London Calling! #3
学校へ行こう!〜ロンドナーの髪/顔/装い〜
Contributed by Chihiro Fukunaga
Trip / 2024.07.18
そんな漠然とした願いが突如、切符となって目の前に差し出された。ロンドンで新たな生活をスタートさせたフリーランスの編集者・ライターChihiro Fukunagaさんが、生活拠点をつくるまでの様子を全6回でお届け!
#3
■ロンドンの若者のヘア/メイク/ファッション事情
ロンドンに来て、私の化粧はあっという間に薄くなった。肌の毛穴やテカリ、ニキビは生命力を生々しく感じさせる魅力的な要素だと思う私は、誰かの顔の上にそれらを見つけると、ハっと惹きつけられることがあった。それで、ずっと化粧を薄くしたかったけど、日本の社会では女性が化粧をすることはマナーとされるところもあり、会社員として人に会う機会がある以上、なかなか踏み切れずにいた。(←今思えばただの言い訳のような……)
でも、ロンドンの人々は、自分の好きなスタイルを選び取っているように見えた。メイクアップに関しても、素肌よりもワントーン暗いファンデーションの上からチークを日焼けのように入れるメイクや黒々としたアイラインを思い切り跳ね上げて目元を強調するメイク、生まれ持ったそばかすをそのまま活かしたメイクなど、さまざま。美白や美肌を作り込むことが全てではないけれど、ナチュラルであることを押し付けるムードもない。電車でメイクアップする人の完成までの工程を見ていると、何かしらの驚きがあって本当に面白い。
それを見て、私もほぼ素肌なメイクにシフト。ベースメイクは何度もリピート買いしているNARSのフェイスパウダーのみで、クリームのハイライトでヌメっとさせる。眉は深いグレーのペンシルで眉尻を描き足し、アイメイクはADDICTIONの薄いゴールドのクリームアイシャドウと、マスカラ。それだけになった。ロンドンに来てから、自分の黒いヘアもチャームポイントの一つであることに気づき、眉を染めることもやめた。
爪について。ロンドンに来て1ヶ月もすると、爪を塗れるまでに生活に余裕が出てきた。私はポリッシュ派で、ホロ入りが大好き。ロンドンのストリートにはネイルサロンが結構あり、ジェルネイル派も多い
ロンドンのヘア事情はどうでしょう。日本ではどちらかというと、ウエットな質感に仕上げて髪のツヤを強調するようなセットが主流な気がするけれど、ロンドナーが長年、硬水のシャワーで洗ってきた髪は、ナチュラルでドライな質感。例に漏れず、私の髪も1週間でバキバキになった。いつもお願いしているヘアスタイリストさんに「ベテランロックバンドの無口なギタリストのような感じで」とオーダーし、レイヤーをたっぷり入れて素敵にやってもらったパーマヘアがギシっと/ボワっとした質感になってきたけど、それもまた乙な気分。
私の今のヘア。黒い髪もモリモリの毛量もボワッとした質感も愛おしく思えてきた
ついでに、ロンドンの人の若い世代のファッションにも注目してみると、やはり日本のそれとは違っている。まず、ウエアはデザイン要素が少ない普遍的なアイテムが人気だ。アイコニックなブランドのものを着るより、カジュアルブランドやチャリティーショップで、自分のフィーリングに合うものを調達しているように見える。
自分のスタイルを楽しむ女の子
7月に差し掛かかり、やっと半袖やノースリーブを気持ちよく着られる日も増えてきたけど、夕方を過ぎると気温は10〜15度まで下がる。そんな気候ゆえにみんな、体感温度を調節しやすいレザージャケットやシャツを着ている。陽のある日中は束の間のサマースタイルを楽しみ、夜、遊びに行くときは1枚羽織るようだ。そして、顔まわりのアクセサリーはゴールドが人気。
気温が上がる日中は、みんなこうしてアウターを抱えて歩く
女性も圧倒的にパンツ派が多く、スカートを履いているのは全体の15%以下くらい(?)。ストレートのジーンズにスニーカーを合わせるような、ジェンダーを問わない装いが主流。また、全体的に「たくさんの選択肢がある中で、あなたはそれを選んだのね!」と思わせるような、華やかな色も目につく。好きなものを自由に選ぶ彼らのスタイルには、自ずと個性が宿る。
1時間、ロンドンで若い世代の足元をウォッチング。ものすごいadidas率!Onitsuka TigerやDr.Martens、Timberlandも多く見かけた
一方で、バッグやシューズには、トレンドが見え隠れする。バッグは昨今のアジア圏と同じく、小さめのホーボーバッグが流行中。シューズはローテク感のあるクラシックなデザインが人気で、今なら圧倒的にadidasのSambaまたはGazelle。Onitsuka TigerのMEXICO 66を多く見かけるのも、日本人としては嬉しいところ。Dr.MartensやBIRKENSTOCKを愛用する人の割合が日本より断然多い点には、ヨーロッパを感じた。今度、ロンドンの若者たちのデイリーウエアのファッションスナップもやりたいな。
ロンドンのメジャーなセレクトシューズのお店に行くと、adidasがとても充実していた!なるほど、カラーやモデル違いでこれほど見かけるわけだ
■“めっちゃ喋るのにぼっちの奴”、再び
さて、ロンドンに少し住んだだけで英語がペラペラとまではいかないだろうけど、誰かと楽しくおしゃべりできるくらいにはなりたいところ。私は、ロンドンに滞在する最初の3ヶ月間、語学学校に通うことにした。学費は3ヶ月で約50万と、安くはない金額。でも、飽きっぽく、意思が続かないくせに負けず嫌いな私は、何か新しいスキルを得たいときにはまず、環境を固めるのがいいと27年間の経験則で知っていた。
中学校の時は英語が嫌いでなく、テストの点数はクラスでトップ3に入ることもあるくらい(←自慢できるほどでもない微妙なライン)。なので、中学英語に関しては普通に自信があり、春にタイと香港に行った時もベイビー・弱小・イングリッシュながら現地の人とコミュニケーションが取れて、「お!これはいけるのでは?」なんて思った。けど、その自信はロンドンに来てあっという間に打ち砕かれた。
私はロンドンに着いた翌日、スターバックスでフラットホワイトを注文した時に3回聞き返されただけで怖気づいてしまい、それ以降、フラットホワイトをオーダーするのを避けるような弱虫になってしまったのだ!
