London, Can you wait? #2
where is my bike? vol.1
Contributed by Chika Hasebe
Trip / 2024.03.01
#2
今回は過去の話(現在にも繋がっている)。
ロンドンでの移動は、わたしの場合基本的に自転車だ。ロンドンでの移動と言っておきながら、東京にいたときから同居人の自転車やシェアサイクルを借りて(よく乗る割にマイチャリはなかった)渋谷の坂道をゼーハーしながら移動していたので、特にライフスタイルが変わったわけでもない。
渡英前、ロンドンに何度か行ったことがある友達に、「(ロンドンだと)ロックを切って自転車を盗んでいくから、みんな切れないタイプのU字ロックだよ」と教えてもらった。当時は、U字ロックとは? と全くなんのことだか分からなかったのだが、今となってはそれがないと生きていけない相棒である。
U字ロックと聞いていたが、正式にはD字らしい。バナナはロックなしでも取られない。
友達から受けた忠告通り、ロンドンでは自転車の盗難が日常茶飯事。わたしの今の自転車は、渡英してから1年未満にも関わらず、もう四代目だ。三回も盗まれるなんて、盗まれる側がポンコツなのではないかとツッコまれそうだが、全て盗まれた結果ではない。自転車に関してだけはあまり運がないので、シェアしてどうにかこの話を成仏させてみよう。
一代目
ロンドン生活二日目。全然知らない街を散策するには、自転車が一番効率的で融通が効くと思い、あらゆる中古品売買を行っているサイトやアプリを調べ始めた。個人で売買したいものを投稿するFacebookマーケットや、在英日本人の掲示板MixBなど見た中で、フリマサイトのGumtreeで安いバイクにヒット。試しにメッセージを送ってみたところ、いつでも受け取り可能だったので、翌日に取りに行くことにした。
指定された住所に行ってみて驚く。ゴミ捨て場みたいな敷地内に、たくさんの自転車が無造作に積まれていた。おそらく盗難車の二次販売に違いない。げんなりしたものの、わざわざ家から1時間ほどかけて取りにきたし、この後友人と飲む約束もしていたので、ここで自転車を持って帰れないとプランが大崩れだ。仕方なく山積みの中から自分のサイズに合うものを選んだ。
ただ倫理的に盗難車を使うのは絶対に許せなかったので、これはなんとしても買い取ってはいけないと思い、レンタルさせてくれと交渉。売る側としては自転車が戻ってくる保証はないので、ならばデポジット(購入金額と同じ)を払えと言われた。いずれまた戻しにくるしそれでもいいかと思ったのだが、これが間違い。後日売主に連絡しても、デポジットはおろか、連絡すら返ってこなかった。
緑のバイクは同居人の。全然使ってなくて蜘蛛の巣張ってたよ。
この自転車に関しては、二代目、三代目を買ってからもしばらく家の裏庭に放置。返却しなければいけないと思いつつ、家から電車で1時間の距離を自転車で漕いでいくのもなかなか億劫でそのままになっていた。
最期を迎えたのは、友達との映画の約束に向かう途中。ボロボロの自転車だったので、タイヤから空気が抜けることは頻繁にあったが、まさか家から歩いて2時間以上かかる場所で突然パンクするとは思わなかった。このままじゃ間に合わなくなる! とりあえず自転車はその辺に停めて友達のもとへ。
映画が終わってから、友達にもついてきてもらってパンクした自転車を回収。実は彼と話し込みすぎてしまい知らぬ間にもう深夜になっていた。帰る手段もバスしかなくなり、試しにバスに乗せられるか交渉してみようと近くのバス停で待つ。やっときたバスに向けてサインを出した。ところが、運転手が止まろうとして一度スピードを落としたのも関わらず、わたしたちを一瞥して結局停車せずに通り過ぎていった。「自転車を持っていたから無視されたのかもしれない」と隣で彼がボソり。イギリス人が言うなら間違いないかと納得するしかない。確かに、路面電車(Overground)では自転車の持ち込みをよく見るが、地下鉄やバスでは見かけない。ルール上できないわけではないが、あまり乗客にいい顔はされないらしい。
