Santa Rosa Marathon

Couch Surfing Club #10
西海岸ロードトリップ編

Santa Rosa Marathon

 

Contributed by Yui Horiuchi

Trip / 2022.09.29

海外へ何度行ったって、旅慣れなんてない。旅で出会う全ての人にフランクに接し、トラブルだって味方につける。着飾らず等身大で、自分のペースで旅を楽しむアーティストYui Horiuchiさんが、サンフランシスコからポートランドまでの旅の記録。

#10

一泊したモーテルにチェックアウトまで荷物を置いて犬の散歩に行く。

Juliana Park。モーテルに隣接する公園で朝露に濡れた芝生の上をサンダルで滑らないよう、一歩一歩踏み締めながら進む。

気を緩たら、リスが大好きな8歳になる60kg強のリッジバックに体ごと持っていかれそうになった。
コーヒーを片手に、二重にしたリードを右手でぎゅっと握りしめ、道すがらお散歩する人たちと朝の挨拶を交わした。




公園の一角でボッチェの練習に励む人がいた。
マイボールを持ち込む本気度で、腕前を見て思わず声をかける。

「すごいお上手ですね!」

「ありがとう、よい一日を!」

「あなたも!」

公園の出入り口で梨のような実をつけた木を見つけた。

「これなんていう木だろう」

「梨でしょ?」

「えー違くない?」

そんなことを言いながら上を見上げて実を触った途端、小さい花のやくのようなものがわたしの左目に直撃した。
痛い痛いと言いながら目をこすってるうちに入ったものはすぐに取れたが、

「梨を梨じゃないってニセモノ呼ばわりしたから反撃されたね」

なんて友人に笑いのネタにされる。
公園に面した閑静な住宅街を数ブロック抜け、川沿いの沿道に出た。
友達が突然靴を脱ぎ捨て、靴下の裏と靴の中敷きを何度もしつこく凝視しては、指についたそのなにかの匂いを嗅いでいた。
10歩ほど先を行ってた私は踵を返して、どうかしたの? と尋ねる。

「本当に意味分かんないんだけど、犬の糞踏んだかも。つい今さっき靴の中で柔らかい感触があって、でもスニーカーなのになんで?どうやって入ったのか訳が分からなくて、まじ最悪」

友達として最低だけど即大爆笑した。
わたしも思わず、

「きっとそれも梨の襲撃に違いないよ!」

と、全く訳の分からない励ましの声をかけた。
その後ちゃんと爆笑してしまったことは謝ったけど、靴を履いていたのに糞を踏むというむしろ衝撃的な出来事にすっかり消沈してしまった友人に、

「いいおしり拭き持ってきてるよ、使う?」

と気を取り直すために聞いて見たけど、

「あとでサンダルに履き替えるから大丈夫」

と、もうこの話はしたくない様子だった。
わたしもさすがに自分が同じ立場だったら、と考えて反省してそれ以上何も言わなかった。




川を隔てて、反対の遊歩道が賑わい始めた。
老若男女、犬や子連れの人らが次々と一方向に向かって進んでいく。

「まさか」

突然友人が状況を飲み込み、

「今日サンタローザマラソンの日だ!」

そう言った途端、けたたましいホイッスルとパフパフというクラクション、蛍光色の作業用ベストを身につけた男性がピストバイクを立ち漕ぎしながら、ものすごいスピードで

「右!!右に寄って!!みんな右側を歩いて!!!!」

と叫びながら群衆を逆流していく。

「あの人何やってるんだろう」
「多分折り返し選手の先導じゃない?」

その言葉通り、もう二台自転車が続き、
マラソンの参加者たちから拍手喝采が湧き上がる。

「ほら見て」

視界の左奥から信じられない速さで疾走する女性ランナーが現れた。
つまりどこかでUターンし、このマラソンの先頭を切って走っているトップランナーだった。
わたし達もその圧巻の走りに思わず立ち止まり、川越しに拍手を送っていた。
呆気に取られているうちにすぐに2位、3位の走者が現れ、また拍手が沸き起こる。

Pacific Coast Highway 101と立体交差している地点で、2位争いのドラマが繰り広げられていた。


朝9時のサンタローザの気温は残暑も全く残らない15℃前後と肌寒く、細かい霧雨が降っていた。

「こんな日はマラソンにもってこいだね。歩いてもよかったらわたしも全距離歩き通す自信あるな」

「それ全部で何時間かかるの」

「多分8時間くらい。浅草から世田谷まで歩いた時、片道20kmでコンビニに立ち寄ったりしながら4時間かかったからその約2倍だよね」

「なんでそれ歩くことにしたわけ?遊び?」

「そう遊びで、一人だったけど東京観光しながら歩いて楽しかったよ」

「それならジョインできる自信あるな。東京は歩きやすいし、安全ですぐにコンビニが見つかるもんね」

「じゃあ、次回東京来たら食べ歩いてシティハイクしよう」

「そうだね、ただいつ行けるか分からないけどね」

外国の友人たちと今度日本に行けることがあったら、っていう話にいつも同じオチがつきまとうこの2年半。日本が個人の観光客の受け入れを開始する日は近い気もするけれど、今日もまたどこかもどかしいような不甲斐ないような気持ちになってしまった。

こんな時こそ、一種のメディテーションとして無心で走りたくなるような朝、モーテルに戻りサンダルに履き替えた友人とサンタローザを出発した。


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