SNORT RECORDS〈前編〉

Alles Gute #17 interview

SNORT RECORDS〈前編〉

Contributed by meg

Trip / 2024.07.22

悩み事が尽きない日々をリスタートするため選んだ街は、ドイツ・ケルン。自分でもまだ分からない「何か」を求めて、ときめく音の鳴る方へ進もう。「もうワクワクすることしかしたくない!」と心に決めたmegさんが綴るドイツ留学日記。

今回は番外編としてドイツ・ケルンの職場で出会ったAdrianにインタビュー。楽曲制作やトラック提供、DJとしても活躍する彼に、自身が作る“音楽”とライフスタイルについて聞いてみた。


#18



Lines Of Love / SNORT RECORDS


Lines Of Love名義でミニマルハウス、テクノを中心とした楽曲の制作や、トラックの提供、DJを国内問わず行っている他、EsotericTendencies名義でアンビエント楽曲の制作も行っている。


*Villa Kalkaで一緒に働くAdrianが自分のレーベルを持っているとチラッと聞き、面白そうだから話を聞いてみることにした。
普段は人当たりがよく、穏やかで優しいAdrianがテクノをやっているなんてびっくりしたけど、このインタビューをきっかけに私自身もテクノがオープンで自由な音楽だと感じるようになった。そんなAdiranはインタビュー当日の朝も友達と森に散歩しに行ってきたと言っていて、いつものように穏やかな話し方でインタビューに答えてくれた。




Interview 前編
-テクノとの出会いでやっと求めていた音に出逢えた



Meg:Lines Of Loveの楽曲を聴いてテクノのイメージが少し変わったよ。テクノは私の中で暗い、激しいみたいなイメージしかなかったから正直あまり得意ではなかったんだけど、宇宙を感じる曲もあって新鮮だった! Lines Of Loveの曲はテクノの中でもどんなジャンルになるの?

Adrian:俺はミニマルハウス、ミニマルテクノって伝えたいかな。制作する時はリズムや雰囲気を大事にしていて、“ダンスフロアでプレイするための音楽”を意識している。DJにとって遊びやすくて、グルーヴを聴いて体を動かしたくなる感じ。だから美しいメロディーみたいなものはあまり重要だとは思ってなくて、それよりも聴いた時の雰囲気を大事にしてるんだ。

Meg:そもそも何でレーベルを始めようと思ったの?

Adrian:音楽が好きな家庭で育って、家にはたくさんの音楽が溢れていたんだ。俺のお父さんは、Hip Hop, Jazz, House Musicとかが好きで、よく聴いていた。中でもSt.Germainの音楽からは、より影響を受けたと思う。だからレーベルを始めるのも自然な流れだったんだ。16歳の頃から年齢を隠してクラブで遊んでいたりもしてたから、レーベルを始めたのは色んな場所でDJをやってきた延長って感じかな。

Meg:テクノにはまったきっかけは何だったの?

Adrian:誕生日プレゼントでもらった「Thunderdome XX」っていうCDかな。本当に毎日聴いてた。子供の時は自分が何を聴きたいのか分からなかったんだけど、いとこのおかげでこのCDに出逢って、やっと人生で探していた音に出逢えた感じがしたんだよね。それと、Jungle Jumとの出逢いも大きかったね。小さい頃、お父さんが好きじゃなかったからって言って俺にくれて。それでテクノが大好きになった。6歳くらいにはもう完全にテクノに目覚めてたよ。



Meg:6歳で! すごい早熟してる(笑)。でもそこからどうやって自分で音楽を作り始めたの?

Adrian:12才のときコンピューターで音楽制作アプリを見つけて。何がいいアプリなのかも、どうやって使うかも全く分かってなかったし、今思えば全然いい音楽を作れていなかったんだけど(笑)。触っていくうちにすぐシステムを理解して、それから学校の友達に「Ableton Live」ていう音楽制作アプリを教えてもらったんだよね。今でもそのアプリで制作してるんだ。

Meg:10代の頃はどんな音楽活動をしていたの?

