Sole, Pizza・・・ e Amore #08

ごめんね、のひとこと

Contributed by Aco Hirai

Trip / 2024.07.19

イタリアへ移住したAco Hiraiが綴る恋愛ストーリー「Sole, Pizza・・・ e Amore」。何気ない日々の中で気付かされるイタリア人パートナーとのたわいもない国際恋愛を綴ります。

#08




昼食の後。
「Basta(もうたくさんだ!)」と部屋中に大きな声が響き渡った瞬間、バタンという大きな音とともに家のドアが閉まった。
アントニオと大ゲンカをして、彼が家から出ていったのだ。
私は血が上った頭で、平常心を取り戻そうと両手で顔を覆い、背中からソファに倒れ込む。

その瞬間、相手に対する不満や不公平さからくる怒り、
理解し合えない、うまく伝えられないというフラストレーション、
言いすぎたことや相手を傷つけてしまった後悔、
関係が修復できないかもしれないという不安や悲しみ、
元凶となった問題を解決できない無能さ、
それでも、相手を愛おしく思い、大事にしたいという愛情。

この感情という感情が鋭く全身に突き刺さった。
頭の上にあったクッションを掴み、顔に押し付けてガードするが効果はゼロだ。
痛い、苦しい。
見えない何かに飲み込まれてしまいそうになる感覚。
目を開けると現実と向き合わないといけなくなるから、
それが嫌でクッションで顔を覆ったまま、目を開けられずにいた。

少し経つと落ち着いてきたので、ゆっくりと瞼を持ち上げると天井と目が合った。
いつもと何も変わらない天井なのに、なんだか遠くに感じて孤独感に苛まれた。

そして1時間ほど経った頃、アントニオが戻ってきた。
どうやら、外の空気を吸って気分転換していたようだ。

帰ったという合図はもちろんのこと、2人の間に会話はゼロ。
重くて冷たい空気が家の中に広がっていく。

「ごめんね」
と言えば済むことなのに、その一言が言えない私たち。
大人げないとは重々承知しているが、大人になってもなかなか難しいのだ、この4文字は。
それに、時間が経てば経つほどに意地になって、ますます言い出せなくなる。
それが分かっているのにやっぱり言葉にできない、ダメな私。

私たちは言葉を交わさないままそれぞれ夕食を取り、ベッドに入り、次の日を迎えた。


つづく。



アーカイブはこちら
過去の連載『Mamma mia!』はこちら

Tag

Writer