my milli mile #4
AURORA HUGS YOU
-緑の光とあの子の涙-
Contributed by Yuka Ishiyama
Trip / 2024.07.25
大学生のYuka Ishiyamaさんがフィンランド留学中のあらゆる瞬間を独自の視点で切り取り、出会いのストーリーとして全8回でお届け。
#4
あの日の夜、私は初めてあんなにも綺麗な旅の終わりを見た。
“旅の最後は美しい”
その言葉が心にすとんと落ちるような夜だった。
ヨーロッパの北に位置する真冬のアイスランドを旅した1週間に、いよいよ終わりが迫っていた。
そこには、月日が経った時に忘れてしまうのが怖いくらい、自分の中にずっと生き続けていてほしい景色が目の前に広がっていて、その線の一つひとつがくっきりとそこにあった。
それを見て私は、言葉で表せる世界の美しさは少ないんだ、と心から思ったんだ。
ー
旅の最終日、このツアーを通して仲良くなったみんなと、最初で最後の贅沢なディナーを食べに行くことになった。
雰囲気よし、味よし、話す機会が少なかった子たちとも交流できたいい時間だった。
贅沢なディナーとは言いつつも、日本でも食べられるような美味しいハンバーガーだ。
この1週間、高い高いと嘆き続けたアイスランドの食事。だけど、あの日のご飯は値段以上の価値がそこにあったような気がした。
大満足をしてお店を出ると、既に夜の9時を回っていたが、数人で“オーロラハント”に行くことになった(“オーロラハント”とはオーロラが現れそうな場所に行き、見えるまで追いかけ続けること)。
凍えるほど寒い中、私たちは寒さに抗うようにひたすら歩き始めた。そんな道中も、お互いに色々なことを共有して、歩き続けた。
中々現れないオーロラにもめげることなく、私たちは光の少ない海岸の反対側まで行くことにした(オーロラは基本、光が少ない場所だと現れやすく、星がよく見えるところには現れる確率が高いと言われている。
海岸に近づくにつれて強くなる風に向かいながらも、海外沿いに並ぶ市場のライトアップが私たちを照らしていて、その瞬間の全てが特別だった。なにげない会話を続けていたら、遠くの暗闇に光を見た。
最初は小さく薄かった光も、じっと待ち続けると真上の空に円を描くように現れ出した。
圧倒された。
あれだけ話すことをやめなかった私たちも、みるみると口数が少なくなっていくのがわかった。
その光を目の前にして、きっとそれぞれがそれぞれの想いや感情を抱いていたのだろう。その長いようで短い時間、私たちは凍える寒さなどすっかり忘れていた。
それから、夢心地で余韻に浸りながら宿舎までの長い道のりをまた進み続けた。
ついに到着した宿舎のエントランスドアが開き、まだ指先に残る寒さと身体の内から感じる熱さが混ざった感覚が、不思議でまた心地よかった。
あの感覚は、これからもどこかで私をあの瞬間に連れ戻してくれるだろう。
「ホットチョコレート飲もうよ!!」
と友達が言い出したのでキッチンへ行くと、ツアーに参加していた他の皆んなが机を囲んでいた。
「私もさっきオーロラを見たわ」と、お酒を片手に話し込んでいる人もいて、馴染みのあるような顔が並ぶ様子に、私はなんだか安心した。1週間なんて人生のたった7日間のはずなのに、こんなに今を特別に感じることなんてあるのだろうかと贅沢な疑問を持ちながら大切に、大切にしようと心から思った。
キッチンには、ホットチョコレートだけでなくティーやクッキー、パスタもテイクフリーとして置いてあった。15人が座れるかいなかの小さなキッチンスペースで、凍えた体をみんなであっためながら、一つの机を囲んだ。
それぞれの国の話をしたり、面白い言葉を教えあったり、たわいもない会話をした。隣の席では残り2時間でここを出なきゃいけない、と言っている子もいた。
深夜12時、私たちは皆んなで心あたたまる最後の夜をスタートしたのだ。
そうして少し時間が経つと、
隣のテーブルで、女の子が泣いていた。
どうしようもないように泣いていた。
突然すぎて何が起きているのかなんてわかるはずがない。
でも、あの時の私はなんとなくわかった気がしたんだ。
少し落ち着いた彼女に話しかけてみるとその子は、
「東と西がさ、助け合ったら世界が良くなるよね」って話していたんだと言った。
ブロンドの髪と輝く瞳が綺麗なその子は、ウクライナから北欧に留学中の女の子だった。しばらくの間、私はその子から家族の話や戦争の話、国のことなど、今まで聞いたことがないような話を沢山聞いた。だけどあの時の私といえば、聞くことしかできず、その子の気持ちを完全にわかってあげられないやるせなさで、ただただ胸がいっぱいだった。
その後、彼女は早めに部屋を出た。
部屋も会話もだいぶ落ち着き、みんなもそろそろ寝ようかと部屋に戻ると、あの子が暗闇の中で携帯のライトを照らしながらスーツケースを整理していた。
しばらくして彼女が荷物をまとめ終えると、私はどうしようもなくなり、二段ベットのぎこちない階段を降りて彼女の元にそっと駆け寄った。
ハグしていい?
どうしてもハグがしたかった私は、その子に大きなハグをした。
それが彼女との最後の別れだ。
連絡先もなにも持っていないけれど、わかる、今でも繋がっているんだって。世界は広いけど心はいつでも側にあって、そうあるべきなんだって。その子は、ハグした私に向かって「かわいいね」なんて言いながら、素敵で優しい笑顔でぎゅっとハグをし返してくれた。
彼女の胸の中はとってもあたたかかった。
気をつけてね。と朝方の暗い部屋で2人ひそひそ話してさ、私は彼女がつけていた携帯のライトが消えていくのを見守った。
ー
今まで想像してきた世界が、知っているはずだった世界が、現実として目の前に現れた。
その現実は自分が思う何倍も深く優しさと悲しみで包まれていた。
でも、私はその別れに抱きしめられた。抱きしめられて世界の心の声に耳を傾けた。
そして、私も心いっぱいのハグをした。
私は今、これを読んでくれているあなたにハグをしたくてしょうがない。
大きな大きなハグ。
代わりにここで、言葉で、愛いっぱいのハグを送らせてほしい。
そして私はこれからも、言葉で世界中の人に愛を伝えられる人でありたい。あなたが受けとったその大きなハグと愛が、あなたからまた、違う誰かに届きますように。
Big hug and
Love,
この広い世界の姿を目の前にして、自分がちっぽけに見えたりもした
雨に打たれた帰りのバス、全ての水分を吸収したノースフェイスのジャケットで、本気で凍え死にしかけた
サメを干して燻製させているという場所に行くと、とにかく臭いがきつ過ぎて、今でも思い出すと震えるほどだった(実際に試食もしたが、もはや味を思い出せない……)
それでも、私の見た世界はどこまでも広く、全てが繋がっているように感じた
またいつかこの場所に戻れる日まで……
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Yuka Ishiyama
東京生まれ育ち、ひとり時間もパーティもコーヒーもビールも大好きな欲張り大学生。ヨーロッパ留学と旅を経て世界の広さと同時にその近さを実感し、誰もが持つ個々のストーリーをエンパワーし、表現したいと活動している。現在は日本のホステルで働きながら、世界と自分との出会いの旅を続けている。