Gloomy day All day #17
ハッピーニューイヤー!
Contributed by Aya Ueno
Trip / 2023.10.13
#17
大晦日。今日もいつもと変わらず、紅茶を片手に、コロナの検査キットに浮き出た2本の線を真顔で見る朝から1日がスタートする。コロナが流行りに流行ったイギリスへ自らやってきて、しっかり感染した私のようなマヌケな人間には、大晦日を祝う資格はなさそう。。。だったのだが、おうちに住まわせていただいている華子さんから、とんでもなく素敵なお誘いが舞い込んできた。
華子さんは、ボーイフレンド、ではないらしいがいずれにしても素敵な、仲良しの男性がいる(お名前は忘れちゃった)。彼はいつも世界中を飛び回る忙しい人。華子さんは、その彼の持ち家の管理のお仕事も頼まれてるのだけど、今日、大晦日に、そこで大晦日パーティをしようと誘ってくださったのだ。
そのお家はメリルボーンの超高級エリアにある素敵なお屋敷。通称32番という。
前述したように、今の私はパーティなんて出席してはいけない分際だ。でも、一緒に隔離してくれている華子さんとグレイスとのパーティーは……いいんじゃないだろうか。
そういうわけで、やむなくロンドンで越す年末年始、とっても素敵な夜になる予感。
華子さんが昼間から用意したご馳走を持って、私たちは大晦日のパーティへ乗り込んだ。当日決まったこのパーティー、一人フランス人の男性もくるらしい。華子さんは、今朝彼に電話でお誘いしたとき、もちろんここにコロナ感染者がいることを話していたのだけど、彼はすかさず“Why not”といった。(ハハハ)
おめかししてタクシーに乗り、メリルボーンへ向かう道中は、まるで貴族になった気持ち。華子さんは真っ赤なリップでいつもに増して素敵だ。グレイスはマスカラを塗るだけですっかりレディーになった。彼女の外見から少女の要素がなくなるのは、本当に時間の問題だろう。
32番というワードは、二人の会話からよく聞いていたが、その建物の豪華さといったら、私の想像をゆうに超えていた。土地を持つことなんて信じられないようなエリアにある、まるでお城みたいな素敵なお家なのだ。
イギリスの時代劇のような階段を上がってドアを開けると、私の今の東京のおうち20個分くらいの大きな部屋が待ち構えていた。部屋というか、ホテル。ホテルというか、宮殿の一室みたい。ロンドンの古い時代劇にも出てきそうだ。
ディナーを温めて、ワインを開けて、乾杯。ここに住む人たちが、大晦日のパーティーへ繰り出す前に、この部屋を覗いてわざわざワインを持って遊びにきてくれるから、ワインはいくら飲んでも減ることを知らない。私たちも、彼らにご馳走をお裾分けして、束の間の談笑をする。
華子さんはタバコを巻くのが早い。
12時近くなってきて、私たちはみんなでシャンパンとグラスを持ってトイレへ行った。小さな小窓を開けて。大の大人が窓から抜け出す。そう、ハッピーニューイヤーの瞬間は、ここメリルボーンの屋根の上で過ごすことにしたのだ!
男性にはなかなか小さな窓だ。爆笑する華子さんが鏡に映り込む。
恐る恐る梯子を降るグレイス。
ここから見る景色を、私はどうにもこうにも忘れることができない。いつもは首を垂直にあげても見えないような建物の一番上ばっかりが見える世界。足元を見ると、小さなロンドンの街が見える。街の奥に見えるそう遠くない花火が、2023年になったことを知らせた。
ロンドンまで来てコロナに罹って、なかなかの挫折を味わいかけたけど、トイレの窓から這い出て見たこの景色は、正真正銘、この状況だからこそ知られたもので、私はこんな時代だけど、それでもここに来てよかった、と心から思った。
花火を見る3人。
続く!
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Aya Ueno
兵庫県神戸出身、東京在住のWriter/Photographer。学生時代に渡ったイギリス留学を機に、人や、取り巻く空間を魅せる表現に興味を持ち、現在Containerをはじめ、カルチャー、フードメディアにて発信中。
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