさんが僕たちを2台並んだバギーの元へと案内する。

「どこへ向かうの?」と尋ねると、ガイドさんは「地下にあるロワーアンテロープの入り口だよ」と答えた。

バギーに乗り込むと、すぐさまエンジン音と共にガタガタの道を走り出す。僕たちは、少し荒い運転のバギーに揺られ、地下へと続く入り口へと到着した。わずか5分ほどの道程だった。土埃に塗れたバギーを降りて地下に続く階段を下ると、そこには影に包まれた静かな空間が広がっていた。辺り一面にひやりとした空気が漂う。







自然と歴史が紡いできたコントラストの美しさを、目と同時に写真にも焼き付ける。

アンテロープキャニオンを堪能した一行は、ホースシューベントを訪れ、グランドキャニオンへと向かった。小さい頃から、テレビの特集などでよく耳にしたグランドキャニオンは、フルコースの中でも一段と飛び抜けた風格を放つ。小説家・開高健は「食」と「性」を言葉で表すのは最も難しいと述べたが、このグランドキャニオンの大絶景も言葉で語ろうとすればするほどチンケに聞こえてしまう類だと思う。目で見る景色と心に浮かぶ景色とは異なるからだ。景色はその時の感情を含んではじめて記憶に残る絶景となる。自分の足で登った山から見渡す風景、何かを成し遂げた日にふと見上げる青空。見る人や感情によって表現が異なる、言葉では表せない景色がそこにはあった。
「息を飲む」「言葉を失う」といったコトバ化できない感情の表現が生み出されていなければ、誰も文面では伝えきれない感情なのではなかろうか。場面はハッキリと頭に浮かぶのに、誰かに伝えようとすると言葉を失う。ひたすらに、個人的な語彙力の問題ではないことを祈るばかりである。





まあコインの裏表である。これだけ感動を伝えようとする人間がいる一方で、きっとNYに一刻も早く行きたいと願っていた彼にとっては地獄のような3日間だったことだろう。


夕方にグランドキャニオンへと到着した僕たちは、そのまま日没を待った。2億年前もの土壌が残る土地と言っても想像し難いが、100年の人生が200万回である。なんにせよ、長いことくらいは身にしみてわかる。みんなが行く場所には行きたくない。そんな旅人がいたら、ぜひ食わず嫌いをせずに訪れてみてほしい。無論、空が青いうちに1回、それから陽が沈んでからもう1回。










2億年もの時を視覚的に味わえる渓谷、グランドキャニオン。ジュラシックワールドじゃないけど、人類は歴史のほんの1パートしか知らないということを改めて思い知った。そのことを自覚して、なぜ自然への尊厳と地球を大切にする姿勢が大事なのか、もう一度考え直すべき転換期に僕たちは生きているようだ。


Fin.



アーカイブはこちら

Tag

Writer