Couch Surfing Club #25
西海岸ロードトリップ編
Golf debut
Contributed by Yui Horiuchi
Trip / 2023.01.19
#25
「もしもし、今日友達と伺おうと思ってるんだけど、自分の犬をいっしょに連れて行ってもいいかな?」
「(電話口からかすかに聞こえる相手の声)」
「分かった!ありがとう!じゃあ後で!」
最近ゴルフにハマり、二日に一度は地元の小さなコースに出て練習していた友人。
陽性反応が出てからしばらくは自宅の裏庭で素振りをしていたけど、昨日Amazonで頼んでいた新しいクラブが届いていた。
試したくてうずうずしてるんだろう。
「ゴルフ場に犬と一緒に来ていいって言われたんだ。YUI、散歩ついでに一緒に回らない?」
「え!ゴルフ場に犬連れてっていいの!?最高じゃん!」
まだ陽性だけど症状も軽く元気な友人。
出かけられないフラストレーションはわたしより大きそうだ。
一緒に車に乗り込み、受付はわたしが済ます。
犬のリードを持って今日は半コース回ってみることにした。
人との距離も十分に取れるし、ゴルフはいいアイデアだったと思う。
友人も初めて犬と一緒にゴルフを回れて嬉しそうだ。
「ちょっとそこに伏せてくれる?」
犬のリードをカートに繋げて後ずさり。
何をしてるのかと思ったら、犬のゴルフデビューの記念撮影だ。
よほど嬉しかったんだろうな。
近所のボー・プリィ・ゴルフ・クラブ。フランス語みたい。
ゴルフ場と言っても、みんなが想像するようなゴルフ場は会員制で高くて、社交の場っていうイメージがあるかもしれない。
けど、こういった田舎の住宅街には土地がたくさん余っていて、会員制のゴルフ場で始める前や日頃の練習、老夫婦の散歩のついでのような感覚で来ている人たちがプレイしている。
こういった地域のゴルフ場はクオリティの差はあれど日本と比べてかなりお得で、手押しのカートも〜$5くらい。安いところだと$1なんてとこも、運転するタイプは$10とか。
友人一人だと半コース$29くらいだったけど、ゲスト一名(キャディ)っていうことでカート込みで$40してなかったと思う。
確かに芝の手入れはグリーン以外あまり行き届いていなくて、乾燥しすぎててボールが飛び跳ねるって友達は文句も言ってたけど、下手くそでも気軽に練習できるあたり、スコアを気にせずうまくもなりそうだとも思った。
日本でわたしの祖父とゴルフに行った時は、芝が朝露で濡れていてボールが滑って転がるって言ってたな、、
じゃあ一体いつがパーフェクトな芝のコンディションと言えるのかな。
正午前後? でも、時期によってはむちゃくちゃ暑そうじゃん。
そんなことを考えながら、半コースの残り半分くらいまで来た。
もはやほぼ読めないサイン。
軽く丘のあるコース、ボールの行き先が見えなくなるので、先にコースを進んでボールを探しに行った。
軽いと思っていたのは見た目だけで、丘のてっぺんから降り始めたら徐々に駆け降りるような格好になる。
えいやっと走り始めたらいよいよ足が止まらなくなった。
リードを繋いでいた犬も合わせて猛ダッシュになる。
幸いゴルフ場ということもあって、木の根っことか障害物がなかったから安全だったけど、あんな急な下り坂を走って降りたことは高山病になって母と急いで富士山を下山した時以来だろう。
あちらは砂利道で余計危なかったと思う。
苦しそうに肩で息をするわたしを見上げて、舌を出しながらこちらを見上げる犬。
『もう一回やろうよ』
とでも言いたそうな嬉しそうな顔だ。
たくさん走ったので、二人で水を飲み休憩をして、友人がカートを引いて合流するのを待った。
たくさん運動させて水もいっぱい飲み、終盤しっかり用も足した犬。
ゴルフ場で犬のdoo dooの始末をする経験はきっと後にも先にもないだろう。
ゴルフ場の受付付近で見つけたブラウニーって彫られた石。
意味や用途は不明だったけど無性に気になって、カメラを向けた。
しばらくぶりのコースは、あまり良い結果にならなかったようだった友人。
2時間近く日に当たっていて、喉が渇いたわたしは
「ビール飲みいこ」
そう言って、体調が良くなって以来(ようやく)初のタップバーに。
前回は体調不良の兆しがあって美味しく飲めなかったクラフトビールも、今日なら美味しく飲み切る自信がある。
そんな自負を胸にBIG FOOT TAPROOMに向かった。
犬と友人はビアガーデンで待たせておいて
「何がいい?」
「まかせる」
「OK」
まかせるって言われてもな、、
何も決めないままカウンターへ行くと、気になったものを試飲させてもらって、二人分の会計を済ます。
友人にはオレゴン州BendのBoneyard American IPAを、わたしはEugeneのHop Valley Pineapple IPAを頼んだ。
「なににしたの?」
「飲んだら分かるかも、当ててみてよ」
「うん、まあ美味しいね、んーなんだろIPAだろうけど飲んだことない気がする」
「オレゴンのBendで作られてるBoneyardってとこのIPAにしたよ」
「うっそ!まじで!これ今度飲もうって思ってたやつだよ!すげー!」
「うそでしょ!オレゴン州縛りにして頼んでみただけなんだけど、まさか偶然だね!」
「常連の長老みたいな口髭を生やした人が毎日カウンターの決まった席に座っててさ、この前何飲んでるのか聞いてみたんだよね。そしたらこのビールって言うんだけど、まだ飲んだことなかったから今度来たら試してみようと思ってたんだ。まさかYUIがこれをセレクトすると思わなかった、美味しいよ!YUIは何にしたの?」
「これもオレゴン州のビール、パイナップルIPAって絶対美味しいと思って。Hazyの試飲させてもらったんだけど、ピンとこなくて悩んでる間にこっちのメニューが目に入ったから、その瞬間オーダー変えたんだけど正解だったわ、めっちゃ美味しい!」
友人の倍のスピードで完飲したパイナップルIPA、味覚も元に戻っていて本当に美味しく飲めたビールだった。
太陽の下で飲んでるから、元気だから、美味しく飲食ができる喜びも体調を壊して、初めて日頃の健康な身体に感謝できる。
そんな話を友人としながら、早く陰性(ネガティブ)になってっていう言い回しが「Be negative!」で、そのまま聞いてると、『陰気になれ!』みたいに聞こえて可笑しいねって、笑いながら家に戻った。
「Be positive!」って『前向きになって!』とは言うけど、さすがに反対はなかなか聞くことがないかも。
でも今はNegativeになってくれることを祈るばかりだ!
アーカイブはこちら
Tag
Writer
-
Yui Horiuchi
東京を拠点に活動するアーティスト。幼少期をワシントンD.C.で過ごし、現在は雑誌のイラストや大型作品まで幅広く手掛ける。2015年に発表した「FROM BEHIND」は代表作。自然の中にある女性の後ろ姿を水彩画で描いた。自然に存在する美や豊かな色彩を主題にする彼女の作品は海外でも評価されている。