Sole, Pizza・・・ e Amore #07

例えば、ピッツァの日

Contributed by Aco Hirai

Trip / 2024.05.20

イタリアへ移住したAco Hiraiが綴る恋愛ストーリー「Sole, Pizza・・・ e Amore」。何気ない日々の中で気付かされるイタリア人パートナーとのたわいもない国際恋愛を綴ります。

#07




一緒に暮らすようになって数ヶ月が経った。

お気に入りの寝室は、太陽が東の空へ上がり始めると暖かな光が差し、窓を覆うように植えられた庭の大きな木のおかげで木漏れ日となって部屋までやってくる。そんな寝室で目覚める朝は決まって気分が良い。そして、先に目を覚ますと、隣で寝ているアントニオの顔を思わず触ってしまうのだ。まるで、今ある幸せが夢じゃないことを確かめるかのように頬から顎にかけて左手で包み込むと、肌の柔らかさと髭の刺々しさが感触となって返ってくる。

すると「Buongiorno, amore」と目を閉じたままのアントニオがつぶやく。恋人や家族、ペットなど、愛しい人を呼ぶときにイタリア人が使う「Amore(アモーレ)」という響きに優越感を覚え、私はこの時間とこの空間がさらに好きになった。ほんの少し照れ臭さはあったもののすぐに慣れ、私も名前の代わりに「Amore(アモーレ)」や省略形の「Amo(アモ)」と彼のことを呼ぶようになった。

朝は、先に起きた方がエスプレッソを淹れるというのが暗黙のルールだったが、いつも先に起きるのは私なので、エスプレッソ担当は私だった。シルバーのモカ(エスプレッソを淹れるための道具)に水を入れ、コーヒーの粉で山を作り、火にかける。モカの扱い方にも3日で慣れた。

毎週日曜に設定された通称「La giornata della pizza(ピッツァの日)」。イタリア人のソールフードであるピッツァはもちろんアントニオの大好物でもあるため、毎週日曜は2人でピッツァを食べるのがお決まりだった。時折、日曜まで待てない彼の独断で「ピッツァの日」が急遽、金曜に早まったり、週に2回に増えたりすることもしばしばあった。すると、日本人の私を気遣ってなのか、毎日でもお米が食べられるようにと、彼が大型の炊飯器を買ってくれた。その炊飯器はかなり大きく本格的で、2人なのになぜこのサイズを選んだのか疑問に思ったが、炊飯器から愛がこぼれ落ちているように見えたので聞くのをやめて「ありがとう」という言葉にして返した。

そして、私は夕食前のアペリティーボというイタリアの習慣が好きだった。好みのワインを選んで、アントニオと家でゆっくりワインを楽しむ。幸いにもワインの好みが一緒だったので、彼は私が選んできたワインに一度もダメ出しをしたり、文句を言ったりしたことがない。毎回「君の選ぶワインは最高だ」と言ってくれた。いつも大袈裟なくらい褒めてくれる彼。今思うと、このイタリア人らしい褒め上手なところも彼に惹かれるポイントだったのかもしれない。

私たちの生活は、異なる文化がブレンドされることで、オリジナリティあふれる毎日となった。もちろん時に意見の食い違いや、異文化から起こるハプニングもある。でも、イタリア人のマインドが染みついてきたのか、ユニークな笑いに変える転換能力が培われ、同棲生活が長くなればなるほど、人生がカラフルに彩られ、異文化の中でお互いが成長していくのを感じられるのだ。


つづく。



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