A Spell On You #15
思いに耽る夜、最高の日、後編
Contributed by Aya Ueno
Trip / 2024.08.06
#15
パリ2日目、後編。
夜は、日本人の東郷さんという方が営む、パリで一番好きなレストラン「Vingt Vins D'art」へ。もの静かだけどどこかリズミカル、どこか賑やか、わたしの中にあるフランス人のイメージが、お店になったみたいな場所だ。
ここで一番好きな定番メニュー、マグロのタルタルをオーダーした。美味しいね、美味しいねと食べていると、留学中、しょっちゅうここに訪れていたまりかが、当時の悩みを思い出して少しセンチメンタルになっていた。
心の傷について考える。昔の悩みや壁を思い出すと、“今となってはこれで良かった”と思えることがほとんどだ、でもそれでも綺麗事にはできない、薄くなってもちゃんと残ってしまう傷はある。と、これは、まりかを見て思ったこと。
自分も含めて、大なり小なり、人は傷だらけ。生きているんだからしょうがないことなのだろう。だから、もうほとんど目立たない傷も、火傷の跡みたいに残ってしまった傷も、自分の一部として、そこにいていいと受け入れてあげたらいいんだと、わたしは思う。
まりかは、普段悲しいときや悩むとき、ほとんどそれを人に見せず、自分の中で解決できてから話してくれたりする。そんなしっかりしていて強いまりかが、今日のようにたまに話したくなった時は、そこに寄り添える友達であれたらいいなと思った。
それから、もう一つ。
思い返せば、留学に行く前のわたしたちは、学校、複数のアルバイト、家族、などなど、いくつもの複雑な社会の中で忙しくなく生きていて、ある日突然、そこからぴょんと抜け出して、期間限定のヨーロッパへ潜り込んだ。そこにいたのはねるとまりかとわたし、あれだけ自分の頭の大半を占めていたいくつもの枠組み(社会)はないのだ。悩んだり寂しくなることがあっても、それをカバーできるのもまた自分、もしくは、たまに、まりかとねる。もちろんこっちでも色んな友達や知り合い、住む家、その家族ができたけれど、何もわたしたちを縛らず、いい意味でひとりぼっちが3つあるような感じ。だからか、わたしたちの絆はなんだか言葉にはまだないような、特別で素敵なものだったなあ、と思い出した。
それに、比較対象はほとんどなかったから、したいこと、ありたい自分を、ピュアに見つめることができた。だからどうでもいい選択も、無謀に見える挑戦も、なんでも赴くままに行動に移せて、強くなった気がした。1人で楽しめている自分が。
留学を終えて、こうして旅でヨーロッパに来るたびに、あ、また最近、社会に埋もれすぎていた、と我に帰る。ここにいるのはまた、まりかとわたしだけ。結局好きなことはなんだろう、やりたいことは、なりたい自分は、と2人っきりで好きなように話していると、勝手に凝り固まっていた頭がほぐれていくのを感じた。
とびっきり美味しいごはんと、いつものぶどうジュースと一緒に、色々おしゃべりして、笑ったり涙ぐんだりと忙しないディナーを終え、お店を出た時はすこし大人になった気がした。美味しさと心地よさと、当時が懐かしくて、全部巻き戻して戻りたいような。でもそんなのは出来ないから、また来ることができて嬉しい、そしてまりかが一緒にいることにありったけの感謝を持ってお店を出た。また絶対にパリへ来たいし、そこにはまりかがいたらいいな。
#Gloomy day All day
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Aya Ueno
兵庫県神戸出身、東京在住のWriter/Photographer。学生時代に渡ったイギリス留学を機に、人や、取り巻く空間を魅せる表現に興味を持ち、現在Containerをはじめ、カルチャー、フードメディアにて発信中。
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