Sole, Pizza・・・ e Amore #05

恋とナショナリティ

Contributed by Aco Hirai

Trip / 2024.03.20

イタリアへ移住したAco Hiraiが綴る恋愛ストーリー「Sole, Pizza・・・ e Amore」。何気ない日々の中で気付かされるイタリア人パートナーとのたわいもない国際恋愛を綴ります。

#05




私とアントニオとのデーティング期間も2カ月が過ぎようとしていた頃。煮え切らない彼の言動のせいか、異文化のせいか、私の脳は「恋」と「イタリア人」という2つの言葉にほぼ支配されようとしていた。目的を持って留学を決めたはずなのに、このチャラチャラワードに洗脳されていく自分に後ろめたさを感じながらも、これまでの恋愛とは違う「この直感」のせいで、気持ちをうまく制御できない自分がいた。恋とは厄介なのだ。

ある日曜の午後。私は家から歩いて40分くらいの場所にあるCRUDOというスムージー屋さんにいた。カウンターを背にした入り口の壁は一面がガラス張りになっていて、キレイに磨かれたガラス越しに夕日がゆっくりと沈んでいく美しい瞬間を味わうことができる場所だ。ふと気づくと、沈みゆく夕日を背に1人の男性が手を振りながらこっちへ向かってくる。西日に照らされて細くなった目をさらに細めてその男性を見つめた。男性が近づくにつれて背格好でなんとなく予想がついた。そこに立っていたのは笑顔がチャームポイントと言わんばかりの満面の笑みを浮かべたジョバンニだった。彼は生粋のローマっ子だ。

彼がお店の前に着くタイミングで飲みかけのスムージーを片手に私も外へでた。
「元気?」
「元気だよ」
というテンプレート式の会話を一旦終えた私たちは、せっかくの機会なので歩いて一緒に帰宅することにした。幸いにも同じ街に住んでいたのだ。

ジョバンニと初めて会ったのは、友人に呼ばれて参加した屋上でのホームパーティだった。アントニオもそのパーティにいたので、ジョバンニとアントニオは面識があった。これはイタリア人の生態について探りを入れるチャンスだと思い、話を聞いてもらうことにした。

太陽が沈んでいく夕暮れ時。私は歩きながら、アントニオとの関係やイタリア人の男女の関係性を理解することの難しさを話した。側から見たらまるで初めて恋をした女の子のようなレベルの低い悩みでもあったため、恥じらいの気持ちが捨てきれず、ジョバンニの顔色を伺いながら道路沿いを歩いた。私の話に合わせてところどころリアクションで返してくれるジョバンニ。

そして、優しい表情をした彼が足を止めて話し出した。
「んー、僕も正直分からないんだ。人にもよると思うけど、決定的なことなんてないからね。でも、僕はどれだけ一緒にいたか、一緒に過ごした時間って大事だと思う」

当然の返しだろう。ごもっともだ。イタリア人のことはイタリア人に聞けばわかるだろう、なんて安易な考えだった。でも、聞かずにいられないぐらい私の心はやきもきしていたのだ(笑)。そして、彼のアドバイスは続いた。
「人によるけど、タイミングが来たらお互いの関係性について話したりするんじゃないかな。少なくとも僕はそうすると思うよ。もちろん自然に恋人同士になる時もあるけど。イタリア人だからこうっていうのはないかな。僕に言わせれば2人は恋人のようなものだと思うよ」
と目を見て言ってくれた。それは、まるで私が喜ぶような言葉を選んで、わざと元気づけてくれているようにも感じた。
「ありがとう、その通りだね。今日は会えてよかったよ」と返して、私たちは再び歩き出した。

アントニオと過ごす時間が増えるにつれて上がっていく信頼度。大丈夫だろうとポジティブな感覚はあったものの、不安要素を打ち消すために確信づいた言葉がイタリア人の口から欲しかっただけなのかもしれない。

ジョバンニと話すことで、イタリア人だろうが日本人だろうが、国籍なんて関係なかったことに気が付いた。私自身が「国籍」というフィルター越しに彼を見てしまっていたのだ。きっとイタリア人と日本人の恋愛観の違いを挙げるならいくつもある。ただ、そこに執着しすぎて大事なものが見えなくなることもある。

ジョバンニのおかげで私の心に覆いかぶさっていたモヤが消えてなくなった。



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