スモッグ、もくもく

Greenfields I'm in love #70

スモッグ、もくもく

Contributed by Aya Ueno

Trip / 2022.11.25

兵庫県神戸出身、東京在住のWriter/Photographer。学生時代に渡ったイギリス留学を機に、人や、取り巻く空間を魅せる表現に興味を持ち、現在Containerをはじめ、カルチャー、フードメディアにて発信中。

#70

ある日友達のたつろうさんと、半年前に行ったRegency Cafeというレストランへ行った。ここではイングリッシュブレックファーストが食べられる。イングリッシュブレックファーストって、見た目通りで衝撃的な美味しさ!というわけではないけど、せっかくロンドンにいるわけだし、最後にもう一度食べておこうと思ったのだ。それに、このカフェはとても可愛いしね。

たつろうさんは同じ日に語学学校に来た美容師さんで、今のホストファミリーの家に元々住んでいた人。
彼を一言で表すとしたら、わんぱくだ。顔を想像したら、目がなくなるような満面の笑みが真っ先に思い浮かぶ、そんな人。彼の生活にハプニングはつきもので、例えばよく貴重品をなくし、そしてそのなくしもの達はいつも二度と姿を見せることはなかったが、根っからのポジティブ人間で、いつも笑って乗り切っていた。おっちょこちょいなところはあるが、世渡り上手な面もある。美容師の仕事も、あっという間に見つけて、気づけば常連さんを作って軌道に乗せた。語学の壁や災難の中でも、上手く生活するサバイバル力や、その間に自然とさまざまな出会いを引き寄せる力もある人だった。

Regency Cafeはその日、少し混んでいたけれど、前回来た時にまりかと座ったテーブルが空いていた。カウンターに並び、何にしようかと黒板を見ていたら、意外にもすぐ順番が来てしまった。クリスマスミールセットにすんなり決めたたつろうさんを横目に、私は焦って自分では決められず、後ろにいた、いかにも常連さんといった感じのお客さんにおすすめのメニューを聞いて、パイ料理を頼んだ。おかず系のパイ料理はイギリスの郷土料理でもある。このお店でも、それらは何種類かのバリエーションがあった。



彼とおなじ、クリスマスミールセットにしたら良かったと後悔。

食後はたつろうさんに連れられて、グリニッジ天文台へ行った。彼自身も行ったことがなかったらしいけど、ずっと行ってみたかったんだって。また彼はわたしにも帰る前にきっと絶対行った方がいいよ!といった。

グリニッジ天文台についたら、そこは5年前の短期留学で訪れた場所だった事に気が付いた。なんせ着くまで来たことすら覚えてなかった訳だけど、ところどころの風景にぼんやりとした記憶があって、なんだか不思議な気持ちにさせられた。


本初子午線



ロンドンの冬はあっという間に日が落ちる。


天文台の中をぐるりと巡ったあと、たつろうさんはこの周辺の名所を案内してくれた。天文台もそうだったが、行く先々で、彼はまるでガイダンスのように、「これはなにだ」「あれはなにだ」と小ネタや説明をしてくれる。来たことがないのになぜそんな知識があるのかと聞くと、昨晩ネットで調べたんだと笑った。彼のおかげもあって、このグリニッジの旅はすごく楽しかった。天文台は街が見下ろせる丘の上にあって、見晴らしが良かったし、街には小さなマーケットやカフェがあったりして、この場所は確かにたつろうさんが言うように、本当に来てよかった場所だった。

次の日は、たまにベビーシッターをしていたグレイスちゃんと華子さんと、Kew Gardensへいった。ここは王立の植物園、ずっと行きたかったところだ。

植物園は広大で、集合するのも一苦労だ。例えるなら、ドラえもんの映画『のび太の新恐竜』を思い出させるようなスケール。何十ものセクションに分かれ、また温室も多いため、さまざまな気温下で育つ木々や花が生息する。
どのエリアも楽しかったが、特に湿度の高い植物園では、ぼやぼやとしたスモッグが幻想的だった。至る所に階段が設置されていて、背の高い木々もよく見ることができた。


このふわふわと雲みたいなスモッグが気に入った。



柵から溢れ出た独特の根っこ



華子さん、グレイス。


温室の出口には決まって、黒い鉄の物体が足元に設置されていた。華子さんによれば、これは泥がついた靴裏を拭うためのものらしい。極めてアナログで、だがとても画期的な道具だと思った。


名前もあったけど忘れちゃった。


外を歩けば、本当に頻繁に、同じ空路をたくさんの飛行機が通った。ここはヒースロー空港からほど近いのだ。みんなで飛行機を眺めている時、あやさんもこれに乗って帰っちゃうんだねとグレイスに言われ、また少し、帰国を実感した。



最後はお決まりのショップエリアへ。そこにはグッズはもちろん、家に持ち帰られる植物もたくさん売られていた。華子さんたちは植物が大好き。そしてまた苔マニアでもあって、家の至る所に苔が生息する。それらは鉢に入ったものもあれば、土の中から抜いたようなものまで多種多様。種や根っこが丸出しの草は、失礼な話少し雑草に見えて、最初はそれらが机の上や棚のあちこちに横たわっていることにすこし戸惑った。二人によると、水にも土にも必要なく、空気のみで育つ強者で、なんなら少し高いらしい。どこでこんなものが売っているのかと思っていたのだけど、ここKew Gardensにたくさん売られていた。

私はグレイスと一緒に、可愛い蜂のマグカップを買った。

お土産屋さんをあとにして、二人とさよならをした。寂しいけど、きっとまた会う人たちなんだろうなという確信があった。
2人はいつも本当に仲が良く、似ているようで異なり、お互いの個性を重んじた、親子というか、姉妹というか、その関係性は彼女たち独特のもので、なんにせよとても魅力的だった。私はその中に入って話をするのも、2人が話をするのを外から見ているのも、なんだかすごく楽しかった。


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