Couch Surfing Club -Seoul Art Walk編- #5
Here, There, Everywhere
Contributed by Yui Horiuchi
Trip / 2024.08.22
#5
時刻は13時45分そろそろ、お腹も空いてくる頃だ。
行こうと思ってた牛の藁焼きのお店に問い合わせの電話をする。
予約不可だが店頭で記名して待つスタイルだったので、一度名前を書きに立ち寄ってから待ち時間を確認して一度出ることに。
行きたかった美術館Amore Pacific Museum of Artが近くにあったので待ち時間にねじ込んで急ぎ向かうことに。
📍 Amore Pacific Museum of Art
アモーレパシフィックは韓国の大手化粧品会社で社屋の地下には美術館が、設計はイギリスの建築家デイビッド・チッパーフィールドだ。
この美術館は会社の創業者である徐成煥前会長が収集した美術品を基盤に出発し、出版など多様な活動を繰り広げてきている。
本社内には展示図録ライブラリーや過去の出版物を閲覧できるスペースもある。
敷地内には、オラファー・エリアソンの巨大な彫刻作品《Overdeepening》が設置されている。
これを目の当たりにできただけでも訪問の価値ありだ。
✔️UNDER THE SUN
Amore Pacific Museum of Artで開催中の大規模な個展「UNDER THE SUN」は、ローレンス・ウェイナーの韓国およびアジアでの初めての個展であり、彼が2021年に亡くなって以来初めての回顧展となっていた。
会期が半年ほどとすごく長かったので、一年に1〜2度訪韓するペースだったら各企画展は網羅できるかもしれない。
焦らず訪問の予定を立てられそうで良い。
彼の作品をどこかで見たり、知ってる人は多いと思うが初見の方に少しご紹介。
ローレンス・ウェイナー(Lawrence Weiner)は、アメリカの著名なコンセプチュアル・アートの先駆者として広く認知されており、特に言葉や文章を使った作品で知られている。
ウェイナーは、文章やフレーズをアートの主要な要素として使用し、壁に書かれたテキストや言語がアートそのものとなり、そのメッセージや意味を観る者に直接伝えてきつつ、観る者に解釈を委ねることが多く、受け手が自分自身の経験や背景を通じて作品の意味を見つけることができるような作品を多く残している。
有名な作品例...
●"A RUBBER BALL THROWN ON THE SEA, CATTERING JUST SO"(海に投げられたゴムボール、ちょうどそのように散らばる): この作品は、テキストだけで構成されているが、言葉がそのまま作品の一部となっている。ウェイナーは、これによって観る者に想像力を働かせ、自分の頭の中で作品を完結させることを求めている。
ローレンス・ウェイナーの作品は、一見ポップでシンプルに見えるが、その背後には深い哲学や思想が込められており、観る者に新しい視点や問いかけを与えてくれる。
ニューヨーク州ブロンクスで生まれ、アムステルダムとニューヨーク市を拠点に生活し制作していたウェイナーは、カール・アンドレ、ロバート・バリー、ダン・フレイヴィン、ジョセフ・コスース、ソル・ルウィット、ロバート・ライマンなどの戦後の先駆的なアーティストとともに登場。
美術界のレジェンドたちのこの中で存命なのは、ジョセフ・コスースとロバート・バリーくらいだろう。
18歳の頃にセーラー服を着て、ジョセフ・コスースとカラオケに行ったのが懐かしい。
これもまた幻のようだ(笑)。
彼らは1960年代にミニマル・アートやコンセプチュアル・アートの基礎を築いた人物たち。
ウェイナーの初期の作品には、絵画、彫刻、建築の実験が含まれていて、1960年代後半から、言葉を彫刻の素材として用いるようになり、それらを「言語彫刻」と称し、芸術の定義や境界に挑戦していった。
この展示では、ウェイナーの代表的な言語彫刻47点が展示されていて、「主題‐対象」、「プロセス」、「同時現実」のテーマの下、この展覧会は、ウェイナーの芸術と韓国の美術コレクションから選ばれた作品を融合させ、歴史的時間や文化的空間を超越した新しい視覚的対話の場を創造しようと試みている。
彼の言葉は、これらの作品に関わるための入り口であり出発点となっている。
この文脈で彼の言葉が提示されることで、私たちの歴史、文化、世界に対する態度が試され、挑戦が広がっていく機会が提供されることを目的としている。
