my milli mile #3
-OH MY BEER!! –
私が1人で歩く道の先
Contributed by Yuka Ishiyama
Trip / 2024.06.06
大学生のYuka Ishiyamaさんがフィンランド留学中のあらゆる瞬間を独自の視点で切り取り、出会いのストーリーとして全8回でお届け。
#3
プラハ、この街に来たからにはどうしても飲んでみたかったものがある。
2年前、やっと20歳になったあの頃の私は、まだビールの美味しさを知らない……。
でも、プラハビールが世界的に有名なことは知っていたから、本場のプラハビールがどうしても飲みたかったのだ。
初めての1人旅、まだ1人でお酒を頼む度胸と自信がなかった私は、とりあえずチェコ料理が食べれそうなお店を探してみた。歩き回って疲れた足休めと、空いたお腹を満たそうと、プラハ城から下町に降りるまでの坂道に佇むお店に入ってみた。
まだ夕方6時頃だったので、お店はそこまで賑わってはいなかったが、お店に入ると、さっそく左端の方で2人の男性が陽気にビールを乾杯していたところだった。
ドキドキワクワク。
2人にニコッと挨拶をして中へ進むと、バーにいた女性が出てきて、私を2人掛けの席へ案内してくれた。
チェコ料理は事前にリサーチ済みなので、何を頼むかは既に決まっていた。
肝心なのは、そう、ビールだ。1人で入る店でビールを頼むのは初めてだった。
ちょっとドキドキしながら悩んでいると、お店の女性がやってきて、何か悩んでるの? と聞いてくれた。
私がビールに悩んでいることを説明すると、「小さいビールがあるよ!!それにする?」と、私が求めていた100%の解決策を提案してくれて、私はとても嬉しくなって料理が到着するまでしばらくニヤニヤが止まらなかった。
目の前にやってきたのは、なんともかわいいミニジョッキのビール。レジ横に並ぶあの大きな樽から出てきたのかぁと、感心していた。
そういえば注文前、テーブル横にビールに関する面白い説明書きが置いてあるのを見つけた。
どうやら、プラハビールには三つの飲み方があり、泡の量でそれが変わるらしい。初心者の私は、お姉さんにおすすめされたノーマル(よくみる7:3のやつ) を頼んだのだけれど、なんとプラハでは“全て泡で飲む”という飲み方もあるらしいのだ。
1番右のビールは白過ぎて初めは牛乳かと思ったほど。泡だけ、というビールの飲み方
斬新だ。
びっくりした。
私の親は昔から大のビール好きなので、私もビールの姿はよく見て育ってきた方だが、さすがにこの飲み方をしているのは見たことがない。
面白かった。
それだけプラハビールの泡は美味しいということなのかなぁ。
これは、いつかこの街に戻った時、まず初めに試してみたいことの一つだ。
なんてたって、あのビールを一口飲んだ時、私は人生で初めてビールが美味しいと感じたのだから、今のビール好きに至るまでルーツというものを確かめるためには、あそこに戻るしかないのだ。プラハ料理は日本人の口に合いそうな味付けで、私が頼んだ濃いめのシチューは、ビールとの相性も抜群だった。
1人で幸せに浸りながら食べ進めていると、先ほどの店員さんが私から少し離れた席に腰をかけ、話かけてきた。
スモールトーク。
どこから来たの? 普段は何をしているの? どうしてプラハを選んだの?