頼みの綱だったバスに見捨てられたわたしたちは、いよいよ帰る手段がなくなり途方に暮れる。パンクしたボロボロの盗難車を抱え、わたしはここで一大決心した。この自転車を手放そう。そしてセントポール大聖堂のあたりで、自転車に初めてロックをかけずに放置。その後何度もその場所を通ったが、一度もわたしの自転車は見ていない。
R.I.P…
二代目
自ら手放した一代目は盗難車だった上に、なぜか道で走っていると他のサイクリストたちに抜かされてばかり。漕いでいる力が違うところに溶けていくようなエネルギーの分散を実感してから、本格的に二代目を探し始めた。自転車に関してGumtreeはもう信用できないので、今回は代わりにOlioというアプリを使用した。Olioは「不要になったものをシェアして無駄にしない」というコンセプトなので、今までの経験上一番“いい人”が多い印象。日本人がよく使うMixbでの売買では何度か約束をすっぽかされ、日本人だからと“ちゃんとしている”わけではないと学んだこともあり、アプリ利用者の雰囲気も大切にするようになった。
Olio経由で買った自転車は最高だった。高いブランドの中古品でほとんど使われた形跡がない上、サイズも完璧。乗るときに前傾するロードバイクで、今まで乗ったことがないので不安はあったが、売ってくれた人が一緒に公園までテストドライブしてくれた。
一代目よりも圧倒的にかっこよくて速い自転車に巡り合い、幸せだったのも束の間。ある日Dalstonの駅前で一晩中駐輪していたところ、翌朝みたら後輪とロックだけ残った状態で盗まれていたのだ。見た瞬間これが自分の自転車に起きたことだと理解できず、辺りをぐるぐると歩き回った。やっと盗まれたことが自分の中で納得できたとき、まずやらなければいけないことはかろうじて残っていた例のD字ロックを回収することだと思い出した。みじめな気持ちになりながらロックを外す。タイヤは持って帰ったところでしょうがないので、そのまま放置していった。
Dalston自体はすごく好きです
よくよく考えたら全てわたしは間違っていた。まず鍵の掛け方。盗まれる少し前、友人に鍵の掛け方を指摘されてちょっと変えてみたのだが、おそらくその解釈を間違えていた。結果的に後輪しか守られていない留め方になり、盗まれやすい態勢に。それに場所と時間帯も完全に間違えている。Dalstonは日中の時間帯でもかなり雑多で、いろんな人がいるところだ。夜間の大通りにセキュリティ緩めに留められた綺麗な自転車は、格好の獲物としか言えない。盗まれた話を色々なところでしていたら、夜間はもちろん誰かの家に行く際は、基本的に彼らの敷地内に入れさせてもらうのが普通らしい。目の届く場所に置いておくことが何よりも安全策だと学んだのだった……。
手に入れてから一ヶ月も乗っていない自転車と突然の別れを告げることになったが、ロンドンからの強めのツッパリを受け、学びをたくさんもらった盗難でもあった。盗まれた当日はバイトの出勤日だったので、出勤するなり喚き散らし、みんなに慰めてもらったのもなんだかんだいい思い出なのかもしれない。
ちなみにその事件現場も今でもよく通る場所なのだが、通るたびにいつも違う自転車の残骸があるので、わたしと同じようにパーツだけ取られていく「盗み歓迎スポット」だったっぽい。
後編は三代目と四代目について……。
Walthamstowの自転車ポールは形がカーブしててかわいい
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No Sleep Ever
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Chika Hasebe
1998年生まれ。2023年5月よりロンドンに拠点を移し、報道記者の仕事に従事する一方、フリーライターとしてカルチャーについて発信もしている。