ウェイナーの紡ぐ言語は、特定の文脈や定められた意味、提示に限定されるものではなく、『AS FAR AS THE EYE CAN SEE』(1998)を含む7点の作品は韓国語と英語の両方で展示され、過去にも日本語を含む多言語の言語と文化の境界を超える解釈の広がりを探求してきている。
47点の言語彫刻に加えて、エディションワーク、ドローイング、ポスター、モーションドローイング、ビデオ作品も含む彼の60年にわたる貴重なアーカイブと長期的な活動に光を当てた大回顧展と言って間違いない大充実の展覧会だった。
入場料は¥1600程度、美術館としての展示空間の巨大さに加え毎回クオリティの高い展覧会を開催しているようなのでマストチェックだ。
美術館のロッカーやエレベーターもローレンス・ウェイナー一色
本社全体もラッピング、サイネージが出口側に面していてもローレンス・ウェイナーに徹底していた
コスメ好きなら尚おすすめなのが2階にある、アモーレパシフィックを代表するメイクアップアイテム、新作を全て試して購入することができるショップ。
休憩にも使えるラウンジ中央には自分の肌の色にカスタマイズしたファンデーション(約150色あるらしい)を注文できるカウンターもあり、もちろん全て免税対象。
SDGsにも配慮した取り組みなど、美術館以外の目的で訪れても楽しめるカフェやレストランまであるので、しばらくここでくつろげること間違いなし。
美術館を見終わったタイミングで予定していた昼食の時間に。
記名を済ましておいた夢炭(モンタン)へ向かうとちょうど自分達の順番で入店してすぐテーブルに案内してもらった。
夢炭は2018年にオープンした行列のできる藁焼きの焼き肉屋だ。
重厚感漂うこの建物は、日本の植民地時代に建てられたものらしい、1900年初頭のことだろう。
店名のモンタンと同じ読みの南西部に位置する湊町の夢灘では肉や魚を藁で炙って旨味を閉じ込める料理法が伝わっており、このお店ではそのやり方を踏襲しているらしい。
店員さんがテーブルに運ばれてきた骨つきカルビを素早く捌いていってくれ、卓上にたくさん並んだ薬味と一緒に食べるように指示してくれる。
牛と一緒に提供されたトッポッキが油を吸って甘くなっていて鍋以外でトッポッキを食べたのは初めてだったが揚げ焼きみたいで美味しくてたくさん食べてしまった。
頼んでいた豚肉は脂身を残してキムチとご飯を炒めたチャーハンに。
用意されていたスプーンとお箸には高麗人参だろうか、ディテールにも韓国を感じる。
ここも味のクオリティに比べてかなりお手頃で、特にサイドのメニューが安すぎんか?と韓国の外食文化に感謝した。
お口直しにとレジでもらった硬めのミントのラムネ、好みの味だったのでもっと貰えばよかった(笑)。残りの滞在でどこかで買えないか探してみよう。
📍 P21
ランチ後はイテウォンに戻り、昨夜ディープな飲みに連れ出してくれたザックの働くギャラリーP21に立ち寄る。
ザックとは台湾のアートフェアで知り合ってから渡韓の際には遊びに行くねと連絡していた。
呉家陸(Wu Jia Lu)の初の韓国個展「Emotional Device」の展示準備中とは聞いていたが、作家もザックも常駐していると聞いていたので、顔を出してみる。
✔️Emotional Device
作家の呉家陸(Wu Jia Lu)は中国南部の典型的な広東の都市で生まれ、1990年代に香港を通じて中国本土に入ってきた娯楽、美学、ライフスタイルの影響を多く受けた地域で育ってきたという。
彼女は2014年に清華大学で美術と英語の二重学士号を取得し、2017年に香港城市大学のクリエイティブメディア学部でMFAを取得した後、近年はアジア文化協会からニューヨークのフェローシップ助成金を受け作品が香港のM+美術館のコレクションに収蔵されるなど若手の注目株の作家のようだ。
P21は間取りは小さいが、路面に面した並びのバーを挟んでもう一箇所スペースを保持しており、常時同じ内容の企画展を開催しているようだった。
このコンパクトなギャラリースペースに対して、新しく坂を少し下ったところに新規スペースをリノベしてオープン予定だと言うので、まだ手付かずのスペースを見してくれた。
天窓があり、広々とした空間。
たまにここで野良猫が日向ぼっこしていることがあるらしく、オーナーがそこを気に入ってレンタルに至ったそうだ。
かなりスペーシーな空間。こちらも心臓破りな坂沿いにはあるが、現在はすでにオープンしているので是非行ってみてザックにセイハイしてきてほしい!
