バイバイ、iPhone

Life is a journey #18

バイバイ、iPhone

Contributed by Daijiro Inaba

Trip / 2023.03.21

メガバンク、人材系コンサルファーム、教育系ベンチャー、スポーツチーム、会計事務所で仕事をしてきた葉山在住のDaijiro36歳の「生きる」を考える旅。どこまでもオープンに、幸せなこともしんどいこともモヤモヤすることも恥ずかしいことも晒しながら、旅を綴ります。

#18



フットサルコートにて


最寄り駅で、いつも通り改札を通ろうとポケットに手を入れたら、何の感触も返ってこなかった。相棒(iPhone)を家に置いてきてしまったようだ。
相棒を迎えに戻ったら打合せに遅れてしまうし、今日は相棒と離れて暮らすしかないな、、、
バイバイ、相棒。そんなある日の話。

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1.相棒との付き合い
2.相棒(iPhone)と離れて気づいたこと
3.付き合い方の再考
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1.相棒との付き合い
かれこれ、何年になるか。14歳からプリペイド携帯をこっそり持って、16歳からガラケーを持って、23歳くらいからiPhoneになったから、携帯電話とはもう22年くらいの付き合いになる。人生の半分以上付き合ってきたから、もう十分に腐れ縁だ。当時付き合っていたMDウォークマンやデジタルカメラは今どこにあるんだろう。その機能もいまは相棒が担っている。
僕は相棒に依存している。寝るときも、歩く時も、友達と食事をしているときも一緒だ。風呂に持ち込んで動画を見ていることもある。
仕事においても、「スマホに連絡したのにリアクションがない」人は評価されないし、一緒に働きづらいと言われるから、なるべくこまめに見るようにしている。
通勤定期券がモバイルSUICAなので、スマホがないと通勤定期券も使えないし、日経新聞もスマホで読む。
いまやスマホは、生活の「当たり前」に組み込まれてる。
相棒にこんなに依存して生活しているが、相棒を愛しているかと聞かれると、「否」と思う。
僕は会話中に同席している相手がスマホをいじると、「この人、僕の話聞いてるのかな」と疑問に思うし、イライラすることもある。
逆に、一緒にお酒を飲んでいるときや食事をしているときにスマホを机に置いたままでトイレに行く人を見ると、なんだか気を許してくれているようで嬉しくなる。
そんな話をしていた時に、ふと友人が言った。

「ケータイよりDaijiroが面白かったらいいんだよ」

言われて、やっとわかった。僕はスマホに好きな人との時間をとられることに嫉妬しているんだ。スマホは相棒であり、恋敵だ。



つきみの冒険1 近所のチョークアート「たつのおとしご」



つきみの冒険2 ホームセンターにて



2.相棒(iPhone)と離れて気づいたこと
そんなある日、相棒を家に忘れてきた。何年かぶりに現金で切符を買い、電車に乗り込んだ。「切符を握りしめる」っていつぶりだろうか。
相棒もいないので、せっかくなので周囲を見渡してみた。7割がスマホ、2割が爆睡、1割が読書だった。隣に誰がいるかも気づかずに、1時間とか30分とか一人の時間をそれぞれに満喫する。僕も普段、この光景に溶け込んでいるんだな。
いつもより目線を上にあげて過ごしていたら、地元の高校や銀行員時代のお客さんの工場を見つけて驚いた。タワーマンションジャングルもあれば、平屋だらけのかわいらしい街もあった。何百回通っただろう場所で、新たな発見の連続だった。


