Sole, Pizza・・・ e Amore
はじまった同棲生活
Contributed by Aco Hirai
Trip / 2024.04.22
#06
私とアントニオはいつものカフェにいた。
「今月末で今の家を出ないといけなくて」とアントニオに話すと「うちに来ればいいよ」と軽い感じで返ってきた。
自然に同棲を持ちかけられ驚きと嬉しさを隠せないまま、再確認のため「いいの?」と聞くと「もちろん」とまたも軽い感じで返ってきた。その後に色々と理由を説明していたようだが、舞い上がりすぎてその部分は全く覚えていない。それぐらい私の心は夢見心地のロマンチックな世界に浸っていたのだ。
この一言がきっかけで間借りしていた友人の家から引っ越し、私たちは一緒に暮らし始めることにした。それは、急展開だったにもかかわらず、まるでずっと前から決まっていた約束事のようでもあった。
「国籍」という無駄なフィルターを取り除いて彼を見るようになってからほんの少しの時間しか経っていないはずなのに、関係性がよりクリアになったのを感じていた。だって、いつも隣にいるのは彼だったから。ごくごく自然に。
引っ越し当日はアントニオが友人の家まで車で迎えに来てくれた。スーツケース1つに収まる少量の私物と調味料や使いかけの食材をまとめたスーパーのエコバッグを車の後部座席に積み込み旅行感覚で彼の家へ向かった。車内で流れてくるSamm Henshawの「Broke」が私の緊張をほぐしてくれた。そして、ジョバンニとの会話をおさらいするかのように運転中のアントニオの横顔を見ながら「自然に恋人同士になるってこういうことなのか」と、自分の置かれている状況を改めて把握し、少し浮かれたりもした。それなのに、アントニオからはそんな様子は全く感じられなかった。同棲することでさらに距離が縮まったことに舞い上がっているのは自分だけなのかもしれないと思うと、それがちょっと癪に思えてきた。
モダンと言う言葉とは程遠い古アパートの1.5Fの角部屋が私たちの家だ。少し錆びれたエントランスの扉は、開ける度にキキキーーーーという耳障りな音がして、私はそれが嫌いだった。でも、一歩中に入るとリノベーションされた真っ白で美しい壁が迎えてくれた。広さは65㎡ぐらいで、2人で暮らすには問題ない大きさだ。アパートの屋上へと続く階段を上がると、そこには何十年も開けていなそうな扉があり、それを見るたびに「屋上」という開放エリアへ出られない窮屈さが襲ってきた。屋上でホームパーティをするのが好きだった私にとってはなおさらだった。そんな落ち込みがちな私を救ってくれたのは、寝室の大きな窓から差し込む心地よい太陽の陽射しとキッチンの壁に貼られたイタリアらしいカラフルなタイルだった。
一緒に暮らすことで楽しいことが増えたり、お互いをもっと理解できたり、歩み寄れたりとポジティブな部分がある反面、育った環境や文化の違う人間同士が一緒に暮らすことへの不安もあった。ただ、こればっかりはやってみないと何もわからない。飛び込むしかないのだ。リスクを恐れてやらないより、飛び込んで自分なりのやり方を見つける方が性に合っているのだ。
私たちのストーリーはまだまだ始まったばかり。
つづく。
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Aco Hirai
2004年オーストラリア移住、2005年帰国、2019年マルタ島留学、2020年イタリア移住。 海外で活躍する日本人を取材したImhereマガジンを不定期で発信しています。(インタビュイー募集中)