さらにP21から坂を下って同じ路面沿いにあったインテリアショップOaosに立ち寄る。
壁にはリー・ウーファン、いつかお茶出しをさせてもらった時に緊張しすぎてお茶碗をカタカタ揺らしてしまったことがある。
店内で日本語で話していたら近く大阪に行く予定だというスタッフの子が翻訳アプリを使って話しかけてきた。
美味しいお店の情報を教えてあげたらお返しにクラブ情報を教えてくれ始めた。
そう、レジのパソコンで(笑)
内容が若いが、こういう生きたやりとりは今を生きる若い子とのコミュケーションならでは、悪くない。
全くクラブに行く予定はなかったが、夜のイテウォンがどんな感じが想像できた。
同じ建物内にナム・ジュン・パイクのポスターを発見、先ほどの女の子に『これはどこ?』と聞くと裏口までついてきてくれてエレベーターまで案内してくれた。
まさか上階にG Contemporaryというギャラリーが。
ここでナム・ジュン・パイクの個展を開催中だった。
📍 G Contemporary
ナム・ジュン・パイクは、韓国生まれのアメリカ合衆国の現代美術家。
ビデオ・アートの開拓者であるとともに、その代表的な存在。
まさかここでお目にかかれるとは、驚きと喜びと、下階でコミュニケーションを取ったスタッフの子のこともあり、ここでの体験がより特別なものになった。
展覧会巡りをしていて展示場所や作品の魅力だけでなく、その場で関わった人々の親しみやすさが旅全体の印象を一層深いものにしてくれる。
今回はヒーチャンがこれに大きく貢献してくれていることは言うまでもない。
イテウォンから見えたソウルタワー、展望台があるようでトイレからの眺望が素晴らしいと口コミで評判だ。
ヒーチャンが仕事終わりに再度合流してくれたので軽く飲みに行くことに
ソウルでいう骨董通りを歩いて目的地まで連れて行ってくれる
ここがまた心臓破りの坂だった
息を切らし肩を上下させながらヒーチャンにもう少しで着くよと励まされながら頂上を目指していく。
流石の地元っ子、この地形をチャリでも縦横無尽に駆け抜けて待ち合わせ場所に現れた姿は圧巻だった。
おすすめのピザ屋HOMERに到着
Post Poeticsの近くだ
よく歩いたのでビールがうまい
食後に少し夜のイテウォンを散策する
日中も気になったカフェは夜でも人気スポットのようだった。
みんなこんな遅くにコーヒー飲んでるんだろうかと純粋に疑問。
開いてなかったが、D&DEPARTMENTがカフェと同じ建物の地下にあった。
親友が映画関係の仕事をしてるので、このマグがほしかったが断念。
朝、反対側の歩道から見かけたUgoの作品を間近で拝みつつ皆帰路へ
そして駅のキオスクではわたしの大好きなアメリカのお菓子が!
買わなかったけど、日本でもなかなか見かけることがないので、こんなところでもアメリカのものの流入具合にこんなところでも関心してしまった。
📍 DDP(東大門デザインプラザ)
一駅手前のトンデムンで下車し、見たかったザハ・ハディッド建築のDDP(東大門デザインプラザ)を拝みにいく。
圧巻
飛び出した流線型が生き物のようで内部構造がすごいことになってるんだろうとは思ったが、想像していたよりかなりデカくて衝撃を受けた。
建物内の様子
入場は無料、深夜帯お店は閉まっていてもトイレなどは使えたので覚えておくと◎
ショップのディスプレイに巨大な木の根っこがそのまま使われていたり
深夜から明け方にかけてファッション問屋がぞろぞろと押し寄せてくる眠らない街トンデムン。
近くにはチムジルバン(サウナ)もあり、入浴、休憩、深夜プランなら1500円程度で、スーツケースを預けてホテル代わりに滞在する若者もいるみたい。
24時間営業の料理店も多いので徒歩圏内で滞在していたら飽きることはないだろう。
DDPの斜め向かいにあるロッテのショッピングモールがまだ営業中だったので立ち寄ることに。
赤信号で点灯中の横断歩道の足元の照明をまるで無視して向こう側で信号待ちをするお姉さん。強気です(笑)。
時刻は23時前、大通りには屋台もたくさん軒を連ねていて串焼きやおでん屋を見かけた
若者たちが一本300円のチーズハットグに深夜近く並ぶ姿はなんか微笑ましい
深夜を回る頃屋外に飲食スペースを大きく儲けたコンビニを見つけたので、立ち寄ってみた。まさかのインスタントクッパを発見、これは!と勢いでドラマでよく見るコンビニ飯をしてみた。
セットアップが充実しすぎている&超清潔。さすがとしか言いようがない
念願の(?)深夜コンビニ飯体験、しかも隣のオンニたちが飲んでるビールがクレヨンしんちゃんのパッケージで気になったので、お湯を入れて待ってる間に店内に戻って買いに行った。
こういう小さな発見は実体験がないとなかなかできない。
ホテルに帰りがけ見かけたおでん屋でレモンサワーを飲んで帰る。
店名はゆめおでん、そして壁にかかるみつを。
じわじわくるな、まるでおでんの出し汁(笑)。
人間観察を楽しみながら今日の歩数を確かめる。28,603歩、個人的に理想の海外の過ごし方だ。歩いて情報収集そしていつもより数食多くいろんなものを食べる。
帰宅
コンビニでの戦利品とお土産を眺めながら今夜はメロン味のウユを飲んでみたけど、やっぱりまずい(笑)。
すごい人気の乳飲料ではあることは間違いなく、個人差はもちろんあると思うのでイケると思う人は是非チャレンジしてみてほしい。
余談:ファブリーズを詰め替えて持ってきてたのだが案の定、焼肉臭のする荷物や衣類を消臭するのに役立った。
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Yui Horiuchi
東京を拠点に活動するアーティスト。幼少期をワシントンD.C.で過ごし、現在は雑誌のイラストや大型作品まで幅広く手掛ける。2015年に発表した「FROM BEHIND」は代表作。自然の中にある女性の後ろ姿を水彩画で描いた。自然に存在する美や豊かな色彩を主題にする彼女の作品は海外でも評価されている。