冬の森戸海岸にて


『スマホ脳』(アンデシュ・ハンセン著)の内容も思い出していた。『スマホ脳』によると、ビル・ゲイツは14歳まで子どもにスマホを持たせなかったし、スティーブ・ジョブズは我が子がデジタルに触れる時間の制限をしていたそうだ。フェイスブックの役員は、「SNSが人々に与えた影響を悔いている」とか、「心の脆弱性を利用した」と公言しているようだ。それ以外にも、スマホはドーパミン注射を一日300回打つようなものだという内容もあった。スマホを持って受けるテストと、スマホを教室の外において受けるテストでは後者の方が圧倒的に点数が良かった話とか、スマホは触らなくてもそこにあるだけで認知能力の容量が減るという話も思い出していた。
今、偶然だけど、相棒と離れて、すごく豊かな時間を過ごすチャンスが訪れた。


鳥に唸る


イヤホンも、相棒がいないから、しない。イヤホンは周りの音や声を聴くことをこんなに忘れさせるんだなと気づく。普段聞こえているはずなのに何も聞こえていなかった。電車の走行音も、駅ごとに流れる音楽も、もしかしたら、すぐ近くで困っている人の声も。
ふと思い出すと、僕は昔っから兄や姉の影響で音楽を聴くのが大好きだった。6歳くらいからずっと何かを聴きながら過ごしていた気がする。家族で会話している間も片耳にイヤホンをつないでいたこともあった。


砂浜散歩中


そんな僕だけど、葉山にいるときはイヤホンをしない。波の音、風の音、鳥や虫の鳴き声、ご近所さんとの会話などなど、いろんなものが僕の人生を豊かにしてくれている気がするから。あと、なぜか綺麗な景色を見ているときに、音楽が邪魔に感じてしまうから。6歳からずっと音楽に依存してきたけど、今は音楽との付き合い方は変わった。いい距離感を保てるようになった気がする。
きっと、相棒との付き合い方も、もっと最適な付き合い方があるはずだ。


スヤァ



3.付き合い方の再考
『ハーモニー』(伊藤計劃 著)というSF小説を久々に読んだ。「病気もケガもできないし、自分の意思で死ねない未来」を舞台にした小説で、全人類が「WatchMe」でセンター管理されている。何度読んでもすごく心に沁みてくる。僕はきっと、不都合で不便な人間の意思ってやつを愛したいと願っている。相棒(iPhone)は僕の愛するものを奪っていく存在なのだろうか。


波打ち際


SNSやネットの誹謗中傷や、芸能ニュースは、周囲にびっくりされるほど見ない。脳内のキャパがその類に埋まることが許せないから。相棒がそのような情報を大量に流してきて、それが僕の脳内を埋め尽くすと思うと、怖くなってくる。

でも相棒のおかげで家族や友人といつでも連絡が取れる。何か調べごとをしたいときはすぐに教えてくれる。SNSの発信もどこでもできるし、音楽も好きなだけ聞けるし、ちょっと暇したらドーパミンが放出される遊びも提供してくれる。

相棒と距離を置くことはまだまだできそうにない。仕事で周りに迷惑かけるし、きっと今の仕事をし続けることは難しくなる。


仕事セット


相棒なしで過ごした一日は想像を超えて充実していた。後回しにしていた仕事もすべて終えたし、自分自身に常にゆとりがあった。歩きスマホをしてる人にぶつかられそうになっても(舌打ちもされたけど)、こちらは全然イライラしなかった。体調の良さもすごくて、今なら何にでも挑戦できそうな気がした。


夕日を眺める


今回はっきりとわかったのは、僕は相棒のことをきっと愛していない。
僕には愛したいものがあって、それを可能な限り愛したいし、人間の意思があるからこそ感じる喜怒哀楽をもっともっと味わいたい。
僕自身の幸せを考えれば考えるほど、その世界に相棒はいない。

いつか相棒と別れる日が来る。
今はまだ想像できないけど、僕が幸せを追求し続けられたら、きっとそんな日が来る。
こんなことを考えていると、シンギュラリティはもう到来しているんだなって思う。


スヤァ2



いつかお別れする最強の相棒と、不都合で不便で愛おしい人間の意思の前途を祝して!

Life is a journey!


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