タイミングの重なり、再び

No Sleep Ever #5

タイミングの重なり、再び

Contributed by Chika Hasebe

Trip / 2022.09.16

「NYは毎日どこかで何かしら起きている、本当に忙しい街」
目標に向かって、自ら道を開拓し続ける会社員・Chika Hasebeさんが、眠れない街NYへ旅に出た。誰よりも好奇心に従順な彼女だからこそ感じる、NYでの新しい発見と、心揺らすできごと。


#5

滞在中、わたしの大好きなバンドMICHELLEのライブに行った。アイルランド留学時代のHONNEといい、こんなに運よくライブの開催日と自分の滞在が重なるものなのか。当時かなりハマっていたHONNEも、たまたまダブリンに来るという情報をライブの数日前に知って、焦ってFacebookでチケット譲渡してもらったのだった。今回もなかなかの偶然だった。もちろん彼らのInstagramは常に見ていたので、偶然というよりは引き寄せにいった感覚が強いかもしれない。それでもこの短いわたしのNY滞在期間中に、彼らの本拠地でライブが見られると出発前に知った時は、かなりアツい瞬間だった。

MICHELLEを知ったきっかけはSpotifyのリコメンデーション。R&Bのジャンルの音楽は普段からよく聴いていたので、彼らもドンピシャだった。ジャケットやMVもかっこいいなとなんとなく思っていて、ある日ふらっと彼らのプロフィールを読んだ時があった。グループの成り立ちや音楽を作る姿勢が、わたしが感じる生粋のニューヨーカーっぽさを表しているというか。多様性を尊重し、くっきりとは分類できないような音楽を生んでいる。ずっと憧れていたNYを彼らは日常として切り取り、どこか実験を楽しんでいるような雰囲気を作り出す。それがとても身体を委ねたくなるような音に繋がっている気がした。そこからはずっとネットで追っかけをしていて、いつか日本に来ないかな、と期待していたバンドだった。

お気に入りはこれ。距離を縮めたい女の子についての曲。


当然日本からの友人、NYの友人の誰かは一緒に行ってくれるだろうと高を括っていたら、出発直前になって「おや? 誰も行けない?」という事実に気づく。よくよく考えてみたら、ちょうどその日は一人でホテルに宿泊する日だったのだ。まあgeekなので一人でも行くのだが。急いでひとまず自分のチケットだけでも買おうとサイトにアクセスしたら、「Sold out」の表示。これはかなりまずい。「再販のチケットをお待ちください」の一文にするかのように、ページを来訪する毎日。突如ページのPV数に貢献するかの如く、必死だった。結局ある日突然サイトで再販が始まって、ライブに行けるようになったが、航空券もライブもチケットは見た時すぐ買うに尽きるなとつくづく感じた。(感じつつ今日現在も実践は出来ていない)


BoweryのCool kids。



ライブに行けなくなる危機を乗り越え、迎えた当日。会場はNew Museumにほど近いBoweryのライブハウスだ。Brooklynの部屋に泊まっていた時はこのエリアに足を踏み入れることがなかったので、正直どんな地区なのか全く知らなかった。開場まで外で待っていると、目の前の横断歩道を行き交う全員が全員、何か言いたげなoutfitsで街を歩いていることに気づく。こんな魅力的な場所があったのかと目を丸くしてあたりを見渡した、滞在一週間後にして初めての経験だった。どうやら地元の中でもここは個性的な人が集まるらしく、前で並んでいた二人組は、その横断歩道を渡る人々のoutfitsに対して一つ一つコメントしていた。スティックすら持っていないが、NYの植松晃士を見た。

ちなみに後ろで繰り広げられていた会話も、なかなかすごい。せいぜい$30ぐらいだったチケットをリセールで買ったらしいが、なんと$100出したらしい! その近くにいた一人で来ていたanother geek(勝手に仲間意識)がその金額に驚いて叫んでいた。ひええと思いつつ、もし買いそびれちゃったら、わたしもリセールで買っちゃうかもと同情した。



ドアオープンが19時なので20時から開始か、と思っていたら、さらに1時間前座のアーティストで持たせるという、まさかの2時間耐久戦。普段ライブに一人で足を運ばないので、この待ち時間をどうしたらいいのかわからずそわそわする。人の会話が聞こえてもズカズカと入っていくわけにもいかないし、BGMもそこそこに音を張っているので、隣の人との会話もなかなか難しい。先ほどのanother geekは同士かと思いきや、彼は異次元geekであることが判明。もはやMICHELLEのメンバーと友達レベルの関係で一人で会場に来ていたものの、会場内のそこらじゅうに知り合いがいるらしく、背も高くて声も大きくてどこにいてもわかる宇宙級の存在だった。

2時間後にようやくMICHELLEが入ってきた瞬間は、とてつもない感動が溢れた。ステージ前に運よく滑り込めたので、唾も飛んできちゃうような距離感でサウンドとエネルギーを肌で感じられたこと自体が幸せだったし、体中がどんどん音楽で満たされていく感覚でいっぱいだった。今までイヤフォン越しで聴いてきた彼らの音楽。生歌はその何倍も上手くて、ライブって音とか崩れがちなのに「そんなことある?」って思うほど。特にSofieはソロでもずっと聴きたいほど歌唱力が高くてびっくりした。でも、MICHELLEは6人でバランスが取れているので、今の形がベストなのだろう。





Youthのバンドっていつか終わりが来るように思うけれど、それって実際いつなのだろう。誰かの独立? 方向性の不一致? もちろんYouthに限らずバンドの解散や脱退ってよくある話だけど、Youthには特有の儚さみたいなものがある気がする。

曲が一つ一つ流れる度、イントロで「キャー!」っと沸いて全員が歌い出す。やっぱり言語が違うからか洋楽って結構好きでもBGMとしてしか耳に残らないが、彼らの曲は知らない間に全て口ずさめているようになっていた。そんな自分に驚く。確かに本当にずっと聴いていたんだなと改めて沁みる。


久しぶりのライブ、初めてのMICHELLE、NYのBowery。街も人も変わるけど、この感覚は永遠に覚えていたいな。





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