Adrian:基本友達の誘いとかでクラブDJをやったり、イベントをオーガナイズしたり。フライヤーも自分たちで作っていたんだ。宣伝は昔主流だった「StudiVZ」っていうSNSを使って呼びこんでいたかな。今でいうFacebookみたいな感じ? 16歳からクラブに出入りしていたけど、誰からも年齢を聞かれることはなかったよ。老けてたからかな? ケルンには18歳の時に引っ越してきたんだけど、元々住んでいたSorstっていう小さな田舎街でできた音楽仲間から、色んな繋がりが広がっていったね。ミュンスター、ベルリン、ウィーン……今でも友達に呼ばれて色んな場所に音楽を流しに行くよ。


-生活の中で吸収したものを音楽に


本棚には幽霊の本や村上春樹の本などが並んでいた。


Meg:今はどんな感じで楽曲を作っているの?

Adrian:基本はラップトップがあればどこでも制作できるから一人での制作が多いかな。旅行に行くときの電車や飛行機の中、長期休暇中に砂浜で作ったりもしてる。よくラップトップで作る人は“ベッドルームプロデューサー”とか言われるけど、俺の場合は“キッチンプロデューサー”か“バルコニープロデューサー”かな(笑)。友達とスタジオに行って制作することもあるよ。あと、ラップトップ以外にもドラムコンピューターとかシンセサイザーだけで作ったりすることもあるかな。どっちも違った楽しさがあって面白い。映画、旅行、普段の生活の中からフィールドレコーディングで音をとってくることもある。それをドラムのグルーブに落とし込むんだ。聴いた人はトリッピー,SF,ファンタジーっぽい印象を受けるんじゃないかな。

Meg:キッチンプロデューサー(笑)。ちょっと曲の聴き方が変わりそうだし、このフレーズは夕飯作りながら思いついたのかな……とか考えちゃうかも。ちなみにレーベルの運営は1人でやってるの?
Adrian:うん。基本は1人だね。でも、昔からの友達のDennis(タトゥーアーティスト)が活動を応援してくれていて、彼からはいつも作り続けるモチベーションをもらってる。「GO! GO!」って。彼はセカンドCEOかな。一緒にパーティーに行ったり、旅行したり。お互いの作品から刺激をもらうことも多いね。俺の足には彼の作品があるよ。(Instagram:@lasek_303

Meg:楽曲のインスピレーションはどこからきていると思う?

Adrian:森とか川とかの自然。あとは旅行、映画・ドラマ、本かな。旅行の話でいうとルーマニアに行ってからは、ルーマニアの音楽カルチャーにすごく良いインスピレーションをもらってるよ。映画とか本とかでいうと全体的に神秘的な作品だったり、抽象的でちょっと“Weird”で奇妙な感じのものが好きだから、そういう作品を見て感じたものを音に変換できたらいいなと思ってる。H.P. Lovecraftの不気味なコスミックホラーの感じとか、日本の作家だと駕籠真太郎とか伊藤潤二とか、そういうちょっと奇妙な雰囲気が好き。あとDavid Lynchの作品は本当に大好き。『Twin Peaks』とか最高だよね! 彼の作品からはすごく大きなインスピレーションを受けたと思う!
そうそう。アートワークとトラック名の多くはスピリチュアルな概念からきているんだよね。


レーベル初のレコード盤『Street Magic』を持つAdrian。レコードは今のところ知り合いや、DJをするときにイベント限定で売っているんだって。


Meg:ああ! 言われてみればレコードのアートワークとかまさにそうだよね。

Adrian:難しいシンボルの中に隠された意味を考えたり、とにかくオカルト的なものにはずっと興味を持っていたよ。自分1人で作った最初のレコードは大事なものだから、自分自身と繋げたい気持ちがあったんだ。五芒星は、スピリチュアルなシンボルやテキストを研究するきっかけになったものだし、自分にとってポジティブな意味を持つシンボルだからね。音楽を作る時は、いつも瞑想状態に入って、ストーリー、テーマ、単なるイメージを頭の中に浮かべるんだ。何時間も音楽に集中する中で、それが具体化されていって、トラックのタイトルやアートワークを考える時に自ずとほのめかされるように反映されるんだよね。だから『Street Magic』の曲に関連しているアートワークやタイトルと、曲の繋がりに注目してもらえると面白いと思うな。


ほとんどが友達のDennisが彫ったタトゥー。ブラックアウトタトゥーが印象的。Adrianの身体には他にもジャケットのアートワークにもあるスピリチュアルなシンボルがいくつも。



後編ではAdrianのレーベル「Lines Of Love」について、今後の展望について聞いてみた。
次回もお楽しみに!!



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