ありきたりな事を話してから、私は、プラハの街が大好きだってことを伝えた。
すると彼女が言った。
“ここは、住みにくいけどね。伝統的な雰囲気や旅行者のために土地をそのままにして、街はなかなか整備されないから、住民からしたらとても大変なの”
確かに、私はこの日一日中街を歩き回ったが、道ゆく道はどこもガタガタだし、歩きにくく、信号も対して整備されていない。毎日この道を歩くと思ったら、住人の気が知れなかった。
その時改めて、私たちにとっての旅先は、住む人にとっては全くちがう景色が広がる世界で、私たちが見るキラキラした風景だけではないんだと思った。
私も、実際に旅してみたい国は沢山あるけれど、何処へ行っても、そこに住んでみないとわからないことが多くあるんだろうなぁと。
これは、私が日本に帰ってきてから余計に納得するようになったことの一つだ。そう思うと、旅をしたい欲と同時に、色々な国に住んでみたい欲が湧いてきた。
そして、わたしはこの会話から、改めて一人旅の良さを知る。
こうして、1人だからこそ出会える景色や人がいて、1人で歩く道の先には必ず新しい出逢いがある。
住んでいる人になりきって街を歩いてみたり、自分の成り行きで一日を過ごすのは、また新鮮で面白い、私のお気に入りの旅のカタチだ。
世界遺産であるプラハのカレル橋
ここから突然国境を超えて話が飛ぶが、ポーランドでの一人旅中に出会った3人組との話を少ししたいと思う。
私たちが出会ったホステルは、入り口に飾られたレインボーの旗が目印だった。その入り口からわかる通り、そこは珍しくジェンダーフレンドリーを掲げるホステルで、それだからか他の宿泊施設よりもスタッフからウェルカムな姿勢を感じ、入った瞬間からとても居心地が良かった。
たまたま部屋が同じになったポーランド出身の3人組。
ちょうどその日、ヨーロッパでも数少ない大きなアニメフェスが近くで開催されるらしく、彼女らはその為に街に二日間滞在していた。
私が日本から来たということに喜び、そのことを伝えてきた姿がとても微笑ましく、私まで嬉しくなって皆んなでキャピキャピしていた。
たわいもない会話から始まり、私たちは色々なことを話した。
その中でも、私がこれまでの旅話をしている時に、3人組のうちの1人が言ったことが、とても印象に残っている。
“あなたはすごいよ。一人旅ができるなんて。私には怖いことが多くてまだできない。あなたはどうしてできるの?”
彼女は私の目をしっかり見つめて、そう繰り返し私に伝えてくれた。
そんな考えをもつことがなかった私は、それを聞いてうまく反応ができなかった。何故だがその言葉がスッと入ってこなく、自分自身でもその意味をしばらく考えた。
彼女には私にはない感覚や考えがあって、その背景には色々な理由や経験があるのだろう。旅をすることに怖さを覚えたことがなかった私は、なんでだろう、何が彼女の考えと違うんだろうと、自分の育った環境や自分の考えにあるきっかけについてよく考えてみた。
—
そう、こんな会話や出逢いこそがまさに、私が1人でも旅を続ける理由なんだと思う。
それは目の前の景色や誰かとの出逢いだけでなく、自分自身との出逢いでもある。
新しい自分、またはこれまで気づけなかった過去の自分と出逢う。
それと出逢った時に改めて、自分の足元や心の中にある本当の気持ちに気づいてあげることができる。
あの言葉は、彼女からしたら単なる疑問に過ぎなかったかもしれないし、もっともっと深い意味をもつ何かだったかもしれない。けれど、そんなひとつひとつの小さな出逢いが、自分の世界を広げ続けてくれることは確かだ。
私がこれからも旅をし続けたい理由は、きっとここにあるのだろう。
旅は出逢いの繰り返しだ。
私には、その繰り返しが楽しくて仕方がないのだ。
こうして私が過去を綴る間にも、沢山の新しい出逢いがあり、それに出会う度に、あの時歩いた道の先にある世界が広がっていく。
これを読むあなたには、これまでどんな出逢いがあったのだろう。そして、これからどんな新しい出逢いが待っているのだろう。過去も今も未来も自分の中で生きているから、特別だから、大切に大切にしてあげよう。
LOVE,
最後に愛を込めて、ポーランド名物の餃子、Pierogi-ピエロギでも添えておこう。
Tag
Writer
-
Yuka Ishiyama
東京生まれ育ち、ひとり時間もパーティもコーヒーもビールも大好きな欲張り大学生。ヨーロッパ留学と旅を経て世界の広さと同時にその近さを実感し、誰もが持つ個々のストーリーをエンパワーし、表現したいと活動している。現在は日本のホステルで働きながら、世界と自分との出会いの旅を続けている。