タイと香港はアジア圏という親近感もあったと思う。でも、ロンドンの人々はブリティッシュアクセントでスラスラと英語を話すし、なんかカッコよく見える。日本には古くから“白人コンプレックス”という概念がある。私はこれまで、その人種であるだけで羨望の眼差しを向けられるなんてよく分からないし、全くピンと来ていなかったけど、この時に少しだけ“そういうことね……”と思った。同時に、相手によってスタンスが変わる自分の弱さが、心底嫌になった。
(ちなみにその後、発音を事前に何度も練習してフラットホワイトをオーダーすると、一発で聞き取ってもらえた!人生とはこうやって一つずつコンプレックスを潰していく旅なのだ……)
2022年に開通したばかりの地下鉄の路線・ビクトリアラインの駅構内。プラットホームに向かうまでの道は曲線が魅力的…!
気を取り直して、語学学校初日。学校に来たら英語を勉強中の仲間ばかりでひと安心。学校にはいろんな国籍、年齢の生徒がいた。多いのはトルコ人と韓国人、日本人、ブラジル人、フランス人といったところ。20歳前後の若い人は、母国の高校や大学を卒業して、将来ロンドンで学校に通うため/仕事を見つけるために英語を学んでいるという人が、私と同じくらいか年上の人は、すでに母国で専門的な分野で仕事をしていて、その幅を広げることを目指している人が多かった。
日本人の友達と食べたピザ。毎回ディナーとお酒をお店でまともに楽しもうとすると、お金が持たないので、もっぱらピクニックスタイル
4年ぶりの学生生活で、自分がどんな学生だったかを完璧に思い出した。私は少数の友達と一対一で付き合うのが好きで、気の合う友達を時間をかけて見つけたいタイプ。そして、知らないことばかりの授業は幼少期から“なぜなぜ星人”だった私にとって、常に刺激的だ。お金を払って買った学生の権利を行使して先生にたくさん質問をすべく、自由に選べる場合は一番前の席を陣取り、授業にもまあまあ口を挟む。そのため、いつも最初は“めっちゃ喋るのにぼっちの奴”になる。そんな自分の一面が久しぶりに垣間見え、モラトリアムに浸って無意味にイライラして過ごした学生時代を懐かしく思った。
さて、授業の内容はというと……。英語の世界では、中学英語ができれば日常会話は成立すると言われているだけあって、授業にもさほど難しい単語や文法は出てこない。でも、文字を読んで意味が分かるのと、その場で自分の思いを表現するのはわけが違う。英語を自分のものにするには、コミュニケーションの中で生きた表現/語彙を獲得していく必要があると分かった。
ノートに端に落書きというノスタルジックなイベントが発生。これは友達が描いたクラスメイト
日本人は学校のテストに向けてみっちり勉強してきただけあって、文法と英文読解が得意な人が多く、他国の出身のクラスメイトからも「日本人は、みんな頭いいよね」と評価される。でも、とにかくシャイだし、英語を話す機会が少なかったこともあって、口数が少ない傾向にあった。
一方、他国の出身のクラスメイトはブロークン・イングリッシュであっても自分の考えを精一杯表現しようとする。中には、文法や単語が間違っていても「いや、絶対にこれが正しい!」と譲らず、正解を知ってから「いや〜君が正しかったね、アハハ〜」なんて言ってきたりする。そのポジティブな姿勢は、見習いたいところ。
学校で仲良くなった建築家の友達と、ロンドンのよい建築を巡る散歩をした。その子はあまり英語が得意でないけれど、建築の話題になると語彙が一気に増えてとても熱心に話し出す
トルコ人の友達が作ってくれた、バナナにナッツ、ポソっとした質感の砂糖を合わせてハニーをかけたおやつ。外国人の友達と食文化を交換する企画、大好き
このコラムを書いている今は、語学学校に通って3ヶ月が経とうとしている。気の合う友達にも出会え、英語も少しは上達したかな(と願っている)。でも、自分の英語力が不安すぎて休日は1日中勉強していた渡英前のほうが、伸び率でいうと伸びていた気がする。どの環境に身を置いて、どんなにお金を払っても、結局自分次第ですね……。
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Chihiro Fukunaga
1997年生まれ、神奈川県横浜市出身。幼い頃から手描きの雑誌を作り、家庭内で発表する。高校生になると編集者を職業として意識し始め、大学在学中に編集プロダクションに所属。その後、INFASパブリケーションズに入社し、ファッションメディア「WWDJAPAN」の編集部に編集記者として参加する。2024年春に渡英し、フリーランスの編集者・ライターとなる。ルポルタージュやスナップが好き。美しいだけでないリアルや、多様な価値観に迫りたい。