Vol.1 カメラ vs 旅しやすさ

Fillin The Gap

Vol.1 カメラ vs 旅しやすさ

記憶を記号に残す旅(タイ編)

Contributed by Haruki Takakura

Trip / 2023.10.06

ギャップイヤーやバケーションといった人生のスキマ時間。何者でもない、この「スキマ期間」に経験した旅をHaruki Takakuraさんが綴る連載『Fillin The Gap』。


記憶を記号に残す旅(タイ編)

カメラは旅を不便なものにする。今回の旅を通じて、ほんとうに何度も何度もカメラを置いてくればよかったと思う瞬間があった。それでもカメラをこの旅に持っていくと決めたのは、より多くの記憶を「形」として、「記号」として、自分や周りの人と共有したいと思ったからだ。
思えばこれまでの旅では写真は人任せに、旅の記憶は自分の脳内にだけ留めていた。それはそれで、唯一無二な感じがするし、自分の旅スタイルとしてその瞬間をライブで楽しめていたからよかったと思う。ただ、今のカメラマンという仕事を通じてはじめて、誰かとその瞬間を共有できる「記号」としての写真の魅力を知ったとき、旅にカメラを持って行こうと決めた。

結論として、カメラを旅に持っていってほんとうによかった。合計1000枚近く撮った写真たちはどれもその瞬間の記憶を呼び起こしてくれるし、その記憶は自分だけのものではなく共に旅した友人たちと共有できる記憶である。

ただ、僕みたいにこれでもか! と予定(変わりまくるので予定とは言えないかも知れない)を詰め込み、駆け足で旅をするタイプの人間にとって、カメラは気疲れと肉体的な疲れを生む道具でもあった。

まずカメラを持っていくかどうかの葛藤と最初に対峙するのは、荷造りのタイミングである。航空券にはだいたい3種類ほどのプランがある。バックパック一つ背負って旅に出る人向けの最安プラン、キャリーケースなど荷預けする人向けの中級プラン、快適な時間を過ごしたい人向けの高級プラン。当然、僕は最初の最安プランを選んだわけだが、これには安いだけあっていくつかの制限がかかってくる。席を選べない、キャンセル時の返金がないなどは特段気にならないのだが、「7kgまでの荷物しか機内に持ち込めない」という制限には毎回手を焼く。

特にラップトップと少し重めのカメラを持ち運ぶ僕にとっては死活問題である。ラップトップを置いていけばいいじゃないか、とも思うのだが、他国の人とやりとりをする仕事なので日本のお盆という概念は通用しない。ということで、優先的にバックパックに入れざるを得ない。であれば……とカメラを持っていくかどうかで悩むのだが、これが非常にむずかしい。なぜかというと、カメラなしでも十二分に旅は成り立つからである。つまり、完全に嗜好品というわけである。さらに変に頑固なこだわりがある僕なので、軽いデジタルカメラを持って行くならばお気に入りの一眼レフがいいと思ってしまう。



というわけで、最終的にはカメラを持って行く決心をしたのだが「7kgの壁」をかいくぐるためには工夫が必要だった。工夫といっても、真夏の空港でTシャツを重ね着しカメラを背面に隠すという泥くさいズルだ。偶然にもカメラ好きの空港職員にあたり「いい写真撮れるといいね」なんて声をかけてもらい、なんとかことなきを得た。

だが最初の関門を越えてしまえば、バンコク・プーケット間の飛行機も、なぜか日本への帰りの便でも重量チェックはなかった。この辺りのテキトウさは東南アジアを旅する者へのギフトである。

さて、いざ「7kgの壁」を越え、タイに入国してからもカメラとの戦いは続く。自己紹介でも書いているのだが、僕はお酒がとても好きだ。どんな国に行ってもお酒はメインの娯楽である。ここで問題になるのは僕がお酒にとても弱いということ。3本も瓶ビールを飲めば、頭はクラクラしはじめ眠気に襲われる。そんな中で繊細なカメラを持ち運ぶということが、いかに気疲れすることか。旅をする度に靴をなくし(今回はビーチサンダルをなくした)、カメラのレンズをカバーするキャップをなくしたこともある僕にとってはなおさらだ。もう少し自分がしっかりとした人間であれば、こんな気苦労しなくてもいいのだろうなといつも思う。それにしても靴をなくすというのはなぜなのだろうか。いつも不思議で不思議でたまらない。

そんな僕がお酒の副作用や7kgの壁と戦いながらも、毎日カメラを肩にぶら下げ撮り続けた写真を、今回のタイ渡航「記憶を記号に残す旅」編では紹介していきたいと思う。

つべこべとカメラに対する愚痴を聞いてもらったわけだが、カメラのことは大好きで今後もどこを訪れるにしても必ず持って行く必需品になるのだと思う。つまり愛しいが故の……ってやつだ。一人が見聞きした景色や記憶が、写真を通じ、みんなで「共有できるモノ」に変わっていく。この快感を覚えた者に、カメラを置いて行くという選択肢は無いに等しいだろう。その過程にどんな大変なことがあったとしても。たとえ、あなたがモノ忘れっぽくて、お酒が大好きなのに弱くっても。
ああ、困った困った。



アーカイブはこちら

Tag

Writer